第6話はじめてのクエスト

 とりあえず何かクエストをということで、清浄が扱えない僕は排水路の掃除ではなく薬草採取を行うことにした。


「気をつけてくださいね。あっ、これは周辺の簡易マップになります。こちらは無料ですよ」


「あ、ありがとうございます」


 実はカルデローネさんから薬草採取セットなるものを購入することを勧められ、小銀貨七枚が消えていった。


 お金、思っているよりすぐに無くなりそうでもう不安でいっぱい。


 ただ、薬草採取セットを買ったのにはちゃんとした理由がある。セットの内訳は、採取用ナイフ、一般的な薬草標本イラスト、薬草採取図、薬草保管バッグの計四点。これだけ揃って七千円ならお買い得だろう。


 当たり前だけど薬草を見たこともない僕にはなくてはならないセット。


 ナイフはもちろん持ってないし、どれが薬草なのかわからないので標本イラストも必須。そして、採取の仕方がわからないので、種類ごとに図でわかりやすく説明してくれているのはありがたい。


 それから、薬草を入れるバッグ。これは背中に背負うタイプのもので内側で薬草の種類が分けられるようになっている。


 見た目には初心者丸出しかもしれないけど、これでいい。例えバカにされたとしても、初心者だからこそ助けてもらえる場面だってあるだろう。


 異世界で頼れるものが何もない状況なだけに、こういったことは大事な気がしたのだ。


 ということで、さっそく冒険者ギルドを出発した。ギルドから程なくしてすぐに大きな門がある。ここには門番の方がいて、外に出る時と入る時にタグの掲示が義務づけられている。


「はい、どちらへ行くんだい? えーっと、ニール君ね」


「ラウラの森へ薬草採取です」


「なるほど、ホーンラビットには気をつけてな」


「はい、ありがとうございます」


 カルデローネさんにも言われたけど、薬草の取れる辺りにはホーンラビットもいるので気をつけてくださいとのこと。


 採取に夢中になってるところ、後ろから角で刺されたなんてのはよく聞く話らしい。そういうことなので。念のためポーションを買いましょうとリカバリーポーション三本セットを銅貨三枚で勧められた。


 確かに必要なんだろうけど、そういえば僕も一つ持っていたなーと思い出したのでご遠慮させてもらった。節約大事。


 初級ポーションの効き目とかどんなものかわからないけど無いよりはマシだろう。


 まあ、酷い怪我をしたならまたスキルでも使ってみようか。一日経ったし、またポーション出せるかもしれないよね。


 さて、ここからは周辺に注意しながら進んでいく。街道から少し外れて森の方へと進んでいくと、もうすれ違う冒険者が何組かいる。


 早めに街に戻る理由は大きな獲物を狩ったからだったり、足を引きずるような姿を見るに怪我のためだったりと様々な様子。


 ここから先は危険な魔物がいる森。さすがに街の近くの森で危ない魔物はそこまで多くないとのことだけど、もしもの場合はあるので気をつけたい。


 そうして、マップにあった一番近い薬草採取エリアにたどり着いた。


 周囲を見渡すと、薬草組の冒険者が地面に座り込んで採取している。


 ここはヒーリング草の群生地としてチェックされている場所だ。どうやら二人組になって背中合わせで採取するのが流行っているらしい。


 これはあれか。ギルドですすめられているホーンラビット対策だね。カルデローネさんに聞いたけど、僕には仲間なんていないからね……。


「あ、あの。よかったら一緒に組みませんか?」


 目の前に現れたのは十歳ぐらいの少女。どうやら二人組になれなくて困っていたようだ。


「僕でよければご一緒させてください」


「やったー! せっかくラウラの森まで来たのに薬草採取できないかと思ったよー」


「よろしくお願いします。ニールです」


「私はロージー。ニールさんの採取道具、新品ですね」


「今日がはじめての冒険者デビューなんだ。よろしくね、ロージー先輩」


「せ、先輩……!? そ、そうね。いろいろ教えてあげなくもないわ」


「よろしくお願いします」


「ヒーリング草は根元でカットするの」


 ロージー先輩の指導のもと、背中合わせになってヒーリング草の採取をしていく。まあ、これだけ人がいればホーンラビットも警戒して出てこないだろう。


 ヒーリング草は三束でひとまとめにしておく。根は残しておいてちゃんと土の中へ埋め戻しておく。そうすることでまた新しいヒーリング草が生えてくるそうだ。


「ロージー先輩が持っている紐は何ですか?」


「これはロータスのツタだよ。薬草を縛るのに使うの。森に入るところで集めるんです。今日のところは先輩である私が特別に差し上げますね」


「ありがとうございます、ロージー先輩」


 それからしばらくヒーリング草を集めたところで日も暮れてきたので終了することにした。


 ロージー先輩の帰りが遅くなったら家の人も心配するだろう。お家に帰るまでがクエストなのだ。本音を言うと湖近くの群生地にも行ってみたかったのだけど、またの機会にしようと思う。


 というわけで、初クエストは特に危険なこともなく無事に終了した。


 採取した薬草

 ヒーリング草、三十束 銅貨三十枚

 デトキシ草、二束 銅貨十枚

 マギカ草、一束 小銀貨一枚


 ゆっくりスタートだったとはいえ五千円ぐらいの稼ぎか。


 子供のお小遣い稼ぎならまだしも、薬草採取で生計を立てるとかちょっと現実的ではなさそうに思える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る