第113話格上討伐ガチャ再び

 目で見えないものを説明するのは難しい。そういうものだと理解してもらうためには、やはり実際にガチャを回してみるのが話が早い。


「ガチャ、起動」


 その言葉に反応したのはルリカラと猫さん。


 何事もなかったかのように昼寝から立ち上がり、僕のそばにしれっとやってくる。ルリカラはいつものようにガチャガチャの機械の前を自分の場所だと言わんばかりにキープしている。


「ちょっと待ってー。ガチャを回すなら休憩するよー」


 どうやらルイーズとアルベロも参加することとなった。みんなガチャ好きだよね。


 ということで、馬車を停めてみんなの前で討伐ガチャにチャレンジさせてもらう。


 今回のガチャも前回同様にボディが銀色にコーティングされている未来感溢れる洗練されたガチャガチャだ。


 討伐ガチャというのは同じ仕様なのかもしれない。つまりは、同じように期待できるガチャということ。


 今回は銀貨を入れる前から数字の二の文字が浮かび上がっている。


 僕の装備が二つ出るか、それともアドリーシャと各一個出るのか。


さて、アドリーシャに説明しながら回さないとね。


「みんなには見えないけど、ルリカラの目の前にはガチャガチャと呼ばれる機械があるんだ」


「お金を入れて回すと、アイテムが出てくるんでございますね」


「そう。そして、今回は特別な討伐ガチャで二回だけ回せる。前回はアルベロの弓とルイーズのレイピアが出たんだ」


「あの武器が……。それは素晴らしいですね」


「今回は二回だから、僕とアドリーシャの分が出る可能性がある」


「オークジェネラルとエビルプリーストを倒した時に、私も近くにいたからということでしょうか」


「回してみないとわからないんだけど、戦闘に参加していたのは間違いないし、ガチャの回数的にもそうなのかなと思ってる」


「たいした働きをしていないのに私の装備が出ると言われても受け取っていいのか……」


「ここで出るのは専用の装備が多いから気にしなくていいよ。本人以外にはメリットのないものだったりするしね」


「では、楽しみに待ちたいと思います」


「と、ここまで話をしてアドリーシャの装備が出なかった申し訳ないんだけどね」


「それはそれで、気になさらずとも結構でございます」


 そろそろ我慢できなくなってきたのか、ルリカラがガチャを叩きはじめている。回す前に壊さないでよね。


「じゃあ、一回目のガチャを回してみるね」


 お金を投入すると、銀貨ガチャならではのアップテンポの音楽が流れ、まるでミラーボールのようにくるくるとまわり演出を高めていく。


 この近未来的なガチャをはじめて見るルリカラも体を揺らしながら音楽に身を任せている。


 自分が産まれた討伐ガチャに何かしら感じるものがあるのだろうか。


「ルリカラちゃん、お尻ふりふりだねー」


 みんなにはガチャは見えていない。しかしながらルリカラの動きを通して見えていないガチャを想像している。


 そして、ガタゴトンと落ちてきたのは銀色に輝くカプセルだ。スモークの演出もあって中身を期待させる。


 ゆっくりとカプセルを開けると、マジカルメイスという文言が頭に入ってくる。


 これは聖職者専用の武器。つまり、アドリーシャ専用武器ということだ。魔法媒体として魔力アップ、殴打用としてもダメージアップその分魔力消費は増えるとのこと。


 せっかく前に出ないように矯正しているのに、この武器の特長を伝えたらアドリーシャが前に出ちゃうじゃないか……。


 いや、前回のように、前に出なくても後衛が襲われることもある。そうした時に近接戦闘が可能な武器を持っていることは大きいだろう。


「予想通り、これはアドリーシャ専用の武器だよ。マジカルメイスといって、魔力をこめることで出力のアップ、殴打するときにもダメージがアップするそうだよ」


「殴打する時にダメージアップ」


 アドリーシャは噛みしめるようにそう僕の言葉を繰り返した。いや、繰り返すなら出力アップのところに反応してもらいたいんだけどね。


 まあ、いい。旅の途中で討伐に参加してもらって武器の性能を確認してもらおう。打撃が想像以上に使えるのなら配置も検討し直す必要もあるかもしれないのだ。


 ガチャを回す前はそこまで興味もなかったアドリーシャだけどマジカルメイスを大事に抱えてとても嬉しそうにしている。すごくうらやましい。


 それにしても、この討伐ガチャは本人の専用というか、希望に近い武器が現れる。僕の期待にもしっかり応えてもらいたいものだ。


 さて、ガチャガチャは数字の一に切り替わっている。文字通り、残り一回ということだ。


 間違いなく、僕用のアイテムが出てくる。とはいえ、前回はルリカラが現れたので油断はできない。ルリカラ用のマントとか首輪とか帽子とか出てこられても困る。


 ここは何とか、僕専用の武器をどうかお願いします。


「で、では、最後の一回を回します」


 ミラーボールとダンスミュージックを楽しむようにゆっくりとゆっくりとハンドルを回していく。


 ガタゴトンと銀色の艶のあるカプセルが落ちてくる。


 頼むよ。頼むよ、僕の武器!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る