第60話アダマンタイト

 しばらくして戻ってきたドワーフのおじさんが手に持っているのは前の大盾よりも少し小さめながら、全て鉄で加工されている代物。


 そして武器は二つあって、どちらも刺突用の武器で短槍とエストックだった。


 エストックとは割りと軽い刺突用の武器でレイピアに近い。


「以前なら無理じゃったろうが、今ならこれも持てるじゃろ。武器は片手の刺突用武器じゃ。奥で試し斬りをしていいぞ」


「弓も試していい?」


「ああ、何かあるのか」


「この弓を見てほしいの。威力が強すぎて矢じりが一回で壊れてしまうのよ」


「ほーう。これはとんだ化物性能じゃな」


 ドワーフのおじさんの店の奥は試し斬りができるちょっとしたスペースがあって、そこで試し斬りや試し打ちができるようになっている。


 僕の場合は刺突用の武器なので、斬るというよりは刺す感じだろうけどね。


 ステータスが上昇した影響で、鉄製の大盾も何とか片手で持てる。大盾を地面に立て、片足を着いてしっかり固定、そしてもう片方の手で武器を扱う。


「エストックの方が軽いから安定はしそうじゃな」


「そうですね。でも、少し軽い気がします」


「うむ。短槍に持ち変えてみよ」


「はい」


 短槍の方がエストックに比べるとあきらかに重みがあってしっくりとくる。


 何度か突き刺し、なぎ払いを繰り返しているとドワーフのおじさんが納得したように頷いてみせた。


「短槍の方があっているようじゃな」


 以前よりステータスが上昇していることもあるけど、短槍の方が攻撃力は高いし、投げたり払ったりと、突き刺すだけでなく攻撃の幅があるのもいい。


「はい、こっちにします」


「二つ併せて金貨二枚じゃがどうする?」


「実は、ここに丁寧に縫われたカエルのハンカチーフがありまして」


「な、なんじゃと!?」


「こちらの布製品とルイーズのショートソードを買い取りしてもらった場合、差額はいくらになりますか?」


「これはまた素晴らしく細かい裁縫技術じゃな。わかった、金貨一枚と銀貨五枚じゃ」


 約十五万円か。五万円も値引いてくれるなら即決してもいいだろう。


「では、それでお願いします」


「おうよ。毎度あり。少しグリップのところを調整するか。さて、次はアルベロの弓を見せてもらおうかのう」


「パワーがありすぎて矢が耐えられないの」


「的はあれで大丈夫か」


「壊しても大丈夫?」


「あれを壊しちまうのか。わかった。全力でやってくれ。でないと判断もできんからな」


「じゃあ、行くわよ」


 アルベロは短弓ハジャーダを引くと、あっさり矢を射った。


 しかしながら、飛んでいった矢の勢いは凄まじく、一瞬で的を弾き飛ばした。バブルラグーンで見た時よりも数段激しい爆発が起こっている。


 あー、そうか。幻惑の指輪の効果か。あの指輪にはダメージアップ効果が付与されているんだった。


「これは、また……すごいのう。とんでもない弓じゃな」


 とんでもない弓と指輪の相互効果なんです。


「アダマンタイトで矢じりの加工をお願いしたいんだけど、それって、おじさんに可能?」


「アダマンタイトか……。確かに、あれならこの衝撃にも耐えられるかもしれんな」


「出来るの?」


「わしを誰じゃと思っておる。アダマンタイトで矢じりぐらい造れるわい」


「そう。じゃあ、お願い」


「少しは、すごーいとか言って褒めてくれてもいいんじゃよ。ドワーフ全体でもアダマンタイトの加工ができるのは一握りなんじゃからのう」


「だってまだ本当に出来るかどうかわからないじゃない」


「まあ、確かに矢じりを造ったことはない。じゃが、防具で少し加工したことがある。めちゃくちゃ硬かったがな」


「本当に出来るの?」


「こう見えてドワーフ族の特級職人なんじゃぞ。わしに任せとけ。その代わり、アダマンタイトはお前らで用意してくれ」


「えー、アダマンタイトないの?」


「加工できる職人が少ないんじゃから流通量も少ないんじゃよ。王都で加工出来るのわしの工房ぐらいじゃぞ」


 王都でこの店しかアダマンタイトの加工が出来ないとか、ここはすごいお店だったのかもしれない。


「アダマンタイト鉱石が採れる近場の鉱山ってミストマウンテンよね?」


「うむ。王都から三日ぐらいの距離じゃな」


「私たちバブルラグーンから戻ってきたばかりなんだけど」


「らしいな。その弓で活躍したということか。納得がいったわい。さすがにアルベロでもAランクのシーデーモンはきついじゃろうて」


 やはりアルベロがシーデーモンを倒した噂は王都で広まっているらしい。


「ミストマウンテンから送ってもらえないの?」


「言葉が足りなかったようじゃな。ミストマウンテンではアダマンタイトは採れるが、現在採掘されておらん。近隣で加工が出来るのがわしの工房だけじゃからな」


 加工が出来るのは王都だけでなく、周辺でもこのお店だけだった。特級職人すごいんだな。


「需要ないのね」


「硬いし重い。それに加工費もかさばるからのう。物はいいんじゃがはっきり言って不人気じゃな」


 すごい鉱石なら人気になりそうだと思ったけど、そうでもないらしい。でも価格は高そう。そうなると確かに人気ではないのかもしれない。


「ミストマウンテンでも採掘してないとなると……」


「自分たちで掘るしかないじゃろうな」


「少しぐらいミストマウンテンに在庫ないのかな」


「あるかもしれんし、ないかもしれん。少なくともわしは十年アダマンタイトを見てないぞ」


 十年かー。そりゃ在庫の期待も薄いかな。

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