第12話二人の反応
部屋に入ってすぐにインベントリを起動すると、ベッドに手を触れながら画面上をタップする。
すると、さっきまであったベッドが目の前から突然消えてしまう。
二人がこれだけ驚いているということは、やはりこのインベントリがかなり珍しいスキルということなのだろう。
やっぱり、食堂で話をしなくてよかったようだ。
「ニール!?」
「あっ、とりあえず、元に戻すね」
そう言って、再び画面をタップしてベッドを選択すると、ドーンと音を立ててベッドが元の位置に現れる。これ、慣れたら静かに戻せるようになるのだろうか。
「こ、この音だったのね……」
「ねぇ、ニールさん。これって、ひょっとして空間魔法?」
わくわくした表情で質問してくるルイーズさん。
「空間魔法ではなくてインベントリというスキルみたいなんだ。どうやら僕のスキルはポーション精製ではなくて、ガチャというスキルなんだってことがさっきわかってさ……」
僕のガチャという言葉は理解できないようでアルベロさんは首を傾げている。
一方でルイーズさんは興奮覚めやらぬ様子でインベントリに興味津々。
「ねぇ! このインベントリって、ジャイアントトードも入れられる?」
「うん、多分入れられると思う」
「すごーい! ジャイアントトードの肉入れ放題だよアルベロ」
「いや、そんな訳……あ、あるの?」
「期待させてしまって申し訳ないけど、量には限度があるみたいで、この部屋のベッドと椅子を入れたらもう入らなかったんだ」
「そっかー。やっぱりそんな甘くないよねー」
「いえ、ルイーズ。これは十分すごいと思うわ。だって、ベッドと椅子が入るぐらいのサイズならジャイアントトードの肉だけなら十体分以上は運べるんじゃない?」
解体した肉の量がどのぐらいになるのか判断できなかったけど、それなりに運べそうでよかった。
「肉と討伐証明を十セットは……あ、あれっ、いくら?」
確かジャイアントトードは討伐証明が小銀貨四枚、お肉が小銀貨四〜五枚。十セットなら……。
「小銀貨……じゃなくて、銀貨八枚ぐらいになるのかな」
「ふぇぇー!」
「驚くのはまだ早いわルイーズ。これには、荷車に乗せる分は含まれてないのよ」
うん。これなら二人にも十分メリットが生まれるかな。
「う、うわぁ! すごいよ、ニールさん。私たち大金持ちになっちゃうよ」
いや、大金持ちにはならないと思う。
「というわけで、さっき、このスキルを手に入れて部屋でいろいろ試していたんだ」
「お隣が生活音のうるさい人でなくて安心したわ。ところで、さっき手に入れたってどういうこと?」
「えっと、何だっけ。ガチャとか言ってた?」
おお、全然聞いてないかと思っていたら、ちゃんとルイーズさんの耳にもガチャという言葉は届いていたらしい。
ただ、このスキルガチャは見えないから説明するのが難しい。
「じゃあ僕のスキル、ガチャについて説明するね」
ガチャを頭に浮かべると、僕にだけ見えるようにガチャガチャの機械が目の前に現れる。
「二人には見えてないと思うけど、今、僕の目の前にはガチャガチャという機械があるんだ」
そんなこと言われても、といった困り顔の表情の二人。それでも進めさせてもらう。
さあ、今回のガチャは、と期待したところでやはりというか、残念ながら通常ガチャ。
まあ、いい。
「ガチャに銅貨を一枚入れます」
「き、消えたよアルベロ!」
「銅貨はどこにいったの!?」
「二人には見えないけど、銅貨は今ガチャの中に入りました。それでは回していきます。すると、あら不思議」
今回はリカバリーポーションが出たようだ。これが当たりなのかハズレなのか微妙なところだけど、通常ガチャでは今のところ一番価値のあるものではある。
「そ、それは、リカバリーポーション? どっから出したのニール!」
「これは、どういうこと? 空間魔法で買い物?」
「買い物とはちょっと違うんだけど、ガチャというのはお金を入れると、運任せで景品がもらえるものなんだ」
「ということは、次は違うものが出る可能性があるってことなの?」
「そうだね。さっき試した感じだとヒーリング草が出たり、まったく価値のない小石が出たりもしたんだ」
「うへー、それはちょっと微妙なスキルかなー」
ルイーズさんが残念に思うのは僕もよくわかる。
「だけど、そのガチャのスキルでインベントリを手に入れたってことでしょ。もっとお金をつぎ込めばすごいスキルが手にはいるんじゃ?」
「今、回しているガチャは通常ガチャで、インベントリを手に入れた時に回したのは初回限定の特別なガチャだったみたいなんだ」
「じゃあ、その……通常ガチャでは、いくら回してもスキルは手に入らないのね」
「たぶん……」
「まだ検証中ってことしら」
「うん。今日、自分の本当のスキルに気づいたばかりだから。ちなみに初回特典ガチャは銀貨一枚」
「ひぇー! 検証するのも大変だよー」
ちなみに、インベントリスキルについては秘密にしたほうがいいとのことだった。特殊な空間魔法として認知されているものの、そのレア度は非常に高い。
少なくとも冒険者ランクFの僕が持っていたら、攫われる可能性もありえるらしい。
荷物を運べるスキルとなると、商業ギルドで高額で取引されることもあるそうだけど、その扱いは逃げられないように禁忌魔導具を使われ奴隷のような扱いになる場合とかあるらしい。
もちろん、良い商人のもとで大事に扱われる場合もあるから、それは僕の判断だよとは言われた。
知り合いの商人さんに紹介もしてくれるとのことだったけど、僕は二人と一緒に冒険をしたいという気持ちが強い。
それは無能だと思われていた僕に今後は有能なスキルを手に入れられる可能性があるからというのもある。
基本的にスキルというのは先天的なものが多く、後天的に習得するのはなかなか珍しいとのこと。そういう意味で、スキルを増やせる可能性があるということはかなり特別なことかもしれない。
運次第ではあるけど、スキルガチャには可能性がある。もう少し検証が必要だし、検証するためのお金を貯める必要もありそうだけど。
というわけで、まずはお金を稼ぐことが目標になる。翌朝は三人で予定通りラウラの森の湖周辺へジャイアントトード狩りへ向かうことになった。
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