第17話 お家デート

 何だろう、今日はどっと疲れが溜まっている。


「……はぁ~」


 帰宅後、フロにも入らず、自室のベッドに仰向けに倒れ込んだ。


「……やっちまったな」


 まさか、あんな展開が待ち受けているなんて。


 ヒロイン同士が、早くも火花を……


 そして、ずっと優しかった志津子さんが、初めて俺に辛辣な表情を……


「……あぁ~!」


 頭を抱えて悶絶してしまう。


 違う、違うんです、志津子さん。


 俺はおもむろにスマホに手を伸ばす。


 それから、おそるおそる、メッセを送った。


 しかし、なかなか返って来ない。


 いつもなら、速攻でレスが来るのに。


 しかも、既読がついた状態での放置。


 これは……


『もう、元則くんなんて嫌い。他の男性ひととイチャコラしているわ』


『そ、そんなぁ~!』


 想像しただけでゾッとした。


 志津子さんが、他の男と……だなんて。


『志津子さん、今日は本当にごめんなさい』


 俺は返信が来る前に、追いメッセをしてしまう。


『俺、こんなこと言うのもアレですけど……志津子さんのことが……好きなんです』


 人妻に対して、決してイケないアプローチ。


 重々承知しているにも関わらず、今の俺は焦りから、ついつい本音がこぼれてしまう。


『だから、その……許して下さい』


 ていうか、やっぱり俺って、モテないな。


 だって、本当にモテる余裕がある男は、こんな風に追いメッセなんてしないし。


 堂々と女からの返事を待って、来なければサッと切り捨てる。


 まあ、そんなクズムーブをかます度胸も気力もない訳だけど。


 何より、俺はそんな風に志津子さんのことを……


 ピロン♪


『……本当にそう思っているの?』


 すると、志津子さんから返事が来た。


 俺は焦りで指先が狂いそうになりつつも、しっかりとメッセを打つ。


『はい、本当です。こんなこと、まだ高校生の俺が、人妻の志津子さんに言うなんておかしいですけど……ごめんなさい』


『ううん、私の方こそ……ごめんなさい。今日、南条さんのことを知って……嫉妬しちゃったの』


『嫉妬……ですか?』


『ええ。だって、南条さんは私にない魅力を持っている人だから』


『そうですね……でも、俺は志津子さんの方が……』


『元則くん……』


 これは……


『……でも、言葉だけじゃ信じられない』


『えっと、じゃあ、どうすれば……』


『今度の休日、私のお家に来てちょうだい』


『志津子さんのお家に……でも、来栖さん……彩香さんがいますよね?』


『あの子ね、小林くんとデートするみたいなの』


『優太と? あいつ、いつの間に……』


『今日、元則くんが途中で帰った後、2人でそう決めていたわよ』


『そうですか……じゃあ、その日は志津子さんと……2人きりってことですか?』


『うん……そうよ』


 俺はいつの間にか、立ち上がっていた。


 ついでに、俺のジュニアも……ムクムクッ。


『ぜひとも、お願いします』


『うふふ。じゃあ、楽しみに待っているから』


『こちらこそです』


『じゃあ、おやすみなさい』


 志津子さんとのやりとりを終えると、


「はぁ~……」


 俺はまたため息を漏らす。


 けど、先ほどとは毛色が違う。


「よし、風呂に入ろう」


 マイジュニアも、すでにギンギンだ。




      ◇




 志津子さんとお家デートの約束をしてから、下手すればずっとギンギン状態だけど。


 俺は淑女たる熟女を愛する、紳士ユーザー。


 だから、決して己のエロ感情に振り回されることなく。


 今日も、志津子さんとプラトニックなデートニングをするのだ。


 ピンポーン。


 インターホンを鳴らす。


『はーい』


「あ、元則です」


『いらっしゃい、すぐ開けるわね』


 そして、ドアが開く。


「……わっ」


 エプロン姿の志津子さんがいた。


「ごめんなさい、こんな格好で。いま、お料理中だったから」


「いや……サイコーに可愛いですよ」


「……もう、元則くんってば♡」


「もう、彩香さんは……いないんですよね?」


