第59話ドワーフのおじさん

 二日酔いに苦しみながら馬車の旅を終えて、僕たちは王都に戻ってきた。ラウラの森の規制は解除されたらしく、薬草採取の冒険者たちとすれ違った。


「あっ、ロージー先輩」


「ニールさん、お久しぶりです」


「今日はお友達と一緒なんだね」


「はい。これで私も現地で人を探さなくて済むようになりました」


「おお、よかったよ。頑張ってねー」


「はい」


 アルベロとルイーズが何故か僕を見てくる。


「な、何かな」


「ニールって、そういう趣味なの?」

「ねぇねぇ、何で先輩なの?」


 最初の質問はアルベロから。もちろん僕は小さな女の子の愛好者とかではない。


「僕がはじめて薬草採取をした時にいろいろ教えてくれたから先輩なんだ」


「なるほどー。そういうことかー」

「ねぇ、そういう趣味なの?」


 アルベロが意外にもしつこい。


「そろそろ到着だね。宵の月亭が先?」


「そうだねー。なら、私がギルドに報告に行くよ。二人はおかみさんにお塩を届けて部屋で待ってて」


「ねぇ、ニールってば!」


「うん、了解」


 僕たちパーティは思いがけずに資金が貯まってしまったので、少し余裕を持ってクエストを受けることができるようになった。


 しかも、それぞれ武器は買わなくてもいい質の高いものがガチャで手に入っている。あらためて買うのは僕の大盾ぐらいだろう。


 ちなみにルイーズから借りているショートソードはドワーフのおじさんの店で売り払う予定でいる。そこで、僕に合う武器をみつくろってもらうつもりでいる。


 あとは、アルベロの矢じり問題が解決していないので、これも相談するつもりでいる。王都にいるドワーフならアダマンタイトの加工についても詳しいのではないかと思ったのだ。


「おかえりなさい。なんだか大変だったみたいね」


 時間的にはランチが終わったあとで後片付けをしているおかみさんがいた。どうやら王都にもバブルラグーンの話は届いていたようだ。 


「あんなこともあるんですね。驚きました。あっ、これ頼まれていた塩です。少し多めに入ってるのはサービスです」


 塩は無料で手に入れたようなものだけに対価をいただくのは申し訳ない気がするけども、これで部屋代が少しでも浮くと思えばありがたい。


「あらまー、ありがとうね。バブルラグーンからの道が封鎖されちゃったから、どうなることかと思ってたのよ」


 川魚以外の魚介類の仕入れはバブルラグーンからに頼っている王都なので、宵の月亭でも仕入れに苦労したのだろう。


「部屋は元の場所ですか?」


「ええ、女性二人部屋と男性一人部屋よね。ちゃんと掃除しておいたからきれいよ」


「ありがとうございます」


 僕はインベントリにある荷物を置きにアルベロと二人の部屋へ。このあとはルイーズが帰ってくるのを待ってドワーフのおじさんのいる武器屋へと向かう予定だ。


「やっぱりインベントリがあると旅も楽よね」


「荷物はこのあたりでいい?」


「ええ、お願いするわ」


 インベントリを使い慣れていない頃だと、ドスンっと荷物を落とすように出していたものだけど、今ではほとんど音もなくそっと出せるようになった。


 きっと今ならベッドも音を立てずに出し入れできるだろう。大きな音を出してアルベロに注意されたてい頃が懐かしい。


 自分の荷物やお金を金庫に移動して再び二人の部屋へ行くとルイーズも来たところだった。


「何かねー、私たちのことギルドで噂になってたよー」


「バブルラグーンでのこと?」


「うん。やっぱりAランクのシーデーモンを倒したってのはインパクトあるみたいだねー。私が倒してわけではないけどさー」


 Aランクのキャットアイさんがいたとはいえ、討伐したのは間違いなくアルベロだ。そう考えると、僕もすごいパーティに入れてもらえたものだ。


 きっと近いうちにアルベロもBランク、ルイーズもCランクになるだろう。僕も追いついていかないとね。


「それじゃあ、ドワーフのおじさんのとこ行こっかー」


 お金はいっぱいある。僕とアルベロの報奨金だけで四百万近いお金をもらっている。お金を気にせずに買い物するとか召喚されたばかりの頃からは想像もできないよね。


 王都は相変わらず人が多く、屋台も元気に営業している。人種も様々で、狼人族や蜥蜴人族の戦士も歩いているし、エルフやドワーフも少ないものの見かける。


「おじさーん、久し振りー」


「おお、ルイーズ生きておったか。バブルラグーンのことを聞いて心配しておったんじゃ」


「うーん。私は全然何ともなかったけど、ニールが大変だっかなー」


「ほう、ニールか。少し見ないうちにかなり成長しておるの。どれ、大盾の整備をしてやろう。まだ無料期間中じゃからな」


「あっ、いや。それが壊れてしまいまして……」


 正確には壊れたかどうかもわからずに海の藻屑となって消えてしまったわけなんだけど。


「そ、そうか。そりゃ、シーデーモンとの戦いで活躍したなら盾も本望じゃろう」


 シーデーモンではなくキャットアイさんに壊されたと思うんだけど、どっちもAランクだしここは黙っておこう。


「それで、僕用の大盾と武器をみつくろってもらいたいんです」


「わかったわい。それで、今のランクは?」


「Dランクになりました」


「よしっ、ちょっと待っておれ。それから、アルベロとルイーズの武器をあとで見せてくれ。何じゃそりゃ、どこで手に入れた?」


「これは、まあ、その内緒です。もちろん見るのはいくらでもどうぞ」


 やはり、素晴らしい武器には職人魂が反応してしまうのだろう。今後のメンテナンスはお願いすることになるだろうし、いくらでも見てもらいたい。

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