第130話ジョーカー
■■■カルメロ商会リンドンシティ支店長 ジョーカー視点
冒険者時代に同じ遊撃ポジションを担っていたことから、私のキャットアイ様に対する思いというのは尊敬に近いものがある。
訓練を見る機会がある時は必ず勉強させてもらったし、私の動きを実際に指導してもらったこともある。
そのキャットアイ様が現在一緒に組んでいるパーティが商会にやってきた。いや、正確にはキャットアイ様が先にやってきて、ご挨拶をする時間もないままに様々な指示をされていった。
一応、商会の乗員からだいたいの事情は聞いていたので、私としては救援物資、武器、高ランクの冒険者の手配を進めていた。
いくらキャットアイ様がランクAの猛者だとしても、周りを固めているパーティメンバーがランクCやDと聞いていたので、さすがにバルドル討伐は難しいと考えていたのだ。
「ジョーカー、すまないけど頼みがあるにゃ」
「はい、何でございましょう」
武器なのか、それとも高ランクの冒険者なのか、それとも魔法のスクロールやポーションの類だろうか。
「スリーズモンド商会とバルドルの繋がりについて調べてもらいたいにゃ」
「スリーズモンド商会でございますか」
「商会の馬車を襲っていたのはスリーズモンド商会からの指示にゃ」
「なっ、それは、本当でございますか!」
完全に想定外のことがキャットアイ様の口から出てきた。
「明日にはバルドルを含む盗賊団すべてがここに投降してくるにゃ。ジョーカーはそれまでに商会が有利に立ち回れる情報を集めるにゃ」
「はっ、かしこまりました」
とんでもない話だった。カルメロ商会が他の商会よりも有利に動ける時間は一日だけ。それまでに他を出し抜く徹底的な証拠を抑えろとキャットアイ様は言っているのだろう。
久し振りに骨のある指令だ。今日は徹夜でやれることをすべてやってみせる。
「それにしてもさすがでございます。盗賊団の数は四十人近く。キャットアイ様はまた強くなられましたか」
「強くなっているのは確かにゃ」
キャットアイ様はブーツを見せるように微笑む。キャットアイ様が微笑む姿など見たこともなかった。
「ランクSも見えてまいりましたか」
「そこまでは無理にゃ。単純にパーティメンバーが強いにゃ」
「しかし、CやDと伺っておりますが……」
「ジョーカー、ランクだけで判断するのはよくないことにゃ。その者の特性や将来性を見ることにゃ」
「特性や将来性でございますか」
「うちのパーティにも面白そうな遊撃ポジションが出てきそうにゃ」
「遊撃ポジションでございますか」
「将来的には自分を超える可能性があるかもしれにゃいし、そうでもないかもしれないにゃ」
キャットアイ様にそこまで言わせる者とは誰なのか気になる。私でもまったく届かなかった頂を狙える者が現れるとは。
個人的にとても気になることではあるが、今は目の前のやるべきことを進めなければならない。しかし、その前に確認はしておきたい。
「キャットアイ様、その期待の遊撃ポジション様と手合わせさせていただくことは可能でございましょうか」
「もちろんにゃ。この件が片付いたらジョーカーにお願いをしようと思っていたにゃ」
「私に、でございますか」
「遊撃ポジションとしてはジョーカーの動きに近いにゃ。きっとニールの勉強になると思うにゃ」
「ニール様というのですね。かしこまりました。このジョーカーの動きをしっかり叩き込みますので三ヶ月は滞在してもらいます」
「了解にゃ」
「それでは失礼いたします」
正直に言うとかなり嫉妬している。現役当時にキャットアイ様にそこまで言わせた者はいなかった。
ニール様の情報は、確かランクDに上がったばかりの冒険者だったはず。遊撃というよりは大盾持ちで後衛のポジションと聞いていた。
遊撃ポジションは全体のバランサーとして機能しなくてはならないので周りが見えている者の方が向いている。そういう意味では後衛の方が戦況がよく見える。
私の個人的な見解から言わせてもらえば後にいくほど地頭が良い者が向いているし、戦況判断に優れて者を置いた方がパーティのバランスは保たれる。
何も考えずに前に出る者などもってのほか。戦況に応じた立ち回り、仲間を活かす動きがなければパーティとしてやっている意味がない。
私に近い動きですか。それは楽しみですね。私では届かなかったキャットアイ様を超えるかもしれない逸材。しかとこの目で見させてもらいましょう。
それからカルメロ商会リンドンシティ支店総力を尽くしてキャットアイ様の求める情報を収集してみせた。この情報があればライバルであるスリーズモンドを完全に黙らせることも可能だろう。
ある程度スリーズモンド商会を誘導させなければならないが、それぐらいなら問題にはならないだろう。
私の興味はもうスリーズモンド商会よりもニール様に移行している。この件は早く片付けてニール様との手合わせをどのようにするかの方が気になっている。
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