「ええ……ちゃんと、2人きりよ?」


 ゴクリ……


「元則くん、お腹すいている?」


「そうですね……空いています」


「どうぞ、こちらへ」


 案内されたダイニングテーブルには、


「わぁ……すごい」


 色とりどりの料理たちが並んでいた。


「これ、みんな志津子さんが……作ってくれたんですか?」


「ええ、みんな手作りよ……元則くんのために」


「……俺、マジで志津子さんと結婚したいです」


 ついつい涙ながらにそんなセリフがこぼれてしまう。


 だから、人妻相手にアウトだっての。


 けど、志津子さんは決して嫌悪感を示さず……


「……嬉しい」


 頬を赤らめていた。


 しっとり、しっかりした大人の女性なのに。


 この少女みたいな愛らしさ……たまらん。


 やっぱり、熟女は最高だぜ!


 いや、熟女なら誰でも良いって訳じゃない。


 志津子さんだから……こんなに愛しいんだ。


 もう、俺の中で決まっちゃったな。


 まだ、他のヒロインとも戯れてみたかったけど……もう、いいや。


「もう、いただいちゃっって良いですか?」


「うん、冷めないうちにどうぞ」


「いただきます」


 俺は早速、パスタをいただく。


「……うまっ、お店レベル」


「本当に?」


「志津子さん、美人でスタイルも良くて、性格も良くて料理上手で……何か欠点はあるんですか?」


「そんなに褒めないで……頭がおかしくなっちゃうから」


 可愛すぎる……


 ふりふりとポニテが揺れている。


「あの、いっぱい食べて良いですか?」


「うん、もちろん♡」




      ◇




 正直、食い過ぎた。


「ふぅ……」


 苦しい。


 けど、それ以上に……幸せだ。


「やっぱり、若い男の子ってすごいのね、食欲が」


「いやぁ、志津子さんの手料理がどれもこれも絶品だからですよ」


「もう、元則くんってば……♡」


 はぁ、幸せすぎる。


 マジでこの世界に転生させてくれた神様、サンキュー。


 でも、とてもゲームの世界とは思えないリアル感。


 俺も志津子さんも、確かにちゃんと生きている、人間なんだ。


「ねえ、元則くん」


「はい?」


「食後のデザートはいかが?」


「ああ、そうですね……デザートは別腹って言いますし。ぜひ、お願いします」


「分かったわ……じゃあ、こっちに来て」


「えっ?」


 俺は志津子さんのしっとり滑らかな手に引かれて、その場を後にする。


 タンタン、と階段を上って行く。


「あの、志津子さん? 一体どこに……?」


 俺の問いかけに答える前に、志津子さんは2階の奥の部屋のドアを開く。


 そこは大きなベッドがあった。


 これはもしや……夫婦の寝室……か。


 志津子さんは、今は海外出張中の旦那さんと、以前はこのベッドで……


「……元則くん」


「あ、はい」


「あのね、食後のデザートなんだけどね……私なの」


「……へっ?」


 シュル、シュル、とエプロンのひもをほどく。


 それから、ブラウス、スカートを脱いだ。


 俺が呆然とする間、代わりに身に纏ったのは、透け透けの……ネグリジェ。


「私って、最低だわ。いくら夫が不在で寂しい思いをしているからって……娘の同級生とこんな……お願い、元則くん。拒絶して」


「志津子さん……」


 不安げに顔を歪める彼女の下に、スッと歩み寄る。


「……共犯です」


「えっ……?」


「いくら学生とはいえ……いや、学生だからこそ、人妻に手を出すなんて、重罪ですから……でも、それでも……今このチャンスを逃したくないです……志津子さんのことが……好きだから」


「元則くん……」


 俺たちは見つめ合い、とうとう……口づけを交わす。


「……こんなおばさんが相手で、後悔しない?」


「後悔なんてありえません……あなたが1番です」


「私も、元則くんが……1番好き」


「志津子さん……」


 そして、俺と彼女は、ベッドに沈む。







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