第8話お買い物

 エルフで弓が得意なアルベロさん。ショートソードで前衛を受け持つルイーズさん。僕に求められる役割は荷物持ち兼、盾役となる。


 本日の買い物ではパーティの貯金から荷車と僕用の大盾を購入してくれるとのこと。二人は本気で稼ぎを増やそうとしている。僕が買うのは防具と服ぐらい。


 何か申し訳ない気もするけど、ここはいっぱい荷物を運んで恩を返したいと思う。あと、もう少し体も鍛えないといけないかもしれない。


「ニールさん、お待たせしました」


「うん。おはよう、ルイーズさん」


 僕よりも少し遅れて食堂にやってきたルイーズさん。はじめて見る私服姿もとてもかわいい。シンプルな薄いピンク色のワンピースだけどとても似合っている。


「あっ、今朝はチーズオムレツだー。これ好きなんですよねー」


「料理、本当に美味しいですよね」


 異世界の食糧事情というのがよくわかっていないものの、今のところ、宵の月亭の食事に不満はない。唯一あるとしたら日本人の僕としてはお米とみそ汁が食べられないことぐらいだろうか。お米、出ないよね? 今のところ、マッシュポテトとパンしか見てない。


「んんんー。美味しー」


 やわらかくプルプル卵の中に濃厚なチーズとホワイトソースが絡まったチーズオムレツ。ルイーズさんはパンの上に乗せて頬張って食べている。意外にもわんぱくな食べ方だ。


 その食べ方はいいかもしれないと僕が真似してパンの上に具材を乗せているとルイーズさんが「ふふふっ」と笑っている。


「この食べ方絶対美味しいんだけど、アルベロにはキレイじゃないからって怒られるの。この混ざってるのが美味しいのにね」


「そうなんですね。美味しいのになー」


 そうして、今朝も美味しい食事を満喫したらすぐに買い物へと向かう。


 最初に向かうのは冒険者ギルド近くに店を構える馬車のお店だ。冒険者は遠出をする時に馬や馬車を借りたり、また定期便と呼ばれる隣街への便に乗ることもあるそうだ。


「ここで荷車を買えるんですね」


「そうなの。この車輪の付いたものを造れる職人さんがいて、メンテナンスなんかもやってくれるんだー。アルベロと買いたいねって話していたのがあるんです」


 馬車用の荷車が造れるなら、人が引く荷車も造れてしまうのは納得だ。


「おはようございます。おじさん、荷車を見たいんですけど」


「おお、今日は買うんだろーな、ルイーズちゃん」


「ええ、ついに買ってしまおうと思って来ちゃいました」


「おお、本気か。例のやつだな。ちょっと待っててくれ」


 二人は顔馴染みなのか、馬車屋のおじさんはすぐに奥の倉庫へ荷車を取りにいってしまった。


「わくわく」


「本当に荷物運びをする人を探していたんですね」


「そう言ったでしょ。私たちにとってもタイミングはよかったんですよー」


 しばらくすると、奥の倉庫から緑色に塗られた荷車を引きながらおじさんが戻ってきた。中古品っぽいけど、しっかりした造りだ。この緑色はラウラの森でも目立たなくていい。


「これを引くのは兄ちゃんか?」


「あっ、はい」


「高さを調整するからこっちに来てくれ」


「おじさん、すぐに使えそう?」


「おお、任せておけ。明日には使えるように整備しといてやる。倉庫もレンタルするんだろ?」


「うん。お願いします」


「了解だ。よしっ、兄ちゃんももういいぞ」


「あっ、はい。よろしくお願いします」


「それにしても、兄ちゃんが新しいパーティメンバーか。ルイーズちゃんとアルベロちゃんのこと頼むぞ」


「はい。がんばります」


「じゃあ、次は武器屋さんに行くよ」


「あっ、ルイーズさん、ちょっと待ってー」


 おじさんに頭を下げると、おじさんは眉尻を下げた笑顔で早く追いかけなと手を振ってくれた。


 次に向かう武器屋さんは、冒険者ギルドと宵の月亭のある広場とのちょうど中間地点にあった。


 冒険者ギルドから近い方が武器のメンテナンスとか買い換えを考えると便がいいらしく、そういう意味でお店の立地はとても重要らしい。


 ルイーズさんが案内してくれた武器屋さんは防具中心に品揃えされているお店だった。


「ここはねー、剣はいまいちだけど盾や防具はとっても魅力的なの。あと、お値段もね」


「余計なお世話じゃ」


 ルイーズさんの声を聞いて奥から現れたのはドワーフの店主だった。


「おじさん、ニールに大盾を見繕ってもらいたいの。予算は銀貨五枚までね」


 銀貨五枚は宵の月亭で十日連泊できる金額。日本円にして五万円相当。武器として考えた場合……普通なのだろうか。


「大丈夫なんですか?」


「いいから、いいから。ちゃんとアルベロとも相談して決めたの」


「別にたいして高くない予算じゃろ。ふむ、ランクは……Eぐらいか?」


「あっ、はい。そんなもんです」


「それなら、これとこれを持ってみろ」


 ドワーフのおじさんから渡されたのは、硬い木製の大盾と、大盾にしてはやや小さめの円形タイプで鉄で補強されているもの。大盾だけあってどちらもそれなりに重い。


「おじさん、ついでにニールの防具も揃えたいの」


「予算は?」


 ドワーフのおじさんは、僕を見てそう言ってくる。防具の予算は二人とも相談してある程度決めていた。


「銀貨四枚でお願いします」


「盾持ちということは前衛か? それとも後ろでアルベロの守りか?」


「後ろです。身動きのとりやすいものでお願いします」


 これも決めていたことで、戦闘経験の少ない僕は慣れるまで弓をひくアルベロに魔物を近づけさせないようにする役目を担う。あとは、荷車と自分の身をを守ることが優先とのことだ。


 盾を持つことになるので、お金に余裕のない僕は身軽さ重視にさせてもらった。


「なら、基本的には皮製で問題ないか?」


「はい」


「サービスで胸あてに鉄板を張り付けたのにしてやろう」


「ありがとうございます」


「体の大きさを測るからこっちに来てくれ」


「それでニールはどっちの盾がよかった?」


「うーん。木製の大きな方かな」


「じゃろうな。後衛の盾持ちなら大きめの盾の方が立ち回りがしやすいじゃろ」


「うん、そうかもねー。じゃあ、それでお願いね。えーっと、銀貨を……」


「ルイーズ、お金なんじゃけど、ちと相談がある。そいつ、ニールの着ている服と交換にはならんか?」


「ニールの服と盾を交換ってことですか?」


「皮製の防具とそれらのメンテナンス費用五回分もつける」


「ええええー!」


「では、それでお願いします」


「ちょっと、ニールいいの?」


「いいですよ。こちらの世界の服に慣れなきゃですしね。新しい服を買ったら洗濯して持ってきますね」


「でも……」


「いいから、いいから。それでお願いします」


「そうか、そうか。こんな繊細な裁縫技術見たことがないからのう。どういう風に作られているのか気になっていたんじゃよ」


 僕としては今着ている普段着が銀貨九枚分以上の価値を持つというなら即決するし、まったく後悔もない。それに盾代を自分持ちに出来たことの方が二人にどこか申し訳なかった気持ちが減る気がしたというのもある。

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