第138話トルマクル大森林
敏捷のステータスは僕も上げたいと思っていたけど伸び悩んでいるやつだ。できることなら強化させたいとステータス。
確かソードフィッシュのように俊敏な魔物を狩れば俊敏のステータスをアップできるはず。
「ここで狩りをする魔物は何ですか?」
「ドランクモンキー。ランクDの魔物になるが、十頭ぐらいのグループで行動するため戦闘は複数を相手にしなければならない」
森だから猿の魔物ぐらいいるか。ランクDなら一対一の戦いは僕に分がある。ただ、十頭に囲まれたらさすがに厳しいだろう。
木々が生い茂り、緑が濃いこの場所はドランクモンキーのホームであり、上下左右を確認しながら戦わなければならない。
猿の魔物なら木の上を身軽に移動しそうだし、木や枝に隠れてこちらの隙を窺うぐらいはしそうだ。
「今夜は森の手前で野宿する」
「森から離れなくて大丈夫なんですか?」
「ドランクモンキーは森から出てこない。縄張りと仲間意識が強い魔物だ。それに木の無いところでドランクモンキーに遭遇したとして、彼らの長所が活かされないからな。あと、奴らはマヌルグの木が好きで離れられないんだ」
「何ですか、そのマヌルグの木って」
「この森に生えている木の多くがマヌルグの木だ。ドランクモンキーはそれをかじったり、舐めて悦に浸る。だいたい枝を手に持って移動しているな」
「木が好きなんですね」
「木に含まれる魔薬成分にドランクモンキーを興奮させる効果があるようだ。我々には効果はないから安心していい」
つまりあれか。ヤバい薬があるからこの森を離れられなくて、ヤバい薬を守るために縄張り意識も高く、仲間と一緒に大事に守っているということか。ヤバい魔物だな……。
ウィッキキキー、ウィッキキキィィィ!
森の方向から猿のけたたましい叫び声が響き渡る。
「この声はドランクモンキーですか?」
「ああ、こちらに気づいているが、声で威嚇するぐらいしかできない。ただ、ステータス上ではニールより俊敏性は高いぞ」
「なら、いっぱい倒せば俊敏のステータスが上がりやすいですか?」
「そうなるな。ただ、この森ではよほどのことがない限り手助けをしないから自分の身は自分で守れよ」
「はい。それで、僕がやることはひたすらドランクモンキー退治ですか?」
「奴らの縄張りをすべて奪い去れ。そうだな、森の中腹ぐらいまで行ったら特訓は終了しよう」
「わかりました」
数を倒していくのは大変だけど、ランクDはジャイアントトードと同じ危険度。それでいて俊敏性の高い魔物ということを頭に入れておこう。スピードが速い分、他に弱点があるからランクDなのだと思う。
弱点については戦いながら探っていくしかないか。まあ、ジョーカーさんが教えてくれることはないだろうしね。
リンドンシティ周辺は魔物の数が少ないエリアらしいけど、ジョーカーさんがわざわざこのトルマクル大森林まで僕を連れてきたのには何かしら理由があるはずだ。
遊撃ポジションとして僕に必要なものを得る何かがここにあるということ。
現状ではそれが何なのかはわからないけど、ドランクモンキーと戦うことで理解できるはずだ。
ウィッキキキー、ウィッキキキィィィ!
ウィッキキキッキッキキー!
「結構うるさいですね」
「そのうち慣れる」
「そういうもんですか」
「ああ」
その日の夜はジョーカーさんが焚き火から料理まで全部やってくれて、僕は身体を休ませてもらった。もちろん、小枝集めとか簡単なお手伝いはしているよ。
もっと厳しい感じなのかと思っていたけど、意外に面倒見のいい人の可能性も出てきた。料理の腕前もかなり上手だし、それでいてカルメロ商会の支店長でお金にも余裕がある。あと元Bランク冒険者で力が強いときた。
この人、絶対にモテるな。優良物件過ぎる。言葉数の少ないクールさもそれはそれで女子受けが高そうだ。うらやましいな。
まあ、いい。そのあたりは僕には縁のないことだし、今は明日に備えて早めに就寝するべきだろう。
お腹もいっぱいになったし、これでぐっすり眠れたら言う事はない。
しかしながら、とても残念なことにドランクモンキーの叫び声があまりにもひどくて眠れなかった。
何で森の近くで野宿をしなければならないのか。
いや、よく考えたら明日から森の中で野宿するのか……。周りをドランクモンキーに囲まれてる中で?
つまりは、今日この場所での野宿は少しでもこの叫び声に慣れるためという可能性が出てきた。
明日から僕はちゃんと寝れるのだろうか。
ウィッキキキー、ウィッキキキィィィ!
「ね、寝れるかー!」
「うるさい。早く寝ろ」
「あっ、はい。すみません」
ジョーカーさん普通に目を閉じてるけど、この叫び声の中、何で普通に寝られるの?
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