第13話 積極的

 ふわっと、湯気が香る。


「うわっ、紅茶だ。いつも、やっすいお茶しか出さないくせに」


「黙りなさい、クソ娘」


「うるせえ、クソBBA」


「おやつ抜き。ついでに、晩ごはんも」


「ママらいちゅき♡」


 だから、キモいって。


「須郷くん、角砂糖は何個いれる?」


 と、玉枝たまえさんが言う。


「あ、えっと……1個で」


「はいよ」


 ちゃぷっ、と入水なさる。


 本当は、もう少し甘めの方が良いけど……


 素敵な熟女さまを前に、ちょっと見栄を張っちまったぜ。


「あたしは100個!」


「糖尿病で死ぬわよ~? その若さで」


「だから、うるさいって、バ……」


「ギロッ」


「……バームクーヘン、すごく美味しそう~♪」


「うん、そうそう。これ、高いやつなのよ~?」


「あの、本当に良いんですか? 俺までこんな、高価なお菓子を……」


「ああ、良いの、良いの。うちの商売、そこそこ儲かっているから」


「だったら、もっと豪邸に建て替えてよ」


「バカ言うんじゃないの」


「まあ、所詮は田舎の工務店じゃ、ムリか」


「はい、没収しまーす」


「やだ、もうあたちのバームクーヘンちゃん!」


 日向は本当にうるせえ。


 けど、そのおかげで、


「はぁ~、我が娘ながら、ウンザリするわ~」


 と、玉枝さんの色々な表情が見られるからナイスb


「で、須郷くん」


「あ、はい?」


「娘から、何の相談を受けていたの?」


「えっと、それは……」


「ママには関係ないよ」


「分かった、どうせ色恋沙汰でしょ?」


「どうして分かったの?」


「だって、いつも頭がお花畑のあっぱらぱ~なあんたが、勉強の相談とかしないでしょ?」


「だから、うるせえよ、BBA!」


「フロ抜き」


「乙女にそれはキツすぎる!」


「大方、あんたの好きな人の友人が須郷くんだから、相談に乗ってもらっているんでしょ?」


「ご明察です」


 俺が言うと、玉枝さんはニカッと笑う。


 良いねぇ~、美熟女のオトナスマイル。


 何気ない所作の1つ1つが、いちいち胸キュンてか、股間ギュンなんだけど(自重しろ中身おっさん


「やっぱりね~。で、どんな子なの?」


「まあ、マジメで良いやつですよ」


「ちなみに、ライバルは?」


「おなクラの1番可愛い子と良い感じっすね」


「その子って清楚系?」


「そっすね」


「はい、日向の負け~」


「ふざけんなクソBBA!」


「家ヌキ」


「ホームレス!?」


 何だこの親子、漫才師かよ。


「ま、負けないんだから。だって、絶対にあたしの方がプリチーらし♡」


「いやいや、クソほどウザいじゃん、あんた。いくら可愛い子ぶったって、すぐその腐った性根がバレて嫌われるよ」


「あ~、マジでこのクソバ……」


「んっ?」


「……クソママ様、これ以上あたしのセンチメンタルハートをいじめないでください」


「じゃあ、大人しく菓子をほうばっていろ。あんた、黙っていれば可愛いんだから」


「ママもね」


「あっ?」


「モグモグ……」


 ようやく、静かな時が訪れた。




      ◇




「お邪魔しました。ごちそうさまでした」


 玄関先で、玉枝さんにあいさつをする。


「てか、須郷くんのお家ってどこら辺? 送って行こうか?」


「あ、いや、そんな遠くないので、お気遣いなく」


「そっか。てか、君って高校生の割にしっかりしているね?」


「そ、そうっすか?」


「うん。でも、実はマセているよね?」


「へっ?」


「あたしの気のせいかもしれないけど……ティータイム中に何度かチラチラと……嫌らしい視線を感じていたから」


 ドギクリ!


「い、いや、その、あの……」


「ああ、ごめん。別に責めている訳じゃないから。むしろ……嬉しくて」


「えっ?」


「旦那との仲は良好だけど、もう家族っていうか、そっち方はすっかりご無沙汰だからさ~……このまま、誰にも女として見られずに、枯れて行くのかなって」


「いやいや、玉枝さんは、まだまだ若々しくて美人ですよ」


「あれ? あたし、名前って言ったっけ?」


「いや、その……娘さんに聞きました」


「わざわざ?」


「は、はい……」


「ふぅ~ん?」


 玉枝さんにジト目を向けられる。


 やばい、今度こそ、キモいって思われたか?


「須郷くんってさ……」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」


「もしかして、その若さで……熟女好き?」


「……へっ?」


「って、ごめん。今日会ったばかりで、言うことじゃないか」


「いや、その……おっしゃる通りです」


「マジで?」


 玉枝さんは目を丸くする。


「ぶっちゃけ、今日あいつの相談に乗ったのも……美人のママに会えると思ったから……なんです」


「き、君さぁ~……なかなかにゲスいね」


「す、すみません」


「まあ、嫌いじゃないけど。そういう積極的な男子は」


「ほ、本当ですか?」


「うん。あ、そうだ」


 玉枝さんは、胸ポケットからメモ用紙とペンを取り出し、サラサラと書く。


「はい、コレ」


 渡されたメモには、通話メールアプリのIDと携帯番号が書かれていた。


「え、えっと……」


「分かっていると思うけど、今のご時世、不倫はNGだから。ましてや、相手が子供とか、あたしが終わるから」


「で、ですよね~」


「だから、あくまでも、君の恋の相談に乗る程度。オーケー?」


「オ、オーケーです……」


「ちなみに、あたしのカラダの部位で好きなところは?」


「はい、Gパンに包まれたそのヒップラインです……あっ」


「ぷっ……アハハ。君って本当に……面白いね」


 そう言う玉枝さんの頬は、心なしか赤く染まって見えた。


 黒髪のショートヘアをさらさらといじる。


「そう言えば、須郷くんの下の名前は?」


「あ、元則もとのりです」


「元則……じゃあ、ノリ坊だね」


「ノ、ノリ坊?」


「ん? 嫌かな?」


「い、いえ! ぜひとも、ノリ坊呼ばわりして下さい!」


「ぶはっ、ウケんだけど、この子」


 と、玉枝さんはよくくびれたお腹周りを抱えて笑う。


 その際、Tシャツの隙間からほどよい大きさの胸もチラッと……


 エロすぎる~!


「おっと、そろそろ仕事に戻らないと」


「がんばって下さい」


「あいよ」


 ニコッと笑う玉枝さん。


 やっぱり、可愛いなぁ~。


「ノリ坊」


「はい?」


「なかなか連絡くれないと、あたし泣いちゃうぞ?」


「ハッ……今晩、連絡します」


「良いの? 寝かせないよ?」


「……クソほどエロい」


「お~い、声がダダ漏れだぞ?」


「ご、ごめんなさい」


「まあ、可愛いけど」


 こうして、俺は何だかんだ、2人目の真ヒロイン様とも仲良くなってしまった。







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