第132話スリーズモンド商会

 上手くいったのか、大柄の男性が喚き散らしているのをジョーカーさんが取り押さえつつ、冒険者ギルド長のアナスタシアさんが他の商会の責任者を引き連れて倉庫へとやってきた。


「あれがスリーズモンドみたいにゃ」


「ここまでは予定通りだね。問題はあの人たちをどうするかだね」


 ジョーカーさんの誘導が上手くはまったらしく、スリーズモンドを連れて商会の倉庫までやってきた。


 問題は倉庫にいるスリーズモンド商会の用心棒たちだ。場所が街の中だけに対処が厄介なのは間違いない。


「おいっ、お前ら早く俺を助けろ! それからこいつらを絶対に倉庫に入れさせるなよ」


 その声を聞きつけて、二十名近くの荒くれ者が出てくる。


「どうしたんですかボス」

「こいつらをやっちまえばいいんですかい?」


 このあたりで分が悪いと判断したのか、巻き込まれるのを恐れたスリーズモンド派の責任者たちも保身に走る。


「ちょっと、持ってください。スリーズモンドさん、我々は関係ないでしょう」


「うるせぇー、黙ってろ!」


「も、もう、付き合ってられるか」

「わ、我々はここで失礼させてもらう!」


 さすがに商会の人だけに切り替えもはやい。しかしながら、ジョーカーさんがスリーズモンド商会との繋がりをある程度押さえているのでまったくの無傷というわけにはいかないはずだ。


「おいっ、ジョーカー。今なら冗談で許してやる。今のお前の給料の三倍、いや五倍を出してやるから今すぐ俺の配下に入れ。どうせ金なんだろ。お前だって元冒険者なんだからな」


「申し訳ございません。尊敬できる方の下以外で働くつもりはございませんので」


「……くそがっ! お、お前ら、やっちまいな!」


「ジョーカー、私の後ろに下がれ」


 荒くれどもの前に一歩出たのは冒険者ギルド長のアナスタシアさんだ。


「いえ、私も前に出ましょう」


「いや、スリーズモンドは……。っと、さすがに仕事が早いな」


 いつの間にか縄で全身を縛り上げられたスリーズモンドが横たわっている。これを人質として荒くれ者を下がらせる手もあるかもしれないけど、そんなことはせずに二人は前に出ていく。


「こうして共に戦うのは久し振りだな。そういえば、あの時はキャットアイもいたか」


 どうやら猫さんとも知り合いらしい。


「呼んだかにゃ?」


「キャットアイ!? 戻っていたのか!」


「指示があれば僕たちも助太刀しますが、いかがいたしましょう?」


「君たちは?」


「自分のパーティメンバーにゃ。たまたま通りがかったにゃ」


「たまたま……か。すまないが助太刀を頼めるか。そこの荒くれ者共を倒してスリーズモンド商会の倉庫を立入検査する!」


 アナスタシアさんはジョーカーとキャットアイを交互に見ながら笑みを浮かべている。


 こちらの計画にも全て気づいたというところだろう。


 アナスタシアさんとジョーカーさん、そしてキャットアイの三人が前に出て我先にと荒くれ者を倒していく。


 残された僕たちは周りに応援が駆けつけてこないかを注視しつつ、各々が出来ることをしていく。


「アドリーシャ」


「わかっております。マポーフィック」


「ルイーズ、一人逃げ出そうとしてるわ」


「うん、任せてー」


 形勢が悪いと判断した荒くれ者が逃げ出そうとするも、すぐに個別撃破していく。下手に逃げられて助けを呼ばれるのは面倒だ。


 今はスピード重視でスリーズモンドの証拠を確実に押さえる必要がある。


 大通りからは少し離れた場所ではあるもの既に何事かと人が集まりはじめている。


 人が集まればすなわち証人が増えるということ。これでスリーズモンドも下手な手は打てなくなっただろう。もはや、諦め顔ではあるけど。


 そうこうしている間にアナスタシアさんが最後の荒くれ者を無力化していった。


「倉庫へ入る。ジョーカー、キャットアイ共に私の証人として同行を求める」


「ええ」

「任せるにゃ」


「申し訳ないが、各商会の責任者にもご同行願う。これは冒険者ギルドによる強制調査である。それから、君たちは……」


「入口を封鎖しておきます」


「かたじけない。よろしく頼む」


 ここまでくればもう大丈夫だろう。実際には税関の書類リストだけでも罪に問えるレベルの失態だ。現物まで見つかればバルドル盗賊団との確たる繋がりとして立証できるだろう。



 それからしばらくしてアナスタシアさんを先頭に再び戻ってきた。多くの積荷と一緒にジョーカーさんが大事そうに持っている小さな箱が見えた。


 おそらくはあれが聖女様に依頼されたという刻印入りのミスリル宝石なのだろう。


 同行したキャットアイが親指をぐっと突き立ててみせる。最近うちのパーティで流行しているグッドポーズである。もちろん、僕がよくやっていることから流行ってしまったポーズだ。


それを見てうなだれているスリーズモンドを見る限り処罰は免れないだろう。あとはスリーズモンド派の商会をどこまで引っ張れるかだろう。

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