第12話 真なるヒロイン(2人目)

「ふんふふ~ん、ふんふふ~ん♪」


 前を歩くテンプレヒロイン②こと、南条日向なんじょうひなたは随分とご機嫌な様子だ。


「南条さん、楽しそうだね」


 と、俺が声をかけると、


「うん、楽しい♪」


「どうして?」


「だって、これからあたしの乙女ロードが始めると思うと、胸がキュンキュンしちゃう♡」


「へぇ、そんなに優太のことが好きなんだ?」


「うん、そうそう……って、べ、別に、そんな好きとかじゃないし」


 典型的なツンデレ、乙。


「ちなみに、南条さん家って、あとどれくらい?」


「んっ? もうすぐ着くよ~」


 金髪ツインテを揺らしながら彼女は言う。


 そして、実際に数分後、到着した。


「どうぞ、上がって」


「お邪魔しまーす」


 と、平然を装いつつも、俺は内心でドキドキしていた。


 でも、中から人は出て来ない。


「あの、ご両親は……?」


「んっ? 仕事だよ」


「ああ、そっか」


 まあ、良い。


 とりあえず、真ヒロイン様の住まう領域に入れたことが、第一歩だ。


 いやいや、俺ってば、なかなかにクズいぞ?


 だって、俺にはもう、志津子さんという、心に決めた人がいるんだから。


 だから、真ヒロイン様②に会えなくても、別に……


「ねぇ、何ボケッとしてんの?」


「あっ……悪い」


「早くしてようね、もう」


 軽くプンスカとする日向の後を追って、お邪魔した。


 通されたのはリビングだ。


 まあ、好きでもない男を、部屋には入れないよな。


「飲み物、麦茶で良い?」


「ああ、うん」


 日向はササッとお茶を入れてやって来た。


「適当に座ってよ」


「お、おう」


 勧められて、ソファーに腰を下ろす。


「……で、小林くんって、あたしのことどう思っているのかな?」


「へっ?」


「や、やだいきなりそんな、照れちゃう」


 いや、お前から言い出したんだろうが。


「えっと……」


 とりあえず、正直に言うか。


「今のところ、南条さんの話題は出たことないかな」


「はっ?」


「えっ?」


「あんた、小林くんの親友でいつも一緒なんでしょ?」


「ま、まあ」


「だったら、ちゃんとあたし様のことを勧めておきなさいよ、使えない男ね」


 ……このメスガキがぁ。


 いや、落ち着け、落ち着け。


 同年代でも、精神年齢は俺の方が大人。


 ここでピキってキレるのはクソダサい。


 何よりも、真ヒロイン様との距離が……


「じゃあ、いつも小林くんとどんな話をしているの?」


「えっと、まあ、他愛もない話だよ?」


「コイバナとか、しないの?」


「女子じゃないからなぁ」


「まあ、そっか。でも、誰が良いとか、話すでしょ?」


「俺の方から話を振ることはあるけど……」


「うんうん、で?」


「今のところ、あいつは……来栖さんと良い感じかな」


「……ちぃっ!」


「えっ?」


 ふと目を向けると、日向はひどく歯噛みをしていた。


 ギリギリと……


「あの優等生ぶったクソ女め……たまたま、同じクラスだからって、あたしの優太くんを……」


 いや、お前のじゃないだろ、とは言わない。


 面倒なことになるから。


「ねえ、あたしもそっちのクラスに移籍したい」


「いや、俺に言われても」


「ううん、優太くんがこっちに来る方が良いか。そうすれば、今度はあの女がざまぁだし(笑)」


「おいおい……」


「てか、マジメだけが取り柄の女とか、つまらないから。あたしみたいな、可愛くて明るくて面白い子といた方が、絶対に楽しいよね?」


「……ソウデスネ」


「きゃはっ♡」


 イエスマンって、案外ツラいのな。


 う~ん、てか、この空間にいることが辛い。


 これが俺も共通で憎たらしいやつの話題なら、盛り上がるかもしれないけど。


 優太も彩香も、別に嫌っていないし。


 何なら、ちょっと好意を抱いている。


 友人として。


「でさ~……」


 その時だった。


 玄関ドアが、ガチャガチャとする音が聞こえる。


「ただいま~!」


 と響くのは、日向よりも大人な女性の声。


「んっ? 誰がお客さんかな?」


「あっ、ママだ」


 ビクッとドキッが同時に来た。


 スタスタスタ、と音が近付いて来る……


 リビングの扉が開いた。


「……えっ? 日向、あんたその子、彼氏?」


 開口一番、目を丸くして言うのは、黒髪ショートの美人さん。


「いやいや、冗談でもやめて」


 日向は顔を歪めて言う。


 ムカつくな……


「あ、あの、初めまして。日向さんと同じ学年の、須郷元則です」


「ああ、初めまして。日向の母親です」


 ニコッとして言われる。


 くぅ~、たまらん。


 この人は南条玉枝なんじょうたまえさん。


 ちなみに、ヒロインの中で最年少の36歳だ。


 うん、たまらん。


「てか、ママ仕事は? もしかして、サボり?www」


「違うわよ、バカ。あんたじゃあるまいし」


「ケッ、何よ」


「ちょっと、仕事に必要な資料を取りに来ただけ」


「ふぅ~ん? お疲れさん(笑)」


「うっとうしい娘ねぇ」


 ため息をこぼす。


 それを吸いたい、俺は。


 いや、さすがにキモすぎた、すまん。


「だから、またすぐ仕事に戻る……つもりだったけど」


 チラ、とその目が、俺に向けられる。


 ドキッとした。


「せっかくだし、ちょっとおやつ休憩しようかな」


「太るよ? もう若くないんだから」


「ひっぱたくよ、クソ娘が」


「家庭内ボーリョク、反対!」


「ホント、うるさい娘だなぁ……ごめんね、須郷くん?」


「あ、いえ……」


「てか、お茶だけって……お菓子くらい、出してあげれば良いのに」


「だって、須郷くんには、ちょっと相談するだけのつもりだったから」


「相談って? あんたのオツムの弱さについて?」


「はぁ~? あたし、オムツなんて穿いてませんけど~?」


「オ・ツ・ム、頭の出来のことよ、バカ娘」


「ちっ、うぜぇ、クソBBA」


「じゃあ、あんただけお菓子ナシね。せっかく、美味しいお菓子を買って来たのに」


「えっ、マジィ? ママらいちゅき~♡」


 キモッ。


「全く、この娘は……ごめんね、須郷くん。もう、帰りたいでしょ?」


「いえ、そんな……ぜひとも、お母さんともども、ティータイムとシャレ込みたいです」


 と俺は言う。


 すると、玉枝さんは目を丸くした。


 やばっ、ちょっといきなり攻め過ぎたか……?


「……ぷっ、変な子ね」


 と言われる。


「い、いやぁ……」


 俺は無性に照れくさくなって、頭をかいた。


「ねぇ~、ママぁ~、早くお菓子ちょうだい!」


「うるさい、あんたも手伝いなさい」


「はいはい、分かりましたよ~」


 日向はダルそうに立ち上がる。


 一瞬、スカートがめくれ上がるけど、大して興奮しなかった。


 それよりも、玉枝さんのGパンのヒップラインに釘付けだった。







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