第6話 熟女ルート

「「「いただきまーす!」」」


 俺たち若者が元気よく声をそろえて言うと、


「どうぞ、召し上がれ」


 素敵な美熟女さまが微笑んで下さる。


「うん、お野菜がちゃんと煮込まれて、食べやすいわ」


 彩香が言う。


「元則くんが上手に切ってくれたおかげよ」


 志津子さんが言う。


「いえ、俺なんてそんな……」


 と謙遜しようにも、どうしようもなく口元がニヤけてしまう。


 それを誤魔化すために、俺は具材をかきこむ。


「ふふ、すごい食欲ね。さすが、若い男の子だわ」


「いや、まあ……志津子さんのスープが美味しいからっすよ」


「やだわ、もう」


「あら、小林くんも遠慮しないで食べてね?」


「う、うん」


 優太はぎこちなく頷く。


「もしかして、嫌いな具材でも入っていたかしら?」


 志津子さんが気遣うように言う。


「いえ、その……ただ、食が細いだけです」


「そっかぁ。もったいないな、優太。こんな絶品料理をバカスカ食えなくて」


「そ、そうだね」


「良いじゃない。食べる量は人それぞれよ。少ない分、しっかりと味わえば良いわ」


 おっ、さすがテンプレヒロイン様。


 テンプレ主人公を見事にかばう。


 うんうん、それで良い。


「はは、悪い、悪い。優太が小食な分、俺がたっぷり食べるからさ♪」


「もう、調子の良い人ね」


「あら、良いじゃない。私、元気が良い男の子は好きよ」


 志津子さんが俺に目線を向ける。


 ドキッとした。


 また誤魔化すように、具材をかきこんだ。




      ◇




「はぁ~、腹がパンパンだ」


「もう、調子に乗って食べ過ぎるからよ」


「元則、大丈夫?」


「お、おう……ちょっと、トイレ借りても良いですか?」


「ええ、どうぞ」


 俺は半ばフラつく足でお手洗いへと向かう。


 ドアを開けて、ストンと便座に腰を下ろす。


「ふぅ~……」


 落ち着く……と思ったけど。


 よくよく考えると、ここで毎日、志津子さんが用を足していると思うと……


 何だかまた、無性に胸騒ぎがして来た。


 いかん、いかん。


 このままだと、他人様のお家のトイレで、うっかりイケないことをしてしまいそうだ。


 俺は果てしない性欲に振り回せる前に、サッとトイレから出た。


「さてと……」


「……元則くん」


「うわっ!?」


 トイレから出た直後、廊下で呼ばれてビクッとする。


「……って、志津子さん?」


「ご、ごめんなさい。ちょっと、様子が心配で」


「ああ、わざわざ……すみません」


 俺は苦笑まじりに言う。


「……あの、元則くん」


「はい?」


 穏やかながら、年上らしくずっと堂々としていた志津子さんが、急にモジモジとする。


 もしかして、トイレを我慢していたのかな?


 良かった、早めに出て。


「どうぞ、俺に気遣いなく、おトイレに」


「い、いえ、そうじゃなくて……元則くんに、お願いがあって」


「お願い……ですか?」


「うん」


「良いですよ。俺に出来ることなら、何でも言って下さい」


 旦那さんが、海外出張中で、家に男手がない。


 だから、力仕事か何かをお願いされるのだろうか?


 俺はそんな風に予想していたのだけど……


「……良ければ、連絡先を交換しない?」


「…………はい?」


 予想外の誘いに、俺はポカンとしてしまう。


「ご、ごめんなさい。こんな良い歳したおばさんが、若い子にがっつくみたいで……」


「あ、いえ、そんな……むしろ、良いんですか? だって、志津子さんは……人妻……じゃないっすか?」


「ええ。だから、本当はイケないことなのだけど……」


 志津子さんは、潤んだ瞳で俺を見つめて来る。


 おいおい、マジでこれ、主人公ムーブじゃん。


 やっぱり元則は、真の主人公で。


 このお方こそ、真のヒロインだ……


「……良いですよ」


「ほ、本当に?」


「その代わり、このことは内密に」


「ええ、もちろん……何だか、ドキドキしちゃうわね」


「俺の方こそ……」


 そして、2人してコソコソと、スマホを向け合う。


「……よし、登録完了。俺からメッセを送るんで、登録して下さい」


「ええ……あっ、来たわ」


「交換しちゃいましたね」


「うん……」


 志津子さんは、その豊かなバストにスマホを抱きながら、


「これからよろしくね、元則くん」


「は、はい」


 どうやら、俺は無事に熟女ルートに乗っかれたらしい。




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