第10話 じゅわっ

「すごい、元則もとのりくんの……おっきぃ」


「まあ、特大ですからね」


「ええ、そうね。けど、私の普通サイズでも、それなりの大きさよ?」


「いや、志津子さんが普通サイズとか……」


「へっ?」


「あっ……」


「……もう、本当にエッチな子ね」


 志津子さんはサッと両手で胸元を隠す。


「ご、ごめんなさい」


「まあ、思春期の男の子だものね、大目に見てあげる」


 ぺろっと舌を出す仕草は、やはりチャーミングだ。


 あの舌とこの舌を絡ませ……ゴホン。


「じゃあ、冷めない内にいただきましょうか」


「うん」


 フォークで支え、ナイフをスッと入れる。


 中からじゅわっと肉汁が溢れた。


 それだけでもう、このハンバーグが美味いことが伝わって来る。


「いただきます」


 パクッと一口。


「……うまっ」


「ほんと、美味しいわ」


 2人そろって笑顔になる。


 ああ、この店を選んで正解だった。


「これ単体でも絶品だけど、ごはんがまた進むなぁ」


「そうねぇ……でも、あまり食べ過ぎると、太っちゃうわ。私、おばさんだから。あなた達みたいな若い子と違って……って、ごめんなさい、余計なことを……」


「大丈夫ですよ。俺、そう言う熟女さんの愚痴というか、自虐が好物ですから」


「も、もう、本当にエッチで……おかしな子ね」


 志津子さんは顔をうつむけてしまう。


 その頬はほんのりピンク色に染まって見えた。


 少し攻め過ぎたかな?


 感触は悪くないけど……まあ、じっくり攻略して行こう。


「志津子さんって、主婦以外に何かお仕事していましたっけ?」


「ええ、近所のコンビニでパートをしているわ」


 まあ、知っているけど。


「へえ。そのコンビニ、さぞかし繁盛しているでしょうね」


「どうして?」


「だって、こんな美人で素敵な店員さんがいたら……ていうか、ナンパとかされていませんか?」


「まあ……たまに?」


「絶対に嘘だ。しょっちゅうでしょ?」


「心配してくれるの?」


「当たり前じゃないですか」


「うふふ、嬉しいわ。夫なんて、相談してもちっとも心配してくれないのに……まあ、もう私に興味がないのかもね」


 それまで朗らかだった志津子さんの表情に、ふと陰が落ちる。


 俺はしめしめ、と言う感情よりも、嫉妬が勝った。


 まだそれだけ、旦那さんのことを想っている証拠だから。


「今度、志津子さんの働くコンビニに行こうかな」


「やだ、恥ずかしいわ……でも、嬉しい」


「働くのは、朝から夕方とかですか?」


「ええ、そうね」


「じゃあ、学校帰りに寄りますね。優太と来栖くるすさんも誘って」


「まあ、賑やかになりそうね。ところで、小林くんと彩香って、良い感じなのかしら?」


「そうですねぇ~、お似合いだと思いますよ」


「そう、羨ましいわ……私も、学生時代に戻りたいかも」


「俺も、思いますよ」


「えっ?」


「もし、志津子さんと同級生だったらって」


「元則くん……」


 お互いに、見つめ合ってしまう。


「……ちょっと、ダイエットしようかしら」


「急にどうしました?」


「いえ、その……ちょっと、たまには……学生時代の制服を……着てみたいなって」


「マジっすか!?」


 俺は思わず声を上げてしまい、周りにぺこっと頭を下げる。


「すみません……」


「ううん、私が悪いから」


「いや、でも……良いんすか? そんな夢みたいなシチュエーション」


「もう、大げさね」


「ただし、1つだけ良いですか?」


「なに?」


「絶対に、ダイエットはしないで下さい」


「ええ、どうして?」


「だって、その方が……いや、何でもないです」


「……やっぱり、エッチな子ね」


 志津子さんは、くすっと微笑む。


「じゃあ、2人だけの……秘密の約束ね?」


「……はい」


 やべっ、俺も思わず、じゅわっと……何でもないです。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る