第18話 沼った

 目を覚ました時、ぜんぶ夢だったんじゃないか、と思うおとを恐れた。


 志津子しづこさんとエッチしたこと。


 いや、それ以前に、俺が死んでこの素敵なギャルゲー、いや、熟女ゲーの世界に来たこと自体が……


「……おはよう、元則もとのりくん」


 けど、そんな俺の怯えを拭ってくれる、優しい声音がそばで聞こえる。


「……おはようございます、志津子さん」


 俺たちは見つめ合う。


 それから、キスをした。


 すごく幸せだけど、照れくさい。


 ていうか、お互いの裸のまま、布団をかけた状態で……


「……ハッ、いま何時ですか?」


「夕方の5時ね」


「も、もうそんな時間……やばい、彩香あやか……娘さんが帰って来ちゃいますよ」


「大丈夫、あの子にはデート終わりにお買い物を頼んでおいたから。たぶん、帰って来るのは6時頃」


「あ、そうですか……」


「けど、なるべく早く着替えようか」


「で、ですね」


 俺はそろそろとベッドから這い出た。


 すると、先ほどまで、志津子さんとメイクラブしていた、マイジュニアと目が合う。


 心なしか、誇らしげだ(アホか


 俺はサッと両手で隠す。


 志津子さんは、右腕で巨乳を、左手で女性の大事なところを隠す。


 お互いに、照れたように頬を赤らめた。


「……あはは」


「……うふふ」


 お互いに、サッと背中を向け合って、着替えを済ませた。


「ねえ、元則くん。良ければ、晩ごはんも食べて行く?」


「いえ、そうしたい気持ちは山々ですけど……さすがに、娘さんに怪しまれると思うので」


「ああ、それもそうね……残念だわ、もっと元則くんと……一緒にいたいのに」


「し、志津子さん……」


 ブルリと身が震える。


 もちろん、良い意味で。


「また、しましょうね?」


「えっ? いや、その、あの……」


「デート」


「……あっ。は、はい」


「あと、デザートタイムも……ね?」


 志津子さんが、照れながらも、ウィンクして言う。


 その様がとてもチャーミングで、たまらない。


 油断すると、マイジュニアがちょろっと何かを吐き出しそうだった。


「……ぜ、ぜひとも、お願いします」


「うふふ、はい♡」




      ◇




 俺の心はもう、完全に決まった。


 まだ、すべてのヒロインと会っていないけど、決まった。


「志津子さん……」


 風呂上がり、自室のベッドにて。


 俺は志津子さんとの甘いひと時を胸に抱きながら、火照っていた。


「……愛しています」


 軽々しく言うことじゃないと分かっているけど。


 でも、どうしようもなく、その気持ちが溢れて来る。


 きっと、俺だけじゃなく、志津子さんも……


『はあああああぁん! 元則くうううううぅん!』


 ……クソほどエロかった。


 俺が懸命に腰を振るたびに、あの魅惑のI乳が揺れまくって。


 もちろん、俺は志津子さんのカラダだけに惹かれた訳じゃない。


 ちゃんと、ココロにも惹かれている。


 そう、俺は志津子さんの全てを、愛しているのだから。



 ピロン♪



「あっ、志津子さんからかな?」


 と、心弾んでスマホを見た。


 しかし……


『よっ、ノリ坊♪』


 違った。


『あ、玉枝たまえさん……こんばんは』


『ちょい、何よそのノリの悪さは? もしかして、あたしから連絡くるの迷惑だった?』


『い、いや、そんなことは……』


 と、たじろぐけど、俺だって男だ。


 ここはしっかり、ハッキリ、言うべきだ。


『あの、玉枝さん』


『なに?』


『ちょっと、お話しておきたいことがありまして……』


 その後、俺はなるべく丁寧に、志津子さんとのことを話した。


『……そっか、なるほど』


『はい。ですから、今後は玉枝さんとこんな風に連絡は……』


『はぁ~、辛いなぁ~、失恋って』


『すみません……』


『もう、他の男に抱かれちゃおうかな』


『えっ、他の男って……旦那さん……ですか?』


『いや、ダンナ以外の男だよ。まあ、適当に見繕ってさ』


『そ、それは……浮気、ってことですか?』


『そっ。ぶっちゃけ、ノリ坊以外とそんなことするつもり無かったけど……もう最近、カラダの疼きが抑えられなくてさ……』


『そ、そうなんですか……』


 俺は思わず、ゴクリと生唾を飲み込む。


『あーあ、残念だねぇ~。この極上のスレンダー巨乳ボディ、あんたの好きに出来たのに……他の男にその権利あげちゃったね♪』


『いや、あの……』


『まあ、あたしよりも、来栖さんの方が素敵だもんね~? だからもう、あたしなんて、用済みだよね~?』


 こ、これは……


『よし、とりあえず、マッチングアプリに登録して……』


『……あの、玉枝さん』


『えっ、なに?』


『……とりあえず、ちょっとお茶するだけなら』


『お茶ねぇ~……まあ、良いけど。いつにするの?』


『今度の週末は……空いていますか?』


『うん、空いているよ。あたしのお部屋、いつだって』


『お、お部屋? いや、まさか、ご自宅だと旦那さんが……』


『いや、そういう意味じゃなくてさ……ねっ?』


 俺はしばし、ポカンとしてしまう。


 けど遅れながら、ようやく察して……


『……スケベ警察がいたら、逮捕ですよ?』


『それはノリ坊の方でしょうが。だって、人妻と……来栖さんと、ヤっちゃったんでしょ?』


『……ご想像にお任せします』


『もう、嘘がヘタすぎ♡』


『あの、まさか、学校とかにバラしたりなんて……』


『いや、あたしそんな悪い女に見える?』


『……いえ、見えません。むしろ、玉枝さんはヒーローみたいですし』


『アハハ! ヒーローとか、ウケる。やっぱり、ノリ坊はおもしろいな~(笑)』


『あはは……』


 正直、俺はちょっと笑えない状況です。


 前世で願った、熟女ハーレム王への道を歩み始めたのに。


 たぶん、この世界がリアルすぎるから、罪悪感が湧いて来るのかな?


 けれども、俺はもう……


『嫌なら、いつでも言ってね? そしたら、すぐ他の男に抱かれるから』


『お願いですから、早まらないで下さい』


『それはノリ坊次第かな~♪』


『……はい』


 俺はもう、熟女沼にハマッてしまったのかもしれない。







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