第5話
ここはどこにでもあってしまうゴブリンの集落。
巨体の上位個体が長として治める最近発見されたばかりのものだ。
その集落に異変が起きる。
「ウォータ・ドミナント」
集落をぶらぶらと歩いていたゴブリンの全身から血が噴き出る。
その匂いにつられて集落からわらわらとゴブリンどもが集まってくる。
一匹また一匹と仲間の死体に近づくゴブリン。
「コンフューズクラウド」
瞬間、黒い靄が立ち込める。
靄が晴れた時そこにあったのは仲間同士で殺し合いをするゴブリンの姿。
数分後、数十匹規模のゴブリンの集落は長である上位個体を除き全滅していた。
生き残ったその個体も消耗が激しく突如起きた混乱の脅威が伺える。
そして上位個体が疲労と安堵で油断しきった瞬間を今回の下手人は見逃さなかった。
「ダークピラー」
突如、個体の影から棘が生まれその巨体を貫いた。
「これで討伐完了。どう、フィリル?条件は完璧に満たしたけど」
ゴブリンたちは知る由も無かっただろう。この下手人がわずか五歳の人間だったとは。
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たった今この領で討伐依頼が出されたゴブリンの集落の掃討を完了した。
「ゴブリンに一切気付かれることなく、環境に被害が出るような大規模魔法も使わなかったよ。これで今後も引率付きなら討伐に出かけてもいいよね」
「はぁ・・・そうですね。約束ですから認めざるを得ません。ご両親にどう説明すれば・・・」
しぶしぶといった様子でフィリルが返事をする。
さて、俺がこんなことをしているのはついこの間にあった五歳の誕生日に言ったことが原因だ。
誕生日のプレゼントとして何でも願いを一つ叶えてくれると両親が言ってくれた。
いわく高価な魔道具や珍しい魔導書など伯爵家の権力で得られるものならばなんでもいいと。
そこで俺がねだったのは魔物の討伐のための外出許可。
最近は魔法も全属性まんべんなく使えるようになったことで自分の成長が実感しづらく感じてきた。一応剣術や体術も館に勤めている騎士に教えてもらったりしているが最低限近接もできた方がいいからという程度だ。
まあ魔力で肉体を強化しているといってもまだ五歳だからな。どんなに大きい数字をかけたって土台の数字が小さくては効率が悪い。
フィリルと手合わせするという方法もなくはないがいかんせん彼女とはまだ実力がかなり離れている。そのうえとてつもなく手加減が下手なのだ。
フィリル曰くもう十年もすれば私を追い越すでしょうとのことらしいが俺はもっとその過程を早く、そして楽しく過ごしたいのだ。
そんなわけで提案したのだが当然両親は猛反発。
理由を言っても一切首を縦に振る気はなかった。
だがここで引き下がるほど俺は殊勝じゃない。
なんでも願いを叶えると言ったじゃないか、と子供ように駄々をこねまくり何とか条件を引き出した。
その条件とは最近見つけたゴブリンの集落を敵に一切気取られることなく大規模な魔法も使わずに全滅させること。おまけに使っていい属性は二つまでだ。
この条件をクリアしたらフィリルの監視付きの上でこちらの願いを叶えると。
中々厳しい条件だと思ったし抗議もしたがその条件を満たせない程度の実力なら絶対にダメだと言われてしまった。
だが蓋を開けてみればどうだろう。
あら不思議、十分たらずで討伐完了ではないか。
手順は闇魔法で身を潜め、水魔法で敵の体内の水分を操り全身の血管という血管を破裂させ殺害。そこで近寄ってきた奴らに精神干渉の闇魔法を使い同士討ちを起こし最後に残ったやつが油断したところを影の棘でグサリ。
「ね、簡単でしょ?」
「何を言ってるんですかあなたは。簡単なわけないでしょう。そもそも直接相手の水分を操るなんて芸当ができるのが何人いると思ってるんですか。」
「さあ、五歳児にもできたんだし結構いるんじゃない?」
「そんなわけないでしょう。その世代の最高と呼ばれる水魔法使いができればいい方といったレベルですよ。あなたのそれは冗談なのか分かりずらいですよ」
さすがに冗談だ。自分の実力がかなり高いことは分かっている。少なくともゲーム開始時のアルカよりも数倍は強いだろう。
「それにあの同士討ちの魔法、また私に秘密で習得したでしょう」
「だって精神干渉の魔法を教えてって言ったって倫理がどーたらでむしろ止められると思ったから」
「じゃあ、なおさらダメでしょう・・・。だからといって独学で習得できるのがあなたの異常とも言える適正と能力の高さを示しているわけですが。というか私を甘く見ないでください。例え死者蘇生だろうと肯定してみせますよ」
「いやさすがにそれは止めてほしいな」
倫理もなにもかもをぶっちぎって余裕のアウトだそれは。そういう人っていうのは知ってるけどさすがに教師という立場なら注意して欲しさもあるよ。
「で、最後のトドメですがあれは文句なしですね。タイミング、発生速度、威力どれをとっても完璧です。さすがですね」
「じゃ、採点は?」
「100点、合格ですね。さすがに全く危なげなくやられてしまっては不合格にしようがありません」
「それよりもアルカ。平気そうですが魔素酔いなどは無いですか?初めてであんなにたくさんしかも上位種まで狩ったのですからかなりの影響があると思うのですが」
「あー、結構強化された感じはするけど酔うほどではないかなまだ全然制御できるレベル」
「まああなたの制御能力を考えれば要らぬ心配でしたか」
そう、これが魔物討伐を願い出たもう一つの理由。
この世界はRPGがもとになってるだけあって魔物を倒せば倒すほど強くなれる。
なんでも倒した魔物のナニカを吸収して強くなっているらしい、がまあナニカは重要じゃない。
まあ今の俺の状態をゲーム風に言えばレベルが上がったとでも言うのだろう。
実際戦闘前とは比べ物にならないほど強くなったことが分かる。
ちなみにこのレベルが上がった時に体から湧き出てくる魔力が制御できないと魔素酔いというものになり酒に酔った時のような感覚に陥るのだという。
特に魔法使いほど制御能力に長けていない前衛職がなりやすいらしい。
「じゃ、約束だしこれかもよろしくね」
「わかりましたよ・・・。ただし!討伐の時は絶対に私の言うことを聞くこと。これだけは守ってください。じゃないと命を落とすはめになっても知りませんよ」
「了解。別に強くなりたいだけであって死にたいわけじゃないからね」
「頼むから本当に守ってくださいね・・・」
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