第134話ジョーカーさんとの手合わせ1

 はじめてアルベロを見た時にCランク冒険者の異次元とも思える動きに、どうやれば追いつけるのかと心底不思議に思ったものだ。


 それはDランクになった今も変わらない。アルベロが成長しているというのもあるのかもしれないけど、少しは追いついたなんて考えはおこがましいと思えるほどに更に距離が開いた気がする。


 今、目の前に対峙しているジョーカーさんはBランクだった人だ。アルベロよりもさらに上のランクにいた人が相手となる。


 普通に考えてみれば僕に勝ち目はない。ただ、ジョーカーさんは僕の戦い方を知らない。僕の動きを見てもらうには、今やれることを全てぶつける必要がある。


 だからこそ、勝つつもりで全力でいかせてもらう。僕の動きを見ようとしているジョーカーさんは少なくとも最初は受けにまわってくれるはず……だよね?


「いきます! ハリト」


 まずはハリトをジョーカーさんの立っている手前に落として砂埃を巻き上げる。


 僕が見えなくなったタイミングに合わせてインベントリで複数の拠点を造っていく。いきなり現れた土壁を前に警戒して突進してこないことを祈る。


 まずは拠点を増やしながら、上には登らずにあくまでも障害物として設置。設置しながらも近づけさせないようにマハリトのスクロールを放つ。


 障害物を越えようとしたところに爆発魔法が来たら溜まったものではないだろう。


 あっという間に、地面は穴だらけで土壁が大量に立ち並ぶ。


「ジョーカーさんは、どこに?」


 そっと、壁から覗くように見ると、最初にいた場所から動いていなかった。


 変わり果てた訓練場に少々驚いているような感じだろうか。


 僕の全てを見せようとか思いながら、まず防御から固めてしまうのはよくないところかもしれない。


 さて、距離はとった。近づかれるまでは中距離攻撃でジョーカーさんの体力を可能な限り削りたい。ハリトのスクロールで攻撃をしまくる。スクロールは魔力の消費もないしガチャの景品でいっぱいあるからね。


 ここで一番高く積み上げた拠点に登り、スクロールを発動しようとした。


「あれっ、いない!?」


 慌てて周りを見渡すと、回り込むようにしてこちらに近づいているジョーカーさんを見つけた。


 やはり、速い。遊撃ポジションと聞いていたのでスピードはあるとは予想していたけど想像を上回る。


 移動場所を予測してハリトのスクロールを飛ばすも、そのすべてを簡単に避けられてしまう。


「まずい、このままだと……」


「このままだと?」


「うわああああ!!」


 いつの間に真後ろにジョーカーさんが立っていた。僕は転がり落ちるように拠点から落下するようにその場を離れた。


 おかしい。さっきまで遠くにいたはずなのに、いきなり後ろをとられていた。


「私のスキルはデコイとステルスの二つがあって今のは応用みたいなものだ」


 ダブルスキル持ちなのか。つまり、僕がジョーカーさんだと思っていたのはデコイのスキルでそう思わされていただけで、ステルスのスキルで僕に近づいてきたということ。


 こんなの絶対に逃げ切れない。というか、これでは障害物が裏目に出てしまう。ステルスで隠れる場所だらけじゃないか。


「もう終わりか?」


「おわああああ、インベントリ!」


 再び襲いかかってきたジョーカーさんの攻撃をインベントリから土の塊を出して防御にした。


「へぇー、こういう使い方もあるのか」


 そう言いながら、拠点にできるほどの分厚い土の塊を半分に割って近づいてくる。これはもうホラーだよ。


 接近戦をするしかないのか。いや、それは最終手段だ。剣に慣れていない素人がBランク相手に何か出来ると思うほど傲慢ではない。


 だから、あと一歩前に来てくれ。


 尻もちをついている僕にゆっくりと近づいてくる。しかしながらジョーカーさんは手前で止まってしまう。


「何を狙っている?」


 顔に出ていたのだろうか。しかしながら、前に出ないならこちらが前に出るまで。


 地面に手を起きながらインベントリでジョーカーさんの足下をまるっとえぐり取る。


 落とし穴のように突然下に空間が出来ればさすがのジョーカーさんでも対処しようがない。


 僕はすかさず土の塊をインベントリから取り出して埋めるように整地してしまう。そして、こんなチャンスを逃す僕ではない。


「ハリト、ハリト、ハリト、ハリト!」


 魔法のスクロール四連発だ。


 怪我はアドリーシャが治してくれるので許してくださいね。


「お、終わったか……」


「ふむ、意外と残虐的な面もあるんですね」


「いや、そんなことは……え、ええっ!? ジョーカーさん!」


 またデコイなのか、それともステルスを使ったのか。くっ、序盤にインベントリを使いすぎて警戒させてしまった。


「あとは、その剣ですか?」


「ど、どうでしょうね」


 実際のところ、マジックリングとマジカルソード、あとは使用を許可された例のあれぐらいか。

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