第18話長い一日
一発、二発と続けて殴られていく。その冒険者が大柄だったこともあってか、馬乗りにされた状態では簡単に身動きもとれなかった。
というか、こんな簡単に喧嘩がはじまって一方的に殴られるという意味の分からない状況に戸惑ってしまったのもある。
相手も冒険者ということもあってか、その動きは手慣れている。腕を足で押さえつけられて無防備になったところを再び殴られていく。
そう、ここは異世界なんだ。
冒険者のランクで差別されるし馬鹿にされる。相手が弱ければ何を言ってもいいとさえ思っているのだ。
「そこまでにするにゃ」
「ああん!? なっ、あんたは、キャットアイ!」
「店の人が騎士団の詰所に向かったにゃ。捕まりたくないなら逃げた方がいいにゃ。まあ、逃げても捕まるかもだけどにゃ」
「ちっ! 今日のところはここまでにしといてやる。あんま舐めた態度とってたら、こんなもんじゃすまねぇからなっ!」
大柄の冒険者はそう言い放つとすぐに走って逃げていった。
何となくルイーズとアルベロが言い寄られて大変だなーとか思っていたけど、今後は僕に対しても嫉妬心からこういった被害があるのかもしれない……。
「大丈夫にゃ?」
「あっ、はい。ありがとうございます、キャットアイさん」
「いいにゃ。たまたまここで食事をしていただけにゃ。少し腫れてるけど、ポーションはあるにゃ?」
「あります。あとで使います」
「たぶん、これからもあーいう輩が手を出してくるにゃ。無理して二人とパーティを組むのも考えものにゃ」
「いえ、大丈夫です。二人に断られるのならまだしも、そうでないなら僕が強くなればいいと思います」
「にゃるほど。心は強いのにゃ。頑張るにゃ」
「はい。ありがとうございます」
それにしてもキャットアイさんが仲裁に入ってくれたおかげでそこまでひどい怪我にならずに済んだ。
あの大柄の冒険者も驚いていたし、キャットアイさんって高ランクの冒険者なのかもしれない。いや、でも、それなりの冒険者がお昼からギルドで昼寝してるわけないか。
「ちょっと、どうしたのニール!」
そこに現れたのはルイーズさんとアルベロだった。
「ニールに暴行したのはあなたですか?」
アルベロさんが詰め寄るのはキャットアイさん。
「だったら、どうするにゃ?」
何故か張り詰めた空気が漂いはじめている。
「ちょっと、キャットアイさん! アルベロさん、キャットアイさんは僕を助けてくれたんですよ」
「だったら……誰がニールを?」
「ダンパーにゃ。おかみさんが詰所へ向かったから間もなく騎士が来るにゃ。証言が必要なら立ち会うにゃ」
「お願いします」
「大丈夫……ニール?」
僕の少し腫れた頬を心配そうにみてくるルイーズさん。まるで自分のせいであるかのように顔が少しこわばっている。
「そこまで強くあたってないから平気ですよ。あとでポーション使っておきますので」
それから少しして騎士の方が来たり、戻ってきたおかみさんにめちゃくちゃ心配されたり、事情聴取を受けたりと、それなりに遅い時間になってしまった。
聴取に時間がかかるとのことだったので、途中で部屋に戻ってポーションを使わせてもらった。
外傷の場合は直接振りかけた方が効果があるとのことだったので、上を向いてバシャバシャとかける。
すると、さっきまで腫れていた頬から熱が引くように痛みもとれていった。これで安いポーションなのかとその効能に驚かされる。
さて、今は食事も終わって僕の部屋に二人が集合しているところだ。
「ごめんね、ニール」
「なんでルイーズさんが謝るの?」
「だって、ニールが殴られたのは私たちとパーティを組んでるからだし……」
「二人が人気だからしょうがないよね。僕も、もう少し強くならないとね」
「嫌にならないの? パーティやめたくなった?」
「弱いのは仕方がないけど、パーティをやめるつもりはないですよ。僕はここで生きていかないとならないので、こんなことぐらいでへこたれていられません」
「よ、よかったー」
ルイーズさんはアルベロさんを見て頷くと、申し訳なさそうに話しはじめた。
「ニールに話しておかなければならないことがあったの」
それは二人が王都に来たばかりの頃に組んでいた一人のポーターのことだった。
当時、二人はもう少しランクが少し低かったもののそれなりに稼げるようになっていたそうで、冒険者としてさらなる飛躍をするためにポーターを雇うことにしたのだそうだ。
今回僕をパーティに入れてくれた時と同じパターンなのかな?
そのポーターの彼は、冒険者としての才能は無かったものの、優しく仕事も丁寧で多くの荷物を運び二人の稼ぎを支えてくれたそうだ。
ところが、その関係は長く続くことはなかった。
「今回のニールみたいにね、やっぱり他の冒険者が絡んできて……」
「冒険者ギルドにも相談をしたのだけど、結局解決する前にそのポーターの子はやめてしまったの。私たちの知らないところでも嫌がらせがあったみたいで……」
こんなことが何度も続くのかと思うと、たとえお金になるのだとしても嫌になるのは理解できる。しかも冒険者でもないのなら余計につらかっただろう。
「そんなことがあったんですね」
「前回のこともあったし、冒険者ギルドからも注意があったから、もう大丈夫だと思ってたのに……」
「私たちがもう少し気にかけておくべきことだったわ。本当にごめんなさい」
「ちなみに、その方は?」
「生まれ育った村に戻ってヤギを育てていると聞いてるよ」
何となく無事に生きていてくれてよかったと思ってしまった。いくら異世界といえども、犯罪行為は取締りしてくれるようだし、殴るといっても半分は脅しのようなものなのだろう。と、思いたい。
「しばらくは私かルイーズがそばにいるようにするわ。もちろん冒険者ギルドにも抗議する」
「いや、僕も冒険者なのでこういうことにも慣れていかなきゃと思います。だから、なるべく自分で対処してみようと思います。どうしても無理だと思ったらアルベロさんとルイーズさんに助けを求めますね」
「わかったわ。でも本当に無理はしないでね」
「あと、ルイーズさんっていうのもうやめよ」
「そうね、私たちはパーティなんだもの。私のこともアルベロと呼んでほしい」
「うん。わかったよ。ルイーズ、アルベロ」
こうして、いろいろとあった長い一日がようやく終わった。明日の朝はいつも通りクエストに向かうつもりだけど、その前に冒険者ギルドへいろいろと相談をすることになった。
それは、クエスト中の行動を見張られていることに関する報告。パーティの募集をしていないのにも関わらず声を掛けられること。街の中における脅し、そして暴力行為について。
話をしたところで劇的に変わるとは思えないものの、やられっぱなしは気分も良くないのでこちらの意思表明はしっかりしておこうということになった。
このあたりは言った言ってない。見た、見たつもりはない等、どうしてもグレーな部分が出てしまうため急に変わることはないだろうとのこと。
僕自身も早くランクを上げて少しでも強く見せないとならないだろう。そう思わされた長い一日だった。
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