第9話 案外チョロい?

「いらっしゃいませ」


 その店内は、評判通り穏やかでいて、暖かい空気だ。


 店員さんの立ち振る舞いも上品で、落ち着いている。


「2名様でしょうか?」


「あ、はい」


「どうぞ、こちらのお席へ」


 奥のテーブル席に案内される。


 評判のお店だから、店内はほぼ満席。


 それでも、あまりガヤガヤした空気を感じない。


 店側だけでなく、客層も良さそうだ。


 よし、俺のリサーチ大成功!


「素敵なお店ね」


 志津子さんが言う。


「良かったです、気に入ってもらえて」


「元則くん、こんなお店をサッと決められるなんて……実はモテるでしょ?」


「いえ、そんな……今日は志津子さんがデート相手だから、気合を入れました」


「もう、この子ってば……こんなおばさんを持ち上げて、後が怖くないの?」


「どう怖いんですか?」


「……言えないわ」


 志津子さんは目を伏せて、照れたように言う。


 しっかりしたオトナの女性が見せる、少女のような愛らしさ。


 くぅ~、これだから熟女スキーはやめられない!


「あ、注文を決めないと」


「そ、そうね」


 俺たちはメニュー表を開く。


「じゃあ、俺は……この特大ハンバーグセットにしようかな」


「まあ、すごい。私は……普通のサイズで良いわ」


 ほう、自分のは特大のくせに……って。


 内心とはいえ、ひどいセクハラ発言だぞ。


 自重しろ、俺。


 淑女に対しては、紳士であれ。


 それが熟女スキーのたしなみだ。


「じゃあ、店員さんを呼びますか」


「ええ」


 チン、と備え付けのベルを鳴らす。


 店員さんがゆったり、かつテキパキした歩調でやって来た。


「お決まりでしょうか?」


「えっと、この特大ハンバーグのセットと、普通のハンバーグのセットを……」


「かしこまりました」


 注文を取り終えると、店員さんは一礼をして、また優雅に去って行く。


「……今日は嬉しいわ」


「えっ?」


「だって、私としては、お茶だけのつもりだったのに……」


「あっ……ごめんなさい、余計な真似を……」


「ううん、良いの。だって、遠慮していたから。あまり、若い子の……元則くんの時間を奪ったら申し訳ないなって」


「そんな心配は無用ですよ。むしろ、志津子さんと過ごせる時間が、何よりもハッピーですから」


「ねえ、本当にこんなおばさんの、どこが良いの?」


「えっ、ていうか、自覚ないんですか? 自分のきれいさと……ほうま……スタイルの良さに」


「……エッチな子ね」


「ごめんなさい」


「ふふ……でも、所詮はおばさんだから」


「でも、ナンパとかされるでしょ? ましてや、今は旦那さんが離れている1人身だから」


「ええ、まあ……街を歩いていたら、何度か……」


「志津子さん、下手すれば、違法にアダルトビデオを販売する連中に捕まるかもしれないから、用心した方が良いですよ?」


「あら、高校生なのに、詳しいのね?」


「いや、ほら……最近は、ネットで何でも情報が出るので」


「やっぱり、元則くんはエッチな子ね。まあ、私みたいなおばさんなら良いけど……同年代の若い子はセンシティブだから、あまりエッチな目を向けたらダメよ?」


「分かりました……どの道、俺がエロい目を向けるのは……今のところ、あなただけなので」


「…………ひどい子ね」


「えっ?」


「そんなこと言われたら……私、本気にしちゃうでしょ?」


 だから、可愛すぎるって。


「そうですね。何だかんだ、志津子さんは人妻ですから……あくまでも、ちょっと歳の離れた友人ってことで、これからもお付き合い下さい」


「……何だか元則くんって、やけに落ち着いているわね」


「そうですか? 内心では、さっきからずっと、ハシャぎまくっていますよ?」


「ふぅ~ん?」


 志津子さんは頬杖をついて、興味深そうに俺を見つめる。


 その際、胸元から谷間がチラと見えて、エロかった。


 あそこに指を突っ込みたい……


「ねえ、もしかしてまた、エッチなこと考えている?」


「ああ、なるほど。志津子さん、またいたいけな俺を誘っています?」


「もう、バカ♡」


 やばい、こう言っちゃなんだけど……


 このステキ熟女さん……案外、チョロい?


 いや、だからって、変に貶めるつもりなんてない。


 しばらくは、こんな感じで、露骨なエロ展開なしで、情緒深く仲を深めて行きたい。


 さっきからずっと、テーブルの下で俺のモノがビンビンのギンギンだけど。


 大丈夫、きっと我慢できる。




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