第40話  re:彼女ができました

駅まで莉子さんと歩く。


手を繫ぎながら。


「じゃ、また明日ね。とおる。」


「うん。また明日。」


繋いだ手を離し、莉子さんと別れる。


「…。」


改札に向かわず、ずっと僕を見つめてくる。

何かを求めているのは分かる。

その何かもたぶん分かる。

…外ですよ?


「えっと。」


先程のベンチは人通りが少なかった。

それに、あの時の僕はちょっとおかしかった。

とても愛おしく思えて、つい、なのだ。

もう一度ヤれと言われれば準備が必要なのだ。


「…とおる。」


まっずい。少し上目遣いのうるうるとした瞳を向けられると彼女のお願いを何でも聞いてしまいそうになる。

横目で周囲を確認。

僕達に注目している人はいない…。


莉子さんの側に寄る。

既に目を閉じて上を向いている莉子さん。可愛い。


彼女の唇に…。


「なんで口じゃないし。」


頬にキスをした。


「恥ずかしさで…。すみません。」


どうしようもないヘタレです。はい。


「ん。まあいいや。次は、ね。」


「…はい。」


次は…。


「じゃ、帰る。ばいばい。」


改札を抜けていく莉子さんを見送る。

姿が見えなくなってからも、僕は中々動けなかった。



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帰宅後、ご飯を済ませ定位置にて報告会。


「へー。で、キスとかしたの?」


粗方の説明を終えた僕に、遥の質問が入る。


「え、いや。別に?」


「したんだ?」


「しました。」


嘘つけないよね。反応でバレバレだったし。


「ムカつく。」


本当にムカついてらっしゃる。


「ごめん。」


「謝んなバカ。チビ。」


チビは余計でしょ。悪口じゃん。

拗ねた遥の様子に苦笑いが漏れる。


「何笑ってんの?潰すよ?」


すみません。

一通り鬱憤を晴らすように僕を罵倒した遥は、食後に入れたコーヒーを啜り、再度口を開く。


「今度。」


「うん?」


「今度、連れてきなよ。足立。」


それは、莉子さんと会うという宣言。

どういう形であれ、遥の中で気持ちの整理をしてくれたということなのだろう。


「分かった。ありがとう。遥。」


「潰すかもだけど。」


…そのときは全力で止めよう。



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月曜日のお昼。



僕はイケジョ男子の昼食に参加していた。


4限終わり、近藤くん達が僕の机を囲む。

窓際のため左に退路がない僕は3方を塞がれまさに四面楚歌。二宮さんも我関せずで、若干僕の机と距離をとって睡眠に励んでいた。


こうなったら莉子さんに入ってもらおうと視線を向ける。

目があった。…良かった。

ニッコリと微笑まれ、助けてくださいと視線で伝える。

首をふるふる。…ええ。


「遠藤、飯食わね?」


「あ、はい。」


屋上に連行された。



「で、どうだった?」


近藤くんからの唐突な質問。


「え。どう、とは?」


「もー!透っち誤魔化さなくていいんだって!足立とデートしたんしょ!?」


何故バレてる。誰かに見られてたとか?

確かに、隠すようなことは何もしていなかったし。

てことは、の駅前でのやり取りとかも?

恥ずかしすぎてごめん。


「変な顔してるけど、別に尾行とかしてないから。土曜に足立が言ってた。」


莉子さんが?


「彼氏できるかもだから明日は邪魔すんなって。」


莉子さん…。直接的すぎる。


「透っちってすぐ分かったけど。あん時の足立、まじ怖かったわ。連絡したら殺すぞって感じ。」


「うむ。」


そうなんだ。確かに、昨日は一度もスマフォを扱ってなかった。

…本当に気にしてくれてたんだ。


「今村、すげぇ驚いてたけど、俺達はほとんど知ってたしな。だから、どうだった?」


そっか。女バス今村さんは知らないもんね。

田村くんとのイチャラブに忙しいもの。


…うん。これだけ知られてたら逃げられないよね。


「うん。付き合うことになったよ。」


正直に言おう。それが、今まで応援してくれていたことへの誠意だから。


「「「おー!!」」」


驚きの度合いは違えど、三人の声が重なった。

急に大声を上げるイケジョ男子に周りで食事していた人達も驚く。

視線が一気に集まる中心にいる僕。早く消え去りたかった。


「マジか!やったじゃん!透っち!おめ!」


ありがとう。チャラ男。

莉子さんのことが好きだったはずのチャラ男の祝福に、胸が熱くなる。


「良かったな、遠藤。」


「うむ。」


本当にありがとう。

こんなに素敵な人達にが居てくれたから。勇気を出せた。


「皆、ありがとう。」


「で?どこまでいったん?キス?もっと?ヤッた?」


セクハラで訴えるぞチャラ男。


「あ!いや!やっぱ聞きたくねぇ!」


急に意見を変えるチャラ男。…そりゃ好きだった女子が何したかなんて、聞きたくないよね。なんで聞いたの?バカなの?


