第133話アナスタシア
リンドンシティ冒険者ギルド長のアナスタシアさんは冒険者時代にジョーカーさんとキャットアイと臨時のパーティを組んでAランクの魔物トロールを撃退したことがあるそうだ。
「あの時は面白かったにゃ」
「いや、いや、いや、三人とも死にそうになってたじゃないですか」
キャットアイのその言葉に秒で反応したのはアナスタシアさんだった。
懐かしい友に会った冒険者仲間といったところなのだろう。バルドル盗賊団の件がようやく解決になりそうということで、仕事の合間に抜けてお礼に来てくれたのだ。
当時、BランクのキャットアイとCランクの二人で際どく倒したらしい。
「お茶をお持ちいたしました」
「何でそんな他人行儀なのだジョーカー。お前も一緒に飲めばいいだろう」
「カルメロ会長から客人を丁重にもてなすように言われております。ここで私が仕事をせずにお喋りするわけには参りません」
「それは私へのあてつけか。まあ、でも、カルメロ商会が集めてくれた情報でスリーズモンド商会と関係のある商会も無事に摘発できそうだ。本当に感謝しているよジョーカー」
「別にアナスタシアのためにやったことではない。キャットアイ様からの指示があったから動いたまでだ。礼を言うならキャットアイ様に言え」
そう言って、そっぽを向きながら席についたジョーカーさん。まあ、面倒を見るパーティメンバーは全員この部屋にいるし、アナスタシアさんがやってきた時にキャットアイから同席するように言われているんだよね。
「相変わらずだな」
「ふんっ」
「キャットアイさんは、いつリンドンシティへ来られたのですか?」
「少し前にゃ。街に来たら凄い騒ぎになっていたから、とてもわくわくしたにゃ」
「わくわくって……キャットアイさんもいつも通りですね。こちらの方々が今のパーティメンバーなんですね」
「アルベロにルイーズ、ニールと聖獣のルリカラ、あと臨時メンバーで聖女見習いのアドリーシャにゃ」
キャットアイがアナスタシアさんに順番に説明してくれる。
「聖獣に聖女見習い!?」
まあ、驚くのはそこなのだろう。聖イルミナ共和国において聖獣と聖女は特別なものだからね。
「はじめまして、ニールです」
「あ、あの、よろしければ聖獣様に触らせていただくことは可能でしょうか?」
ルリカラに確認してみると、頭と翼の付け根あたりを頼むとのことだった。マッサージか何かと勘違いしている可能性はあるけど、触らせてくれるのならアナスタシアさんも喜ぶだろう。
「頭と翼の付け根あたりをかいてもらいたいようです」
「な、何と。相分かりました」
アナスタシアさんはそっとルリカラの頭をそっと撫でると、大丈夫だと判断したのか翼の付け根をゴシゴシとかいていく。
ルリカラも最初はビクビクと緊張気味だったものの、すぐに気持ちよさに目を細めてリラックスモードに入っていった。何だかんだ言って強がっていたようだ。
聖都に行ったらもっとこういう機会が増えるだろうから、本人なりに慣れようとしているのかもしれない。いい子だ。
それから十分にもふもふを堪能したアナスタシアさんは心が満たされたのか、僕にルリカラを渡すと席を立ち上がった。
「さて、それではそろそろ行こう」
「もう少しゆっくりしたらいいのにゃ」
「残念ながら冒険者ギルドはいまだかつてない忙しさのため、ここで休憩していたことがバレたら部下に怒られてしまいます」
「そうなのにゃ」
「ですので、落ち着いたらまた遊びにまいります」
「了解にゃ。三ヶ月はここに滞在してるからいつでも来るといいにゃ」
三ヶ月の滞在。それは昨日パーティの話し合いで決まったことだ。みんな新しい武器や属性付与などで新装備に慣れるための時間を少しとるべきだろうということになった。
ただそれは口実であって、僕に遊撃ポジションの特訓をさせたいらしいということがわかった。ジョーカーさんが先生になってくれるそうで、キャットアイとのバランスを考えた立ち回りについて勉強することになった。
アドリーシャ特訓の時も僕はほとんど彼女の補佐役で参加してなかったし、マジカルソードを使った特訓をもっとするべきだとは自分でも思っていた。
これは僕がパーティにもっと貢献できるために必要な訓練になると思っている。
「さて、邪魔者はいなくなりました。ニール、まずは手合わせからやりましょうか」
「わ、わかりました」
ニール様と呼んでいたジョーカーさんが、僕を呼び捨てにしている。師として、厳しく接しようとということなのだと思うのだけど、何だか本気の目をしている気がして少しこわい。
ジョーカーさんって、言葉少ないタイプだから、何を考えているのかわからないところがあるんだよね。
カルメロ商会リンドンシティ支部の裏庭はかなり広めな訓練場となっている。これはリンドンシティに囲い込んでいるカルメロ商会が契約している冒険者に貸し出していたり、商会でもジョーカーさんのように元冒険者の方が体を動かしたりしているそうだ。
「何を使用しても構わないので全力で来なさい」
「何でもありですか。でも、それだと……」
「私の冒険者時代の最終ランクはB。やめたと言ってもそれほど時間も経っていない。例え変則的な戦い方をしたとしても、私に触れることもできないでしょう」
所詮はランクDの駆け出し冒険者なのだろうと言っている。それならば僕も全力を出そう。Bランク冒険者相手にどこまで通用するのかを試すチャンスなのだ。
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