第13話ジャイアントトード
朝のラウラの森は冒険者の数も多く、それを知っているかのように魔物の数は少ない。
ある意味で平和なんだろうけど、森の奥でランクの高い魔物を狩りたい冒険者がこの平和を作り出しているのだろう。
森の浅いエリアで薬草採取を行うロージー先輩たちがこの恩恵を受けようと少し時間が経ってからやってくる。これはギルドからの指導の賜物といえる。
そう考えるとよくできた仕組みだ。もちろん、まったく危険がないかというとそうではないので注意は必要。それが二人で背中合わせ採取作戦なのだろう。
「ニールさん、荷車の調子はどう?」
「しっかりメンテナンスしてくれたみたいで順調だよ」
中古品ではあるものの、鉄製の車軸と車輪の箇所にはしっかりオイルが塗られていて、動きはとても滑らかだ。
本当は荷車をインベントリに入れておきたいところではあるんだけど、他の冒険者の目もあるので普通に引っ張っていくことにした。
行きに手ぶらで向かった僕が、帰りだけ荷車を引いてきたらすぐに怪しまれてしまうからね。
それでなくてもルイーズさんとアルベロさんのペアは注目されている美少女パーティ。そこに加わった特に取り柄のないニール。既に朝の冒険者ギルドで嫉妬の視線をいっぱい感じていた。
その三人組は今日からいつも以上に討伐証明と肉を持ち帰るようになる。その秘密が何なのか探りを入れてくる冒険者だって出てくるだろう。
「そろそろ湖が近くなってくるから注意しながら行きましょう」
「了解だよ、アルベロ」
「はい、了解です」
ここで、僕たちパーティの役割を簡単に説明しておこうと思う。
前衛はランクDのルイーズさんで、武器はショートソードと簡単な風魔法。
後衛にランクCのアルベロさんで、武器は弓と火魔法。
そして、同じく後衛にランクFの僕で、防具は大盾だ。
ルイーズさんがかく乱させて、アルベロさんが敵の急所を射抜いていくのが基本の流れ。もちろん、ゴブリンやジャイアントトード一体程度ならアルベロさんの助けを必要とせずにルイーズさんが倒してしまうこともあるそうだ。
そして、まだランクFの僕は荷物持ちとアルベロさんの守りに徹する。
一応、火魔法が使えるけど、慣れない僕が森で火を扱うのは練習してからの方がいいとのこと。
魔法には興味があるのでいっぱい練習してみたいけど、取り扱いには注意が必要らしいので、そこはじっくりやっていこうと思う。
とはいえ、火Eランクなので直接攻撃で敵に当てるとかは難しいらしい。一般的には敵の気をそらすとか、時間稼ぎ的な魔法の使い方になるようだ。
すると、すぐにルイーズさんとアルベロさんが戦闘態勢に入る。
「アルベロ」
「ええ、頼むわよ。ニール、ジャイアントトードよ」
「えっ、どこに!?」
その回答は先制攻撃をするルイーズさんの動きが教えてくれた。流れるように洗練された動きで攻撃を加えると、背後を取って追加の一撃。
ジャイアントトードがルイーズさんの方を振り返った時には、後ろからアルベロさんの弓がジャイアントトードの頭を射抜いていた。
「す、すごい」
一瞬の出来事だった。一分も掛からずにランクDのジャイアントトードをあっさり倒してしまった。
「一体ぐらいならこんなものよ。二体、三体いたらもう少し手こずると思うわ」
ジャイアントトードから矢を回収しながらアルベロさんは何てこともないように言う。
そしてルイーズさんはすでに討伐証明の舌を切っていた。
森の中を洗練された動きで攻撃を加えていくルイーズさん。結構な距離があったように思うのに狙い通り頭を射抜いているアルベロさん。しかも離脱したとはいえ、すぐそばにはルイーズさんもいたのだ。
これがランクCの冒険者なのだろう。
僕、本当にこのパーティに入れてもらってよかったのだろうか。少し二人に申し訳ない気がしないでもない。
「ニール、これの足を持ってもらっていい?」
「あっ、解体ですね」
「そう。アルベロが周囲を警戒してくれてるから今のうちにやっちゃいましょう」
ジャイアントトードのお肉として買い取りしてもらえるのはもも肉。この両足と足先を切り落としたものを持っていく。意外と血がそこまで出なかったのはよかった。
皮は剥かずにそのまま渡すらしい。そうすることで鮮度が保てるのだとか。
「それじゃあ、インベントリに入れちゃいますね」
「うん、お願いねー。あれ、アルベロどうしたの?」
「あっちから少し気配を感じた気が……いや、気のせいだと思うんだけど」
アルベロさんが指を指した方角は、遠い木の上で、そんな所に登る魔物はこの周辺には居ないだろうとの判断だったようだ。
「鳥かなー」
「うーん、何か木々が揺れた気がしたんだけど。一応、しばらくは上も気にかけるようにしましょう」
インベントリに入れたジャイアントトードの舌ともも肉は一つの種類として判断されているようだ。ジャイアントトードをタップすると、討伐証明の舌ともも肉に分かれていた。
まだまだインベントリに余裕はある。今日の目標は十五セット。つまり、銀貨約十二枚。一人あたり四万円を稼ごうとしている。その内、各一万円をパーティ貯金やメンテナンス費、荷車保管費用に回したとしても三万。
この額がベースになれば宵の月亭での連泊が現実味をおびてくる。僕自身はまだ一体も倒していないのに、なんだかもう倒した気にすらなっているのがちょっとこわい。
それだけ順調なすべり出しといっていいだろう。
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