第7話夜ごはんと相談

 やっぱり少し遠くまで行って湖付近のマギカ草狙いに切り替えるべきだろうか。


 しかしながら、仲間のいない僕が一人で行くのは危険かもしれないし、そんな場所へロージー先輩を連れていくわけにもいかないだろう。


 ギルドからもらったマップには湖周辺はジャイアントトードの一大棲息地、そしてゴブリンの出没もあると記載があった。ステータス的にはEランク相当な僕だけど、ジャイアントトードやゴブリンのランクはその上のD。そんな場所へ一人で行くのはちょっと現実的ではない。


 実際にその二体の魔物を見たことはないけど、一体なら何とかできたとしても、複数で襲われたら絶望的な気がする。


 そもそもな話しだけど、装備から整えなければならない。さすがに採取用のナイフで戦おうとは僕も思わない。冒険者の人が装備しているような鎧や剣が必要になるだろう。


 しかし、そうなるのまた出費がかさむのか……。


「浮かない顔をしてますね。何か悩みごとですか?」


 考えごとをしていたら、目の前にルイーズさんの顔があった。


「あわっ!? ル、ルイーズさん」


「はい、ルイーズさんですよー。美味しいお料理が冷めちゃいますよー」


「あっ、そうですね。いただきます」


 今は宵の月亭に戻って夕食を頂いているところ。今後のことを考えたらいろいろと不安になってしまった。


 明日は武器や防具の値段を調べに行ってみようか。今後お金がどのぐらい必要になるか知っておいた方がいい。


「隣の席いいですか?」


 そこにはエプロンを外したアルベロさんがトレイを持って立っていた。


「あれっ、二人ともお仕事はもう終わりなんですか?」


「うん。今日はお客さんも少ないから、夕飯食べて終わりでいいってー」

「嫌なら他の席に行くけど」


 明るく元気なルイーズさんとクールな印象のアルベロさん。お隣の部屋なので、ご挨拶がてら少し話でもといったところなのだろう。


「いえいえ、どうぞどうぞ」


「ここの料理、美味しいでしょ」


「はい。いい宿を紹介してもらいました」


「でしょー」


 そう言いながら、ルイーズさんはフォークにパスタを巻きつけていく。


 今夜のごはんは野菜とお肉のパスタに、スープとサラダ、あとパンが付いている。パスタの味付けは濃いめでスパイスがしっかり効いている。異世界料理、とても美味しくて感激している。


 しばらく食事を楽しんでいたら話しかけてきたのはアルベロさんだった。


「だけど、その分個室は高いでしょ。私たちも二人で一部屋を借りてるもの。お金、余裕あるの?」


「余裕は……あまりないですね。でも、しばらくはこのまま連泊するつもりです」


「ニールさん、薬草採取をしてるってことはそんなにランク高くないですよね。それに何か悩んでそうな感じだったから、アルベロも心配したんですよ」


「ちょっと、ルイーズ」


「ふへへー。こう見えてアルベロは優しいんですよー。ニールさん、何か悩んでいるなら私も相談くらい乗りますからね」


 屈託のない笑顔でそう話してくれるルイーズさん。二人はいい人だと思う。


 話してもいいのかな。うん、別に隠すようなことでもないか。ということで、二人に僕の悩みを聞いてもらうことにした。


 異世界人というのもそこまで珍しい感じでもなさそうだし、僕には人にみつかったら大変な能力があるわけでもないのだから。


 あと、誰も知らない場所で生きていくには周りの助けというのが必要であると十分理解させられた。


 騎士団長にこの宿を教えてもらわなかったら。ギルドでカルデローネさんが親切に教えてくれなかったら。ラウラの森でロージー先輩に声を掛けてもらえなかったら。


 一人で生きていくのは限界がある。それならば、もっと自分のことを周りに知ってもらう努力をしなければならない。


 だから聞いてもらおう。それで何か手伝ってもらえることがあるなら頭を下げてお願いをしよう。


 僕は思い返すように、自分の身に起きた出来事を二人に話した。思い出しながら話をしていたら、恥ずかしいことに自然と涙がこぼれ落ちていた。


 どうやら僕の心は相当弱っていたらしい。


「ひどい!」

「信じられない……」


 二人はまるで自分のことのように怒ってくれた。


 変った服装からも二人は僕が異世界からやってきた人かもしれないとは思っていたようだけど、その理不尽な召喚とその後あっさりと追放した国のやり方に驚いていた。


 僕は二人が怒ってくれたことと涙を流したせいなのか、少しすっきりと気分が落ち着いていた。多分、この理不尽なことがこの世界でも普通ではないことを二人が教えてくれたからだろう。


 王様とか神官長に良い印象は持てないけど、それ以外の人との出会いには感謝している。


 どちらにしろ、僕はこの世界で生きていかなければならない。ならば、前を向いてどうすればいいかを考えよう。


「アルベロ、あのさ……」


「ええ、別に構わないわよ」


「えっ、いいの? 男の人は嫌だって言ってたでしょ」


「それはルイーズもでしょ。あなたはいいの?」


「うん。ニールさんはいい人だと思うから」


 何やら二人で話し始めてしまった。


「えっと、二人とも何の話?」


「ニールさんがよければなんだけど、私たちとパーティを組まない?」


 僕が二人とパーティ。これはとてもありがたい提案だ。二人のランクはわからないけど、三人なら行動できる場所も範囲も変わってくるし、一人で活動するよりも安全になるのは間違いない。


 何よりもこの世界の事を知らない僕にとって、相談できる仲間ができるというのは本当に助かることなのだから。でも、本当に甘えてしまっていいのだろうか。


「僕のステータス平均以下ですよ」


「ニールさん薬草採取してるから、何となく察してますよ」


「僕は嬉しいのですけど、二人にメリットがないというか……」


「そうね。今のところメリットはないわ。でも異世界の知識はどこかで役に立つこともあるはずよ」


「私のランクはDでアルベロはCなの。ラウラの森で狩りをしても大きな魔物は持って帰れないから、ちょっと悩んでいたというか……」


「荷物持ちとしての役割が求められているってことですか?」


「そう。今まで持ち帰れずに棄てていた魔物の肉をギルドに売れば、もっとお金を稼げるわ」


「それに、パーティに男の人がいると面倒くさくなくなるというか、私たちにもメリットがあるのよ」


 どうやら美少女二人組のパーティともなると、男性冒険者からパーティ参加の誘いが頻繁にあって正直辟易していたらしい。


 僕がパーティに参加することで少しでもそういったお誘いが減れば助かるとのことらしい。


「それじゃあ、お願いしてもいいかな。なるべく足を引っ張らないように精一杯やってみます」


「うん、よろしくね、ニール」

「頼むわ」


 ということで、僕の運が少し上がってきているのか、美少女二人組とパーティを組むことになってしまった。


 翌日は二人とも休息日ということで、アルベロさんは昼まで寝てるとのこと。ルイーズさんはパーティの買物ついでに僕が防具や服を買いに行くのに付き添ってくれることになった。

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