第131話商会と冒険者ギルドの会議

■■■カルメロ商会リンドンシティ支店長 ジョーカー視点


 バルドル盗賊団はキャットアイ様の言う通り投降という形でリンドンシティにやってきた。


 何をどうやってあの短期間に内部分裂を引き起こし、バルドルを生きたまま捕らえ連れてくるなんてことが可能なのか。事前に聞いて知っていたこととはいえとても信じられない光景だった。


 単純に盗賊団の内部分裂ということになっているが、その実はキャットアイ様のパーティが動いてのことだというのは私しか知らないことになっている。


 朝から冒険者ギルドはもちろん、各商会も慌ただしく動いている。たった一日とはいえ、事前に動いていたカルメロ商会だけは、情報収集ではなく、仲間内の商会関係者への調整や連携を中心に動くことができた。


 それはスリーズモンドも同様なようで、火消しのために傘下の商会や小規模の商会に対して金銭による票集めに動いているようだった。


 まあ、スリーズモンドは情報収集する必要がないのだから当たり前といえば当たり前か。


 カルメロ商会としてはスリーズモンドの動きが大きくならないように、いち早く会議を開かせるしか手はなかった。



「おいっ、ジョーカー。まさかお前までもスリーズモンドが裏で手を引いていると疑っているのではないだろうな」


「さて、どうなのでしょうか?」


「ふんっ。いいか、ここで冒険者ギルドにデカい顔をさせるわけにはいかねぇ。リンドンシティは商会がまとめてきた街だ。ギルドの意見には何一つ賛成するんじゃねえぞ」


 大手の商会責任者が十名、そして冒険者ギルド長のアナスタシアで合計十一名。


 ここでの話し合いによって、すべてが決められていくことになる。さて、では招集をかけた代表としてご挨拶をしましょうか。


「みなさん、急な呼び出しにも関わらずご出席いただき誠にありがとうございます」


「まったくだぜ。まあ、ジョーカーがうちに気を使って会議の場所を近くにしてくれたからまだいいけどよ。こっちは元冒険者の盗賊団のせいで大打撃じゃねぇーか。なあ、アナスタシアよぉ」


「その盗賊団が、支援物資や襲う馬車の情報までもスリーズモンドからの手引きだと言っているのだが、これはどういうことだ?」


「おい、おい、おい、聞いたかよ。これだから若い姉ちゃんはどうしようもねぇな。お前は盗賊の言う事を信じるってぇーのか! 笑っちまうなぁー、おい。舐めたこと言ってんじゃねぇーぞ」


 まあ、予想通りの展開だ。証人は盗賊本人で、物や馬車に関してもバルドル盗賊団に盗まれたものだと言われればそれまでなのだ。


「しかし、盗賊の話している内容に間違いはなかった。自らの罪を償うために協力してくれている。バルドル盗賊団の複数ある拠点の位置もすべて把握した」


「それで?」


「彼らが乗ってきた馬車も乗員もスリーズモンドの物であったし、そもそも嘘を付く理由がない。彼らはバルドルを捕まえて投降してきたのたぞ」


「馬車ねぇ。あの馬車は確かにうちの商会の馬車だが、以前バルドル盗賊団に盗まれたものだ。綺麗な状態で戻ってきたのはありがたい。あの馬車も乗員もうちのだから手を出すなよ」


 スリーズモンドならそういうだろうと思っていた。これを切り崩すには、バルドル盗賊団とスリーズモンドの確かな繋がりを証拠として提出する必要がある。


「貴様、しらを切るつもりか!」


「何を言っているかわからんな。こっちは元冒険者による盗賊団の被害者だと言ってるんだよ。今日は冒険者ギルドが、どんな保証をしてくれるのかを聞きに来たにすぎねぇんだけどなー」


「何だと!」


「これだから、元冒険者っつうのは嫌なんだ。頭が悪いのか、すぐに人の物を盗めばいいと思っている。おっと、ジョーカー。お前さんも元冒険者だったな。すまねぇ、すまねぇ」


「いえいえ、気にしておりませんよ。ここまでの話をまとめさせていただくと、盗賊が話していた内容については信用ならず、物資も馬車も盗まれた物であるということでよろしいですか」


「そうだ。盗まれたものは全て返してもらわねぇとならねぇ。なあ、みんなもそう思うだろう。ここ数年、俺たちはずっと盗賊団の被害にあってきたんだ。元冒険者のな!」


「盗賊団が所持していたものについては被害状況に合わせて、その取り分を分配させてもらうつもりだ。何故か、大手であるスリーズモンド商会の被害が一番少ないのだがな」


「スリーズモンドは大手だから細かい被害について、わざわざ冒険者ギルドに報告なんてしてねぇんだよ」


「アナスタシア、バルドルは何か言っておりましたか?」


「それが、まだ何も話そうとしないのだ」


「そうでございますか。それでは、カルメロ商会はここに今回の件についての重要な証拠を提出いたします」


「はああ!? 重要な証拠だと!」


「これはスリーズモンド商会からリメリア王国へ向けた輸出品のリストなのですが、何故かそのリストの中にカルメロ商会が盗賊団に奪われたミスリル宝石が含まれているようなのです」


 輸出品はリストと製品をチェックするため積み込みの前に事前の申請が必要になる。今回はそのリストを無断で持ってきてしまっている。


 まあ、これは普通に法律違反になる。罰金は免れないだろうが、さすがに一日しかないと、この証拠ぐらいしか手に入れられなかったのだ。


「おいっ、ジョーカー、てめぇ、どこでそんなものを! い、いや、そんなわけねぇだろ。うちでもミスリル宝石の取り扱いはしてる。リストの名前が一緒だからって勝手に疑ってんじゃねぇぞ」


「実はこちらのミスリル宝石ですが、聖都ルーンにおります聖女様に依頼されたものでございまして、台座には聖女様の刻印も彫っております」


「な、何だと!」


「今日ここで会議を提案したのもですね、スリーズモンド商会の倉庫が近いからなんですよ。スリーズモンドさんが違うと言っているので、多分うちの間違いなんでしょうけどね」


「いや、ちょっと、待て」


「どうせならみなさんで倉庫の荷物を確認してみませんか。そうすればはっきりすることですし」


「おいっ、ふざけるな! そんなことは絶対に許さん」


「でも、盗賊団に盗まれたミスリル宝石がスリーズモンド商会にあるわけないですよね。アナスタシア、こちらはカルメロ商会が以前に提出しました被害届の資料でございます」


「ああ、確かに覚えている。聖女様からの依頼品だったからな。この場にて宣言する。冒険者ギルド特権により、これよりスリーズモンド商会の倉庫内を調査させてもらう」


「て、てめぇー、ジョーカー! やりやがったな! おいっ、お前ら、倉庫に誰も入れさせるな、いいか!」

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