第21話 おっとり爆烈

 女性がオシャレを怠らないように、男もモテ続けるために努力をしなければならない。


 清楚で王道な美熟女、志津子しづこさん。


 快活で明朗な美熟女、玉枝たまえさん。


 この最高の美熟女たちをゲットしたからって、油断してはならない。


 少しでも怠慢をこけば、好感度が下がってしまう。


 この世界は元々ゲームの世界だし。


 まあ、ゲームも現実リアルも同じなんだろうけど。


 とにかく、俺は愛しのスーパー熟女ヒロインたちを手放さないためにも、自分磨きをすることにしたのだ。


 その手始めとして、美容室に行くことにした。


 やはり、髪型は重要だ。


 モテる男は、こまめに美容室に行って、ヘアセットをしていると聞くし。


「ここか……」


 この界隈で評判の美容室を予約して来た。


 いかにもオシャレな人たちが集いそうなお店。


 元々、前世から陰キャの俺は、ひどくドキドキしてしまう。


 前世では、絶対に来なかったようなお店。


 けど、今の俺は違う。


 変わらなければならない。


 この物語ゲームの、真の主人公として――


 カララン。


 入口の扉を開くと、ベルが鳴る。


「いらっしゃいませ」


 しっとり、おっとりした声が、まず出迎えてくれる。


「すみません、予約していた須郷すごうですけど……」


 瞬間、俺は目を見張った。


 まず、目に飛び込むのは、特大のバスト。


 これ、志津子さんよりも……デカいぞ。


 そして、顔を上げると、その声質どおりの、おっとりした雰囲気の美熟女が微笑んでいた。


 おっとりしているけど、赤茶のセミロングと、少々派手め。


 やはり、何だかんだ、陽キャ属性の美容師。


「どうかされましたか?」


 彼女は小首をかしげる。


「あ、いえ……今日は、よろしくお願いします」


「はい、こちらこそ。どうぞ」


 おっとり美熟女さんが案内してくれて、椅子に座る。


「改めまして、本日カットを担当させていただきます、落合藤乃おちあいふじのです」


「はい……よろしくお願いします」


 自分磨きのために美容室に来た、というのは決して嘘ではない。


 ただ、もっと大事な目的があった。


 ここに、3人目の真ヒロインがいる。


 いま、正に、俺の目の前に。


「須郷さんは、高校生かしら?」


「あ、はい、そうっす」


「じゃあ、うんとモテたい年頃ね」


 何だろう、何気ない一言一言が、いちいちゾクゾクしてしまう。


 声質に関しては、1番エロい。


 そして、バストも……作中最大。


 確か、102mのJカップ……すごすぎる。


 そのド迫力バストが、俺のすぐ後頭部に。


 ちなみに、身長もヒロインの中で1番高い170cmだ。


「さて、本日はどのようにいたしましょうか?」


「えっと……年上に受けるような感じで、お願いします」


「年上……というと、高校の先輩だから、1、2個上かしら?」


「いえ、その……もっと上」


「大学生?」


「いや、あの……」


「もしかして、20代のOLさん? もう、おませさんね?」


「……もっと上です」


「えっ……」


 やばい、さすがに引かれたか……?


「……須郷くんって、変わっているのね」


「いや、まあ……」


「……じゃあ、リクエスト通りに切りますね」


「お願いします」


 スッ、と俺の髪にハサミが入る。


 チョキ、チョキ、と。


 この切った髪と共に、雑念も落ちて行けば良いのだけど。


 鏡越しに見る美熟女、藤乃さんがエロすぎて、止まりそうにない。


 まあ、毛がつくのを防ぐ大きいマントみたいなのを羽織っているから、万が一のボッ◯がバレることはないだろうけど。


「ちょっと、目を閉じて」


「あ、はい」


 藤乃さんは、俺の前髪に触れる。


 言われた通り、目を閉じた。


 直後、むにゅっ、と。


 後頭部に、特大のマシュマロが押し付けられた。


 いや、コレは……


 ギン!


 あっ……立っちゃった。


 ま、まあ、大丈夫だろう。


「ごめんね、少しだけ我慢して」


「あ、はい」


 少しと言わず、永遠にこの時が続いても良いんですよ?


 目を閉じることで、五感の内、触覚が研ぎ澄まされて。


 藤乃さんの、爆乳Jカップ(102cm)を、これでもかというくらい、堪能してしまう。


 ていうか、他の男の客にも、こんな感じなのかな?


 おのれ、俺の藤乃さんなのに……


 なんて、バカな嫉妬心を燃やしてしまう。


「はい、もう良いわよ」


 パチっと目を開く。


「ごめんなさい、苦しくなかった?」


「大丈夫です、平気でした」


「そう……なら良かった」


 んっ?


 心なしか、藤乃さんの頬が赤らんでいるような……気のせいか。


「ねえ、須郷くん」


「はい?」


「苦しかったら、遠慮せずに言ってね?」


「えっと……ああ、首はそんな苦しくないですよ?」


 マントみたいなやつを止める首元に目を落として言う。


「……そう」


 藤乃さんはサッ、と視線を逸らす。


 あれ、何かまずいこと言ったかな?


 攻略ルート乗る前に頓挫とか、そんなことないよな?


「店長、シャンプー台が空きましたよ」


 他のスタッフがやって来て言う。


「ええ、ありがとう」


「あたし、やりますね」


「いえ、その……わたしがやるわ」


「へっ? でも……」


「たまには、シャンプーもやらないと。腕が落ちちゃうから」


「さすが、店長です。じゃあ、お願いします」


「はい……須郷くん、どうぞシャンプー台へ」


「う、うっす……」


 何とも言えない空気を噛み締めていた。







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