第62話ギルドでの反応
「みなさん、おかえりなさい」
久し振りのカルデローネさんだ。笑顔がお似合いの美人受付嬢さんだ。
「カルデローネさん、お久し振りです」
「昨日はルイーズさんしかお会いできませんでしたから。バブルラグーンでのことを聞いて、とても心配したんですからね」
「僕たちもびっくりしました。あんなこともあるんですね」
「珍しいことだとは思いますが、最近不穏なことが続いていますから気をつけてくださいね。あ、あと、ニールさんはランクDへの昇格おめでとうございます。あっという間でしたね」
「運がよかったといいますか……でも、うれしいです」
「ええ、素晴らしいことですよ。……それから、ダンパーさんのことは申し訳こざいませんでした」
「いえ、すっかり気持ちを入れ変えたようですし、僕も何ともありませんでしたから」
「そう言っていただけると助かります。王都の冒険者ギルドも二度とこのようなことがないように、ポスターを掲示することにしました」
それは悪虐キャラにデフォルメされたダンパーが檻に入れられて鉱山に運ばれていくものだった。
ポスターには冒険者同士の争いの罰則強化についてや、ダンパーの鉱山作業十年が大きく書かれている。
そういえばダンパーはどこの鉱山へ連れて行かれたのだろうか。
「カルデローネさん、ダンパーってミストマウンテンに行ったんですか?」
「はい、そうですよ。王都近郊の鉱山といえばミストマウンテンですからね」
なるほど。近々あの天使ダンパーとも会いそうな気がしないでもない。
そんなことを考えていたら、僕たちの周りがザワザワし始めていることに気づいた。
「見ろ、アルベロだ」
「間もなくBランクに上がるらしいな」
「そりゃ、シーデーモンを討伐したんだからな。実力的には申し分ねぇ」
注目されているのはもちろんアルベロだ。やはりランクAのシーデーモンを倒したことが大きいのだろう。隙をついた攻撃とはいえ、倒しきったことは紛れもない事実だ。
冒険者はランクDが一番ボリュームが多く、次に多いのがEランクかCランクとなる。
そしてBランクからは特別感が出てくる。一気に人数が減るからというのもあるけど、同ランクの魔物で言うとゴブリンロードやサイクロプスなんかを単独で倒せるということになるからだ。
これらの魔物を僕は見たことはないけど、間違いなく化物クラスだろう。僕が相対したとしても踏み潰されるか吹き飛ばされるに違いない。
アルベロはAランクのシーデーモンを倒している。しかも、秘密だけど幻惑の指輪により更にパワーアップしている。攻撃力だけを見ればAランクでもいいぐらいだろう。
「何か嫌な感じね」
そんな話し声がアルベロには気に食わないらしい。
「ランクが上がってるのはニールなのにねー」
「僕のことはいいから。まだDランクだし」
「すごいことだよー。冒険をはじめてこんな短期間でランクアップしていくのは珍しいんだからー」
と言われても、元々Eランクの実力はあったのだから、ワンランクアップに過ぎない。そのワンランクもたまたま討伐したシーデーモンの近くにいたというのがまた微妙なところ。
だから勘違いしてはならない。早く強くなりたいという気持ちはあるけど、仲間がいて運が良かったからDランクになれた。もっともっと経験を積んで二人の役に立ちたい。
「ランクを知ってもらうのも、そう悪いことでもないと思うよー」
僕たちの近くでルイーズの声を聞いていた冒険者たちの反応がおかしいことに気づく。
「ついこの間まで、Fランクだったよな?」
「いつの間にDランクに……」
「ひょっとして、とんでもないルーキーなんじゃねーのか」
冒険者界隈ではDランクというのは駆け出しからある程度の経験を積んで、いっぱしと認めてもらえるランクになる。
「ね?」
「確かにルイーズの言う通りね。これでなめた態度をとってくる冒険者も少しは減るんじゃない?」
「なるほど。それはそれでありがたいかもね。まだまだ実力が伴ってはいないけど」
「そんなことないわ。半日で十六体のジャイアントトードを一人で倒すのは普通のDランクでもなかなか難しいと思うもの」
アルベロまで調子に乗って大きな声で僕を褒めてくる。
「ちょ、ちょっと、アルベロ」
ザワザワが止まらない。
「お、お前、ジャイアントトード一人で十六体も狩ってこれるか?」
「一体ずつなら、なんとかいける……か」
「いやいや、そんなんじゃ半日では無理だろ。解体もあるんだぞ」
「さすがに解体は二人が手伝ってんだろ」
「ちなみにー、解体もニール一人でやってるけどねー」
「そ、そんなの無理に決まってんだろ」
「そうだ! 解体の質が相当悪いに違いねぇ」
すると、カルデローネさんまで流れに乗っかってきてしまった。
「えーとですね。ニールさんが本日提出したジャイアントトードの解体は全て高品質として処理されてまーす。みなさんもぜひ見習ってくださいね」
「ちょっ、カルデローネさんまで……」
「や、やっぱり、あの噂は本当だったんだな」
「ああ、あの噂か」
「王都から逃走したダンパーを一撃で倒しちまったっていう」
「俺はバブルラグーン帰りの冒険者に聞いたぜ。カウンター、一発で仕留めたってよ」
「まじか……」
「ニールもCランクが近いんじゃねぇーか」
「だな」
冒険者の中で僕が勝手に強くなっていってる気がする。
でも、変な人に絡まれなくなるならそれはそれでありがたいのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます