第112話スキルガチャについて

 風の谷という場所は神聖な場所らしく、その場所に住む人たちが代々聖域を守っているのだそうだ。


 村よりも小規模なため、そこは風の谷の集落と呼ばれているらしい。


 聖域では風の属性付与ができるそうで、みんなも楽しみにしている。全くもってうらやましい。


 そんなに風属性付与がいいのだろうか。でも、前衛の二人はスピードタイプだし、プジョーブーツも疾風のレイピアも素早さを特長とした装備だ。


 アルベロの短弓ハジャーダのパワーは申し分ないので、風属性による命中率アップを補助したいらしい。




「ニール様、お水、飲まれますか?」


「あー、うん。お願い」


 昨日はゆっくりベッドで眠れたので少しは回復しているのだけど、まだ少し熱っぽい。


 馬車の中はお昼寝中のキャットアイと熱で倒れている僕で広いスペースを占領してしまっている。


 アルベロとルイーズは馬を走らせていて、アドリーシャが僕の看病をしてくれている。


 熱が出たということはランクBの魔物の魔素を多く吸収したからで、一番近くにいたのは僕とアドリーシャ。


 アドリーシャはCランクだし、魔力保有量も高いので体調に問題はなかったようだ。


 もうそろそろステータスも安定してくる頃合いかな。見てみようか。


 冒険者ランクD

ニール・ゼニガタ 男 十七歳

 体力D、筋力D、耐久C、敏捷D→C、持久力D、魔力D→C、知能B

 魔法適正 火D、無属性(発火、注水)


 敏捷と魔力がDからCにアップしていた。まだCランクになるには難しそうだけど、順調にステータスが上昇しているのではないだろうか。


 どうも強い魔物を倒した際に近くにいることが多い。危険な分、ステータスに反映されているのはありがたいけど、これでは命がいくつあっても足りない。


 とはいっても、僕にできることはやはり地道にステータスを上げることしかないし、あとはガチャで出てくる装備に期待するしかない。



 さて、実は格上討伐ガチャが出現している。


 そりゃあランクBを二体も倒しているので出ないほうがおかしい。


 格上討伐ガチャといえば、アルベロの短弓ハジャーダ、ルイーズの疾風のレイピアが出たことでもお馴染みの専門武器が出やすいお得なガチャだ。


 僕の時にはルリカラが出たわけだけど、これはイレギュラーケースといっていいだろう。


そして、このガチャは回数制限があって、前回は三回だった。


 しかしながら、今回の数字は二回。この数字が意味することは僕がランクBを二回倒したからという意味なのか。


 それとも、近くにいたアドリーシャが戦闘に参加したとみなされての二回なのか……。


 その可能性は高いかなと思っている。彼女は僕にマポーフィックの魔法をかけている。


 そうなると、アドリーシャの専用武器がガチャで出てくることになる。


 旅の途中でいきなり「はい、これ」とアドリーシャに専用の武器を渡しても困惑するだろう。


 ということで、ちょっと早いけどアドリーシャにガチャスキルについて説明しようかと思っている。


 みんなに相談したところ、僕の判断に任せるとのことだった。


 もちろん、ガチャを回してアドリーシャの武器が出ない可能性だってある。だったら、出てから話をすればいいかと思わなくもない。ただ、何となく後出しじゃんけんみたいで僕の気持はスッキリしない。


 ならば最初から説明をして一緒にガチャを楽しんでもらおうと思うのだ。


アドリーシャは少し変わってるけど、信用できない人ではないと思っている。育ってきた環境が特殊なので、聖女としてあるべき姿的な考えがかなり強い。


 でも、それは誰かの足を引っ張ってとか、他の聖女見習いを出し抜いて、のし上がるというものではないと思う。


 だから、信じてみようと思う。少なくともしばらくは一緒にパーティを組む仲間であることは間違いないのだから。


「何だか、かなり長く考え事をされておりましたね。お水のおかわりはいりますか?」


「うん。ちょうだい。あとね、僕だって真面目に考え事をすることだってあるんだよ」


 ふぅー。お水を飲むごとに体力が回復していくのがわかる。かなり魔素が体に馴染んだということだろう。


「さて、今から話す内容は僕の秘密についてなんだ」


 突然切り出したにしては真面目に聞いてくれるアドリーシャ。


「秘密でございますか」


「このことはイルミナ教会には内緒にしておいてもらいたいんだけど」


「わかりました」


「そりゃ、聖女様とかマリアンヌさんに聞かれたら難しいかもって……えっ、わかってくれたの」


「ニール様は内緒にされたいのですよね。この旅では私個人の考えを許容していただいた恩もございます。ニール様が秘密にしたいことがあるのであれば私は誰にも申しません」


 一応、秘密にしてくれるらしい。その言葉を聞いていたのか、猫さんの耳はぴくぴくとこちらに向けて動いている。


 どうやら昼寝と言いつつ、しっかり聞き耳を立てているようだ。


「そういうことなら、僕の秘密のスキルについて説明したいと思う」


「スキルでございますか」

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