第3話
「…今より300年前にこのハイネ王国は建国されました。当時、この土地は今と違い荒れ果てていて…」
俺は今、歴史の授業を受けていた。
庭の木から吊るされながら。
「フィリル、そろそろもどしてくれない?これじゃあ、ぜんぜんじゅぎょうにしゅうちゅうできないよ」
「そうですか、ならまずは吊るされてる縄を焼き切ろうと、火魔法に集中することからやめたらどうです?」
「ぐ、…こんなふうにつるすなんてからだのせいちょうにわるいとおもうんだけど?」
「魔法の方がよっぽど危険ですよ、何せ成長する機会すら失いかねませんからね」
「むー…。ぼくはこれでもきぞくなんだけど?」
「あなたの父親であるシェリフ卿には、後遺症を負わない程度の怪我までは許すと言われています。そもそも伯爵家とはいえ子息に過ぎないあなたと、名誉子爵である私であれば私の方が偉いんですけどね」
「ああいえばこういう…」
え、まじで?嘘でしょ?下手したらこの程度じゃ済まなかったの?
「それは私のセリフです。全く、何度言えば分かるのか…。意欲がないよりはましですけど、あり過ぎるのも厄介ですね…」
「でもさー、そもそもフィリルってまほうをおしえにうちにきたんでしょ?それだったらなんでほかのこともおしえてるのさ?」
フィリル、このハイネ王国にて名誉子爵の地位にあるエルフ。
現在、俺の専属の教師になっている。
俺が生まれてすぐに魔法を使ったという噂を聞きつけて教師に立候補しに来た変人。
彼女のことを一言で表せば珍しいもの好きな自由人。
それでいて魔法は並みの者を軽く凌駕するほどの実力の持ち主。
名誉子爵の地位は数十年前に王国に魔物の軍勢が攻め込んできたのを、一人で全て殲滅した功績によって与えられたそうだ。
そんな彼女だがゲーム内にも登場していた。
それも主人公の師匠キャラとして。
ゲーム内の彼女は主人公にある光属性への適性という珍しさから、魔法限定ではあるが師事してくれるイベントがある。
ちなみにだが、アルカには光属性の適性があり、なおかつそれに匹敵するといわれる闇属性もあるのだが。
それについてゲーム内で聞くと、「闇属性は私が使えますし、なにより彼の性格が気に入りません」と返される。
うーん、残当。
しかし、ゲーム内でも教えてくれたのは魔法だけでこんな風に歴史の授業なんてしなかったはずだが…。
「あのですねー、前にも言いましたけどこのハイネ王国では貴族の子息たちは十二歳になると皆ルイニッヒ魔法学院に通うんですよ」
「しってる。でもそこってまほうをまなぶためのところでしょ。それとあと、こねづくり。フィリルがれきしをおしえるのに、なんのかんけいがあるのさ?」
「はあ…"学院"ですよ。確かにメインは魔法や貴族同士のコネクションを築くことですが、それでも貴族として恥ずかしくない程度の教養も学ばされます」
「えーっと、つまり?」
「歴史などの一般教養も私が教える契約になってるんですよ…。」
「でも、ぼくってせいせきいいじゃん」
「まあ、確かにあなたの学力なら今すぐ入学することになっても大丈夫そうですけど…」
そりゃそうだろう。中身は見た目と違ってそれなりに成熟してるんだ。
算数なんて間違える訳がないし、文字の読み書きだって吸収のはやい子供の脳みそと前世の理解力があって英語を覚えるよりも遥かに簡単だ。
懸念点であった歴史などの暗記科目も、この世界がゲームをもとにした世界だと知っていれば参考書など設定資料集にしか見えない。
お陰で楽しく学ぶことができ、三歳児の学力としては異常なレベルだろう。
しかしそれではまだ足りないのだろうか。
「あー、今魔法をおしえられないのと学力は正直言って関係ないんですよね。」
「…は?どういうこと?」
「あのですね、魔法の練習は基本六歳から始めるって話は知ってますか?」
「しってる、でもれいがいもあって、もっとはやくはじめるひともいるって」
「…この六歳という年齢は体が魔法の使用に耐えられるようになった子供の平均です。あるとき、貴族の間で子供が死んで家が断絶した、なんて事例が頻発したときがあったんですよ」
「なにそれ…」
「この事例にはある共通点がありまして、死んだ子供、そのほとんどが六歳未満だったこと。そして…」
「そして…?」
「そのどれもが魔法の練習をやらせていたんですよ」
「え?」
「私たちエルフと違って、人間はそこまで魔力との親和性がありません。それこそ、幼いころに魔法を使えば、その負荷に体が耐えられずに死んでしまう個体がいるほどには」
「…そのはなしってほんとうのこと…?」
「ええ、疑うなら書庫の歴史書を読むといいです。今言った話がも少し詳しく書いてあるので」
まじかよ、そんな設定ゲーム時代に聞いたことねーんだけど。
いや、まあ主人公たちの年齢なんて物語開始時点から十五歳だったから、あったとしても知らないのは当たり前っちゃ当たり前だが。
というかそんなに危険な行為だったのかよ!
「え、もしかしておれ、やばい?」
「あ、いえ。あなたは魔力との親和性が人ではありえないというか、エルフでも滅多に見ない程高いので全く問題ありません」
「じゃあ、なんでまほうのれんしゅうがだめなのさ!」
「あなたはただ、魔法の負荷に耐えられるというだけであって、疲労から逃れられる訳じゃありません。幼子というのは常に命の危険があるのです。そんな時期にずっと疲労しているなんて危ないでしょう。病気になんてかかったらころっと死にますよ。そもそもあなたは攻撃系の魔法も練習してるでしょう。あれがもし暴発でもしたらどうするんですか。だいたいあなたは…………………」
あー、また説教だよ。いい加減にしてくれ。
だが、油断したな。
木に吊るして身動き取れなくすれば俺が大人しくしてるとでも思ったかよ!。
魔法は一度コツを掴めば発動が楽になる。
散々時間をくれたおかげで掴めた。
フィリルがこちらへの視線を切った瞬間、火魔法で縄を焼き切り、闇魔法で落下音を殺す。
そして水と闇の魔法の複合で俺の人形をつくる。
水で形を作り闇で認識を誤魔化す。
この前かくれんぼをしたときフィリルが使ってきた技だ。
魔法を絡めた遊びと聞いてわくわくした俺の気持ちを一瞬で冷ました大人げない魔法。
魔力感知を鍛えるだのなんだの言っていたがそれを話していた時の顔は間違いなくこちらをおちょくっていた。
というか子供との遊びでどや顔しないで欲しい。
まあ、悪いと思ったのか仕組みを教えてくれたが。
精々自分の魔法に欺かれるがいいさ!
俺は退屈な説教から逃げて自由を得ることに成功した。
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