第9話スキルガチャ
その後、屋台でランチを食べたり、服屋さんを紹介してもらったところでルイーズさんと別行動することになった。
どうやら服屋さんというのは基本的に古着らしく、サイズを合わせるのに結構な時間がかかるらしい。
ということで、ルイーズさんはポーションを買いに別行動。夜になったら宵の月亭で明日の打合せをすることになっている。
ちなみな服には全部で銀貨二枚が消えていった。でも、防具屋さんで服を売った分を考えると収支はプラスなので良しとしよう。
さて、今日やることは終わったものの、まだ夜ごはんまで時間がある。とはいえ、薬草クエストを受けるほどの時間があるわけでもない。
「ルイーズさんはポーションを買いに行っているんだよね。って、ポーションか!」
そう、僕にはポーション精製スキルという使えないスキルがあったじゃないか。銅貨一枚の価値しかないけど、少しでも節約になるなら使わない手はないだろう。
使えないスキルだからと言われていたせいで、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「ええっと、確か、頭に思い浮かべるんだっけ……」
スキル、スキルと頭の中で念じていると、あの時と同じように、目の前にはガチャガチャが現れた。
「ん?」
ところが、そのガチャガチャは一回目の時と比べて明らかな変化があった。
まず、ガチャにはイラストで描かれた銀貨のマークに数字で一枚と書いてある。
つまり、銀貨を一枚入れて回せということなのだろう。
銀貨一枚は大変貴重なお金である。それはこの数日で身にしみるほど感じている。
この先を考えると絶対に節約しなければならない状況。しかも一回のガチャが銀貨一枚、つまり一万円相当とかこわすぎる。
そんな状況にも関わらず、僕の手はガチャに吸い寄せられるように銀貨を入れそうになっている。
「いやいやいや、ちょっと待とう」
僕の全財産は城から出る時に渡された手切金の銀貨が少しだけ。
「おかーさーん。あの人、変だよー」
「見ちゃダメよ。みーちゃんはあんな風にならないようにね」
「くっ……」
路地裏でブツブツと独り言で誰にも見えないガチャに悩んでいるのは確かに不審人物と言っていい。
しょうがないとはいえ、自分の今の環境に少し悲しくなる。
何で僕がこんな目に合わなければならないのか。
それでもこの世界で生きていかなければならない。
まあ、いいだろう。
それよりも今はこのガチャだ。
僕がこの世界でガチャを回したのはたった一回だけ。
そう、召喚されてすぐに王様にスキルは何だと言われて回した時だ。
ただ、これはお城で回したガチャと明らかに雰囲気が違う。それは銀貨を投入する穴と初回特典付プレミアムガチャと書かれている点にほかならない。
お城で回した時は確かチュートリアルと書かれていた気がするし、あの時はお金を入れる穴すらなかったのだ。
「これはひょっとしたら、ひょっとするかもしれない……」
初回はあくまでもテストガチャであり、性能を理解する上でのお試しにすぎなかった可能性。
つまり、今回のガチャが今後を左右する本当の意味でのスタートガチャなのかもしれない。
お城で出たガチャの景品はポーション。しかも品質的に一番安いやつだった。
異世界でポーションだけで生きていくなんて無理がある。
銀貨を使ってポーションでは餓え死に確定。圧倒的マイナス。損が大きすぎる。そんなガチャはない。魅力がなければ誰もガチャは回さないのだ。
ポーションが銅貨一枚で売られているのは確認済み。銅貨一枚は約百円の価値。一万円の投資で百円はありえない。だからこそ、このガチャでポーションは絶対に出ない……よね?
まあ、そんなことはどうでもいい。悲しいポーションの記憶、終わったことを悔やんてもしょうがない。
今はこのガチャをどうするかだ。
初回プレミアム特典ガチャ。
きっと異世界で生き残るための大切なアイテムが手に入る可能性が高い……気がする。
いや、そうに違いない。
どちらにしろ試さなければ前には進めない。どうせやるならお金に余裕がある時にやるべき。
日々を生きるだけでもお金はどんどんなくなっていくのだ。いつやるの? 考えるまでもなく今だろう。
僕は祈るように銀貨を投入した。
チャリン♪
すると、軽快なミュージックと共にガチャがイルミネーションのように輝きだした。
「おおお、演出か!?」
期待は大きく膨らむ。
僕は迷うことなくガチャを回した。
しっかりとしたハンドルの手応えを感じながらガチャの重みを感じる。
一回、二回、そして三回と回すとイルミネーションが虹色になり強烈なライトに包まれる。
そして、ガタゴトンと落ちてきたのは金色のカプセル。
初めて見る演出だけに、これがレアなガチャなのか普通のものなのか判断はできない。でも、あきらかにチュートリアルの時とは雰囲気が違う。
虹色演出に金のカプセル。僕の知っているガチャ演出でもこれはかなり上位にくるものだろう。
「ちょっとぐらい期待してもいいよね?」
カポッとカプセルを開けると、中から煙のようなものが出てくる。中身は……中身は何もない。
「ハズレ!? いやいやいや。そんな訳がない」
すると、僕の頭の中に新しいスキルのイメージが伝わってくるではないか。
「こ、これは……インベントリ。レベル1か」
このイメージはまさに僕の知っているゲームと同じインベントリ。つまり、空間魔法的に物の出し入れすることができるやつが手に入ったのだ。
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