第4話 信者

 昨今は熟女ブームというか、年上のオンナにそそられる男が多い。


 とはいえ、やはり何だかんだ、若い女が好きで。


 特にJKに発情する良いオトナの変態が多いのが悲しい現状。


 ただ、そいつらにマウントを取る訳じゃないけど。


 俺はやはり、JKにさほど興味はない。


 なぜなら……


「でも、あれだね。やっぱり、来栖さんのお母さんも、すごくきれいな人だね」


「もう、小林くんってば。そんな風に言われたら、私まで照れちゃうじゃない」


「ご、ごめん」


「うふふ、何だか良い感じね」


「いえ、そんなことは……」


「えっ、否定しちゃうの? ちょっと、悲しいな」


「はわわ……」


 優太は相変わらず気弱でビクついた会話だけど、何だかんだコミュニケーションを取っている。


 腐っても、主人公と言う訳か(テンプレだけど


 一方、俺は……


「須郷くん、どうしたの? さっきまで、あんなにお喋りだったのに」


 と、彩香に言われる始末。


「あ、いや、その……」


 俺はチラ、と美熟女……彩香の母親に目をやる。


 ていうか、美貌もそうだけど、服の上からでも……すごい膨らみだな。


 あの胸に顔をうずめたい……


「ちょっと、元則?」


「ハッ……」


「大丈夫? 勉強、再開するけど?」


「あ、ああ……」


 俺は額に手を置く。


 キッチンへと向かった彩香の母親に目を向ける。


 ヒップラインもえぐい……


「……悪い、俺は一足先に、おいとましても良いか?」


「えっ、本当に大丈夫?」


「何なら、少し休んで行っても良いのよ?


「ありがとう、優太、来栖さん。でも、迷惑になっちゃうから」


「そんな、迷惑だなんて……」


 引き留めようとする2人を苦笑しながらいなし、


「じゃあ、お邪魔しました」


 俺は早急に退散をする。


 あぁ、情けない。


 こんな立派なナリの男に転生しながら、何も出来ず。


 大好物の熟女を前に、ロクに会話も出来ず。


 きっと、本来の元則は、もうちっとコミュニケーションが取れたはず。


 けど所詮、中身は冴えない俺だからな。


 今まで、演者として、親友キャラをやれていたけど。


 途端に、メッキが剥がれたな……


「――ちょっと、待って」


 澄んだその声に、ハッと振り向く。


 娘と同じ栗色の髪を結んだ、ポニーテールを揺らしながら、彼女はやって来た。


 ちなみに、俺は彼女の名前を知っている。


「し、志津子しづこさん?」


 と、とっさに名前で呼んでしまう。


「えっ? どうして、私の名前を……」


「あっ……」


 俺はひどく焦り、言葉に詰まる。


 目の前で、来栖志津子が、小首をかしげている。


「……さ、さっき、娘さんに聞きました」


「あら、そうなの? でも、こんなおばさんの名前を知っても、仕方ないでしょ? 彩香みたいに、同い年の若くて可愛い子ならともかく……って、ごめんなさい。親バカみたいなことを言って」


 志津子さんは微笑みながら、手でちょいとする。


 そのおばちゃんがよくやる仕草、マジですこ。


「いえ、実際問題、娘さんは可愛くて、人気者ですし……優太のやつ、ちゃんと上手くやっているかな?」


「あら、君は良いの? その……」


「ああ、良いんです。俺、JKに興味ないんで」


「へっ?」


「あっ……」


 我ながら、まあまあのキモ発言をした気がする。


「す、須郷くんは、少し変わっているのね?」


「いや、その……」


 うわーん!


 愛しの熟女にドン引かれちまったよおおおぉ!?


 クソ、せっかくネット小説みたいな展開になって、ずっと憧れていた可愛い熟女さんとイチャコラ出来ると思ったのに……


 まあ、現実なんて所詮、こんなもんよ。


「えっと、須郷くんは……年上が好きだったり……するの?」


「……ま、まあ、そうっすね」


 たぶん、2、3個、行っても5個上くらいを想像しているんだろうなぁ。


 実際には、親子ほど離れた年齢でも大歓迎なんだけど。


 いや、むしろ、それが良い!


 とは言え、俺もおっさんになるにつれて、そんな関係を望める女性は減って行った訳で。


 そもそも、万年女日照りだった訳で……(泣


「じゃ、じゃあ……私もイケたりする?」


「……へっ?」


「あっ……ご、ごめんなさい。今のは忘れて……」


 んんっ?


 これは、もしや……


「……バリタイプっす」


「す、須郷……くん?」


「だって、志津子さん、めっちゃきれいだし……スタイルも良くて……最高です」


「こ、こんなおばさんなのに……?」


 俺は深く頷く。


 すると、志津子さんが、深く息を吸い込んだ。


 これは、どう転ぶ……?


「……そう言えば、あなたのお名前は?」


「えっ? いや、須郷ですけど……」


 バ、バッドコース!?


 嫌いな奴に『お前、誰?』とか言うやつやん、これもう~!


「そうじゃなくて……下の名前」


「あっ……も、元則……です」


「元則くん……ありがとう」


「いえ、こちらこそ……?」


 今度は俺が小首をかしげる。


 志津子さんはより優しく、微笑んでいた。


「ねえ、元則くん。まだ具合は悪い?」


「へっ? いや、もう大丈夫ですけど」


「そう……あの、もし良ければだけど……付き合ってもらえるかしら?」


「つ、付き合う!?」


「あっ、お買い物に」


「あっ……なるほど」


「車で行くけど、その……せっかくだし、男手があるとありがたいなって……ダメかしら?」


 こ、これは……


「……わ、分かりました。俺で良ければ」


「ありがとう。お礼に、今晩は夕飯をごちそうするわ」


「そ、そんな、悪いですよ」


「良いのよ、たまには。いつも娘と2人だけで寂しいし」


「あの、旦那さんは……?」


「海外に出張中なの」


「そ、そうなんですか」


 そういえば、そんな設定だったな。


「小林くんも一緒に、ね。4人で夕ごはんを食べましょう?」


「まあ、そうですね……じゃあ、お言葉に甘えて」


「ありがとう、嬉しいわ」


 しっかりとした熟女だけど、この時だけチャーミングな乙女みたいな笑顔を浮かべて。


 うん、やっぱり、おばさんってサイコーだな。




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