第137話ジョーカーさんの特訓

 翌日からジョーカーさんによる個別特訓が開始された。


 ちなみに、あの後どうなったかと言うと。


 結論から言うと、流石に地獄の轟炎をマポーフィックが掛かっているとはいえ、直撃は危険と判断したキャットアイが間に入って弾いてみせた。


 これには僕もジョーカーさんもケルベロスもびっくり。とりあえずは引き分けということになったけど、召喚石を使用した時点で僕の反則負けだろう。


 それにしてもケルベロスの召喚石は想像以上に使える代物だった。魔物だけに意思疎通の面でちょっと怖いのは間違いないけどそれ以上に役に立つ。


 やはりランクAの魔物は強い。召喚石は使い切りだったので、また手に入れる機会があるなら全力でお金を注ぎ込むべきだろう。


「さて、まずはその体力不足をどうにかしながら技術力を磨いていく必要がある」


 遊撃ポジションでは運動量が多くなるし、前衛と後衛どちらのフォローにも入れる能力が必要になる。そのあたりをまんべんなく鍛えていこうということだ。


「はい、ジョーカーさん」


「じゃあ、いくぞ」


 どこに向かうのかいうと、リンドンシティから少し離れたトルマクル大森林という場所でサバイバルをする。実戦の中にこそ成長があるのだ。


 魔物を倒すことで魔素からの成長も期待できるからね。


 せっかく久し振りにベッドで寝れると思っていたのに、リンドンシティ二日目にして野宿に戻ってしまうとは。いや、馬車で眠れる野宿よりもさらにひどい本当の野宿がはじまる。


 インベントリの中は食料と調理器具が中心になっている。そして、残念ながらサバイバルに行くのは僕とジョーカーさんの二人だけだ。


 あんな戦いをした後なので、ちょっとだけ気不味い。肩の怪我はアドリーシャのおかげで治っているけど、マジックリングで隙をついての攻撃からの突きだっただけに少し申し訳ない気持ちがあるのは確かだ。


 少なくとも一か月以上は二人きりでサバイバルをする。最初から気を使いそうな展開にちょっと戸惑っている。


「装備は外していい。トルマクル大森林まで走るぞ」


「ジョーカーさんの装備は?」


「私のは問題ない」


 インベントリにしまってあげようかと思ったんだけど気にしなくていいとのこと。街周辺はある程度安全とはいえ、さすがに二人とも無防備なのは危険だと判断したのかもしれない。


「近くに森は見えませんが、トルマクル大森林というのはここからどのぐらい離れているんですか?」


「馬車で三日だ。今から走れば今夜には着くだろう。それまで食事休憩はないから頑張れ」


「はい」


 馬車で三日の距離というのは結構離れている。それを一日で辿り着けと言っている。


 異世界召喚前の僕だったら最初から諦めていたけど、Dランクになった今では頑張れば十分に可能性のある距離と思えてしまうのが、僕も異世界に慣れてきたということだろう。


「ペースは任せるが、あまりにも遅いようなら注意する」


「はい」


「それから、走りながら遊撃ポジションについての講義をするから脳はちゃんと動かしておけ」


「はい」


 そうしてスタートしたランニングだけど、思っていたほどつらくはない。やはり、ステータスが向上している分、身体が動くようになっているのがおおきい。


 そんな僕の余裕そうな様子を面白く思わなかったのだろうか。後半は講義とともに小石や木の枝による攻撃を受けている。


 これは、いじめなのだろうか。


「あうっ、いた、痛いです」


「これぐらい避けてみせろ」


 すぐに音を上げると思われたランニングを割と普通にこなしてみせたことで追加メニューが発動してしまった。


 少し疲れた振りをしようかとも思ったけど、嫌な予感がしたのでやめておいた。そもそも、これは特訓なので多少の理不尽は受け入れるつもりでいなければダメだと思っている。


 何だかんだスキル頼りでここまで来てしまったけど、しっかりと基礎を固めておく必要はあると常々感じていた。


 大盾も何となくで扱っていたし、剣の扱いなんて見るからに素人丸出しだろう。せっかくいい武器を手に入れたのだからしっかり教えてもらえるのならちゃんと学びたい。


 そんなことを考えていたら、ようやく視界に大きな森と思える緑色が入ってきた。


「ジョーカーさん、トルマクル大森林って」


僕が指差すと、ジョーカーさんは頷いた。


「ああ、あれがトルマクル大森林だ。それにしても、意外に持久力ステータスが高かったのか。もう少し苦戦すると思ってたんだが」


 知ってる。こういう特訓って最初にガツンと叩いておくのが通例だからね。異世界でマラソン大会とか聞いたことがないので、こちらでは一般的に長距離の走り方とかを知らないのかもしれない。


「一応、確認のためにステータスを見せてくれるか?」


 冒険者ランクD

ニール・ゼニガタ 男 十七歳

 体力D、筋力D、耐久C、敏捷D、持久力D、魔力D、知能B

 魔法適性 火D、無属性(発火、注水)


 今回の訓練においては、防御よりの遊撃ポジションについて学ぶことになるそうだ。うちのパーティには攻撃的な遊撃ポジションの猫さんがいるから、そちらとのバランスも必要になる。


 もちろん、ただ守るだけではない。サッカーで言うならば守備的MFのようなボランチの役割を求められているのだろう。


 相手の攻撃の芽を摘み、前線に飛び出す動きもあれば、後衛に下がって守りをしっかり固める動きもある。


「なるほど。敏捷のステータスをもっと上げていかないとならないな」


 はい。僕もそのステータスが早く上がってほしいと思ってます。

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