第19話魔法の勉強
今朝は受付のカルデローネさんに経緯を説明して他の冒険者への注意勧告をしてもらうことをお願いしてクエストに出発した。
「なのに、何で! 相変わらずついて来るのよー」
朝からルイーズはプンプンである。それもそのはず、昨日に引き続き何組かのパーティが僕たちの後ろをつかず離れずついて来ているのだ。
まあ、まだ冒険者ギルドからの勧告前ということもあるのだろうけどこれはひどい。
正直、討伐までは普通の戦闘行為なので見られても問題ない。そもそも二人の討伐が洗練されすぎていて、見ている人たちが真似するのは簡単ではないと思われる。
特にアルベロの弓技術は一朝一夕で真似できるものではないだろう。
それはいいとして、問題は僕のインベントリと解体だ。周囲に人の目があると使用できないため、待機場所にジャイアントトードが溜まっていってしまう。すると、戦闘場所が狭くなってしまうので、しばらくするとルイーズと二人で解体する羽目になってしまう。
せっかくスピード解体で討伐数を増やせるというのに、無駄な時間になってしまっているのがやるせない。
そして、これを見ている人には、僕があきらかに役立たずであることがわかってしまい、それなら自分の方がもっと役立てるのではないかとか思っているのだろう。
離れた場所から見られているその目からは、何となくそういう負の感情が伝わってくるのだ。
何でお前がそのうらやましい位置にいるのか。特に労せずにお金を稼いでいるランクF。代われ、代われ、今すぐ俺と代われ!
そういった感情は僕の心にも少なからず突き刺さる。まったくもって僕が役立たずであるならば逃げ出してしまったかもしれない。しかしながらこう見えて僕も少なからず二人の役には立っているという自負があるからこそまだ踏みとどまれている。
ただ、スピード解体が出来ないとなると僕の能力は半減してしまう。
「まったく……もう。ジャイアントトード狩りは午前中で終わりにしましょうルイーズ」
ため息を付きながら、判断したアルベロの決断には僕も賛成だ。
「そうだねー。さすがにこれだけ見られてたらちょっとねー」
討伐数的には十体だけど、昨日よりも多い人の目がある中で、解体やインベントリの秘密が漏れる可能性があるなら早めに撤退しようということだ。
せっかく稼げるようになったというのに。
「明日はつけて来る人がいないといいんだけどね」
「うーん。しばらくは無理よ。狩り場を変えることも考える?」
「せっかく稼げるようになったのにー!」
ルイーズの怒りもごもっともだ。前へ進もうと決意した二人の足をひっぱらないでほしい。そして僕の異世界で生きる道の邪魔をしないでもらいたい。
とはいえ、とりあえずは冒険者ギルドを信じて待つしかないのかな。
「あっ、そうだわ。早めに上がるならニールの魔法の練習に付き合うわよ」
「おっ、いいねー。火属性だっけ?」
「はい、そうです」
ちなみに僕のステータスはこんな感じだ。
冒険者ランクF
ニール・ゼニガタ 男 十七歳
体力E、筋力E、耐久F、敏捷E、持久力E、魔力E、知能C
魔法適正 火E、無属性(発火、注水)
無属性の生活魔法についても教えてもらいたい。特に注水は早めに使えるようになりたいところ。水を出せるってとても便利だからね。解体をしていると本当にそう思う。
普段はスピード解体だから使わないけど今日はルイーズの注水が大活躍だったのだ。
ちなみにルイーズは僕と同じで発火と注水。アルベロは清浄まで使用できる。昨日も門をくぐる前に清浄をかけてもらってからギルドへ報告に向かっている。
そういうことなので、汗臭さとかきれいに消えているので猫人族のキャットアイさんが近くにいてもきっと嫌がられないとは思う。
「じゃあ、荷車に乗せるふりして、インベントリにしまっちゃうね。練習はどこでやるの?」
「門の近くでいいんじゃない?」
「そうね。ランクEならそこまでうるさくないと思うし」
ということで、魔法の練習をするために早めの帰還となった。
僕たちを見張っていたパーティもつかず離れず追ってくる。しかしながら、ラウラの森を出て街が近くなってくると狼狽したかのように散っていった。
「何だよ、もう帰るのかよ」
「あいつ何にもやってねぇーじゃん」
「あきらめて裏技を見せろよな」
「ズルしやがって」
というか、普通にクエスト頑張りなさいよ。君たちこの二日間はまるで稼げてないと思うんだ。あと、裏技は確かにあるけども、別にズルはしてないからね。
ということで、門の近くまで戻ってきた。
「最初に発火から覚えましょう」
火属性魔法が使えるはずだから発火から始めるのが覚えも早いだろうとのこと。
「私がやってみせるわね」
先生役はアルベロがやってくれるようだ。
近くにあった小枝を集め立てるようにする。中心には燃えやすいように枯れて乾燥した葉や草を置く。
「体の奥にある魔力をゆっくり動かして手のひらの方まで持ってくる。手が温かくなってきたら『発火』と唱える」
その言葉とともにアルベロの手のひらから小さな火種が落ちて、葉っぱや草に引火していくとすぐに燃え広がりあっという間に焚き火が完成した。
これが魔法。何もないところから火種が現れるのだ。
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