第20話はじめての魔法
魔力というのは、おへその奥の方、所謂、丹田と呼ばれている部分に魔力溜まりが眠っているらしい。
魔力は全て、このおへその奥から動かして発動していく。ちなみに僕はまだ身体に魔力が巡っていないため、最初に外部から刺激を与えてこの魔力溜まりを壊さなければならないとのこと。
「何回かやったことあるから私がやるわ」
「えー、私一度もやったこと無いからやってみたいなー」
なんだかすごく気軽な感じで言われてるけど大丈夫なのだろうか。
「どっちにする?」
「私でもいい?」
「一応確認なんだけど、これって危険なことはないよね?」
「魔法による攻撃だから、外れたらそれなりに痛いらしいわよ」
「大丈夫だよ。一度やってみたかったんだー」
痛みの可能性がある時点で、初心者のルイーズに任せるのは論外だろう。
「アルベロで」
「なんでー!」
「だって外れたら痛いんでしょ。ルイーズは初めてやるんだから、ちょっとこわいじゃんか。そもそも何でルイーズはやりたいの?」
「だって、卵から羽化する瞬間に立ち会う感じが親鳥みたいな気分でさー」
「僕は鳥の卵じゃないんだ」
「それはそうなんたけどさー、え、えいっ!」
「ちょっ、ちょっとー、ルイーズ!?」
「名誉ある私の初めてにしてあげる! 一回やっちゃえば、次も誰かにしてあげられやすくなるしね!」
そうしてルイーズに押し倒された僕は為すすべもなく、お腹に魔力を強引に放たれてしまったのだった。
「どわぁっ!」
その感触は重く響くようにして背中を突き抜けていく。すると何かがパリンと割れたような感覚があった。無事に魔力溜まりが割れたということなのだろう。
奇跡的に痛みはなく、というよりか、温かいものがお腹をぐるぐると回っている感じがする。おそらくこれが魔力。
「大丈夫だったでしょ?」
「うん。まあ、痛みはなかったけど、急にやるのは勘弁してよ」
「だって、子供だと恐がってやらせてくれないんだもん。でも、これで次からは堂々と出来るね」
そうか。魔力溜まりを割る行為というのは僕の年齢だと珍しくなるのか。普通は子供の時に割って生活魔法を使うようになるのだろう。
何かをやりきったかのようなルイーズとは反対に、アルベロは僕の体を心配してくれる。
「もう。大丈夫だった? それで、魔力は感じられた?」
「お腹のあたりが温かい感じがするんだけど、これがそうなのかな?」
「うん。そうそう。それをゆっくり移動させることは出来る? 目を瞑るとイメージしやすいかも」
「やってみる」
目を瞑り、お腹のあたりをぐるぐるしているものを動かそうとしてみる。
思ったようにはなかなか動いていかない。それでも何となく動かせている。
徐々に慣れていくと温かいものが身体をゆっくり移動していくようにして道ができていく。足のつま先から手の指先まで、全身をくまなく流れていく。流れる道さえ広がればスムーズに動かせるようになるようだ。
「うん。いい感じでできてるね。それじゃあ、小さな炎をイメージしながら手に魔力を集めて『発火』と唱えて」
手に集めた温かい魔力、そこから小さな炎をイメージして唱える。
「発火」
手から温かいものがこぼれ落ちるようにして、火の種がぽとりと落ちる感覚。瞑っていた目を開けると、僕の手から落ちた火が落ち葉を焼き、小さな炎が小枝を燃やさんとしていた。
「すごーい。一回で出来たね。私は三日ぐらいかかったのにー」
「続けましょう。次は『注水』よ。焚き火を『注水』で消火するの」
『発火』は魔力の温かさからすぐに連想できたけど、『注水』となると真逆のイメージになる。
「どうやってイメージしたらいいのかな?」
「もちろん水よ。身体の中の魔力を冷たい水のようにイメージするの」
さっきまでの温かい感じを今度は冷たい水にイメージする。すると、どういうことなのか温かかった魔力が涼しげな水の流れのように思えてくる。
「注水」
水を掬うようにした両手には水がいっぱいに溢れている。ルイーズが解体の時に使ってくれた『注水』だ。やはり、一度見ているというのはイメージがしやすいのかもしれない。
「な、なんで、『注水』も一回で出来ちゃうの!? これ私は十日ぐらいかかったのにー」
生活魔法だから簡単に発動できるのかと思ったけどそうでもないらしい。
「センスのある人は習得も早いものよ」
手のひらに溜まった水を先程点けた焚火の火を消すように落としていく。火はすぐに消えて、しっかり消火されていった。
「これが魔法なんですね」
「生活魔法も魔法だけど、次にやるのが本物の魔法よ」
「う、うん」
僕の属性は火属性のEランク。使用できる魔法はどんなものなのだろう。
「火属性の人が最初に覚える魔法は『ハリト』。これは小さな火球を意味する魔法なの」
小さな火球。つまりファンタジー世界でいうところのファイアボールがここでは『ハリト』というらしい。
「初級魔法は壁に撃って練習するんだよー」
ルイーズが指さした壁には煤汚れのような焦げた跡が残っている。王都の壁に勝手にぶつけていいのだろうか。
「初級魔法は威力もないし、普通に許可されてるの。下手に森や草原が燃えるよりマシだからね」
なるほど。初心者が勝手に練習して山火事とか起こされるぐらいなら、壁に撃ってくれということらしい。
ラウラの森は魔物もいるけど、それを狩る冒険者にとっては資源だし、薬草の自生している大切な森なのだ。そんな場所を不慣れな初心者によって燃やされてはたまったものではない。
「なるほどね」
「じゃあ、私が見本を見せるわ。身体を循環する魔力をさっきの水のイメージから温かい炎のイメージに切り替える。そして、『発火』とは違って魔力の出力を高めて一気に撃ち出す」
初級魔法だというのに、アルベロの髪は魔力の影響なのかふわりと浮き上がっており、突き出した右手には魔力が凝縮されて集まっている。
「ハリト」
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