第139話マヌルーの粉

 特訓初日から寝不足だ。言うまでもなく、ドランクモンキーの叫び声のせいだ。


 少し我慢していたら大人しくなるかと思っていたら、普通に朝まで騒いでいた。君らも寝不足だよね? それとも、仲間と連携して休んでいたのか?


 いや、たとえ休んでいたとしても、すぐ近くでけたたましい叫び声が聞こえていたら休むことなど無理だろう。森から離れたここよりももっと酷いはずだ。


 ドランクモンキーはこちらの存在をわかっている。昨日の夜からずっと興奮状態が続いていた。あれっ、興奮状態……。まさか、魔薬パーティーで盛り上がっていたというわけではないだろうな。


 あれだけ騒いでいたら近隣の縄張りからもクレームが来かねない。うるさくても気にならないくらい気分上々な状態で夜通しキメていた可能性が出てきた。


「何を考え込んでる。そろそろいくぞ」


「あっ、はい」


「動けるか?」


「大丈夫だと思います」


「森に入ったら食料とかを奪われないようにインベントリで拠点をつくってくれ」


「食料はインベントリに入れておけば安全ですよ」


「ドランクモンキーを舐めるな。群れで来られたら普通にやられるからな。使える武器は全部使って生き残ってみせろ」


 生き残ってみせろとは、また大変そうな言葉をかけられたものだ。本当のピンチの時は助けてくれますよね?


 いや、そういうのは考えるのをやめておこう。これは特訓。甘い考えは捨てて頑張ろう。


 トルマクル大森林に入ると、至るところから無数の視線を感じるようになる。これ全部ドランクモンキーなのだろうか。


「このあたりでいい。食料を全部出して周りを囲んでくれ」


 ジョーカーさんは食料の奪われないように拠点を守っているらしい。


「僕は奥に進めばいいですか?」


「なるべく走り回っていた方がいい。最初は絶対に複数を相手にするな。逃げながら個別撃破していけ」


「わかりました。では、行ってきます」


 森の中へと進むにつれて、再びドランクモンキーの叫び声が聞こえてくる。昨日から聞いていた叫び声とは少し違って、何かしらの情報のやりとりをしている感じに聞こえなくもない。


 叫び声のする方向へと進んでいるけど、それはそれでドランクモンキーに誘導されているような気がしてなんか嫌だ。


 アドリーシャやアルベロがいてくれたら、魔力感知でどう進めばいいかを教えてくれる。しかしながら、この場には僕一人だけ。


 ルイーズなら、そのスピードで叫び声の場所まで一気に乗りこんでかき回してからにげつつ個別指導撃破かな。


 キャットアイなら、普通にまっすぐ進んで一人で全部倒しそうだ。まったく参考にならない。


 僕の場合の正解は何だろうか。


 遠距離は魔法のスクロールとマジックリング。近距離はマジカルソード。あとはインベントリの機能をどう使うか。


 やはり、インベントリをどう使うかで立ち回りも変わってきそうな気がする。


「木をインベントリに入れてみようか」


 手に触れた目の前の大きな木をは容量オーバーのためインベントリには入らない。


「だめか。これが可能なら木の上にいるドランクモンキーを下に落とすことも可能かと思ったんだけどな」


 木の上にいたとしても、突然その木が無くなってしまえば下に落ちるしかない。驚いて落下してきたドランクモンキーを倒そうと思ったけどそう上手くはいかないらしい。


「せめて、木を倒すぐらいはできないのかな」


 下の土をインベントリで取り除くと、木は普通に倒れた。ただ、木が突然消えるわけではないので、倒れる木とともにドランクモンキーも隣の木などに移動しそうだよね。


 場は混乱するかもしれないけど、それだけだ。障害物が増えてしまうのは僕にとってはマイナス要素になりかねない。何せ俊敏性は向こうの方が上なのだから。


 インベントリの基本性能として、手に触れた物を容量内であれば入れることができる。レベル二に上がったことで容量は増えているものの、さすがに大木は入らない。小さな木はいけると思うけど、細い枝の木にわざわざドランクモンキーが登るとも思えない。


「まあ、試しに小さな木を入れてみようか」


 やはり、サイズに応じてインベントリに入れることは可能だった。


 マヌルグの木をタップすると

 →材木

 →木の皮

 →小枝

 →マヌルーの粉

 →葉、実、その他


 材木を取り出してみると、ホームセンターでよく見かけるような角材となっていた。これはこれで商売に繋がりそうだ。


 木の皮や小枝については使い道がよくわからないけど、乾燥しているので着火剤代わりになるかもしれない。


 葉や実は置いといて、マヌルーの粉というのが単独で項目分けされていた。


 おそらくはドランクモンキーが喜ぶ代物、純度百パーセントの粉とみて間違いない。


 森の中は所々にマヌルグの小枝を噛んでは、しゃぶり尽くしたような残骸がそこら中に落ちている。


 つまり、基本的にドランクモンキーは小枝からマヌルー成分を摂取しているということだ。


 もちろん、木の皮をめくったような跡も残っているので使用方法についてはそれぞれなのかもしれない。ただ、どちらも木を噛んだり舐めたりということには変わりはない。


 そうなるとこの純度百パーセントのマヌルーの粉というのはドランクモンキーにとってかなり強烈な薬になることが想像できる。


「これはこれで武器になるのかな……」

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