「そうか?俺は聞きたい。キスした?」


「うむ。」


爽やかスマイルをニヤニヤに変えて聞いてくる近藤くん。

その笑顔は、とてもお下品だった。



屋上での昼食を終え、教室に戻る。

耳を塞ぎカーカー言っているチャラ男を無視し、近藤くんと田村くんは僕にデートの内容を聞いてくる。


…恋バナ大好きじゃん。



教室に続く廊下を4人で歩いていると、前方に莉子さんの後ろ姿が見えた。

話しているのは…誰だろう。


「お?足立と喋ってるの石神じゃね?」


石神くんか。なるほど。


「あいつ、また絡んでるよ。」


呆れたような近藤くん。石神某は少しチャラ男に似た雰囲気を持つ、見た目イケメンであった。

本当のイケメンは近藤くんなので、偽チャラ男と心の中で命名。


偽チャラ男は、声もチャラ男と同様に大きく、少し離れている僕達にも十分聞こえる声で莉子さんと喋っている。


「足立さ、昨日のインスタ誰と撮ったん?俺連絡してたじゃん。ズルくね?」


莉子さんの返事は余り聞こえないが、偽チャラ男の雰囲気が徐々に悪くなっているのは分かる。

少し危険な空気を感じて、2人に近づく。


「はあ?だから、今度俺と行くでいいじゃん。断る理由ないっしょ!?」


「あるから。2人で遊ぶとかないから。」


今度は莉子さんの声も聞こえた。


「マジ、どしたん?態度悪くね?」


「しつこい。もういいっしょ。じゃ。」


会話を切り上げ、教室に戻ろうとする莉子さん。


「ちょ、待てって!」


その腕を、偽チャラ男が掴む。


「っ!離せよ。」


我慢できなかった。僕が前に出ようとした時、


「離せって言ってんだろ!」


莉子さんが偽チャラ男に蹴りを入れた…。えぇ。

後ろに後退する偽チャラ男。


「足立っ、てめぇ!」


「ちょいちょい。何してんのお二人さん。」


本物のチャラ男が割って入った。


「北澤…。なんだよ。」


…北澤?え、チャラ男って名前あったの?


「足立に絡んどいて逆ギレは無いんじゃね?」


「お前に関係ないだろ!」


「いや、あるんだなぁ。これが。ね、透っち?」


僕に振るチャラ男。

めちゃくちゃ格好良いと思ったが、こんな雰囲気遭遇したことも無い僕は完全にキョドっていた。


「う、うん。」


僕を胡乱げに見つめる偽チャラ男。


「あ、誰だよそいつ。」


…めちゃくちゃ怖い。怖いけど、莉子さんに危害を加えるのは許せない。


「莉子さんに絡むのは辞めてほしいです…。」


「は?何いってんの?彼氏面?きちぃわ。」


…。莉子さんを横目で見る。

心配そうなその目からは、もう十分だと、そう言われている気がした。

全然、十分じゃない。チャラ男に助けてもらって、1言意見するだけなんて、何も変わってない。


「彼氏だから。」


「は?」


「莉子さんの彼氏は僕だから。付きまとわないで。」


目がぽかんとしていた偽チャラ男は、徐々に笑い始める。


「はい?足立がお前と付き合ってる?!頭おかしいんじゃねぇの?」


…。そうだよね。そう思われるのは分かってる。

これから先、こういう事言われるのは目に見えていたから、僕は大丈夫。こんな事で引いたりしないから。


「嘘じゃ…」


「嘘じゃないし。」


被せるように口を開く莉子さん。


「とおるは、ウチの彼氏だから。」


偽チャラ男に向けて言っているのに、その目は僕を映す。


「だから、邪魔すんな。」


口をパクパクさせる偽チャラ男。

一瞬の静寂が訪れた空気を切り裂いたのは、


「はいはい。解散解散。石神も、あんま調子に乗るなって。授業始まるんだから教室戻れよ。あと、近付くな。」


イケメンオーラ全開で圧をかける近藤くんだった。


「…うるせぇな。別に興味ねぇから、そんなヤツ。」


怯んだ偽チャラ男は、吐き捨てるように言う。


「んじゃ、撤収ー!」


チャラ男の一声で、見物に来ていた他生徒達も散っていく。しかし、一定数の生徒は、僕のことを見ていた。それはそう。

あんな目立つ所で彼氏だって公言したのだから。

物珍しそうに見てくる視線に晒され、足が竦む。


…視線が痛い。


教室に入れず立ちつくす僕の手を、莉子さんが握った。


「とおる…。」


その不安そうな目にさせたくないから、勇気を出したんだ。それなのに、また僕は。


「ごめん。莉子さん。大丈夫。」


「ウチが居るから。」


え?


「とおるが辛い時はウチが居るから。だから、ウチが辛いときはとおるが守ってよ。」


-それがウチらじゃん?-


本当に。なんて素敵な彼女なんだろう。


「うん。僕も莉子さんを守るよ。」


「とおる…。」



「そこのバカップル授業始まるぞー!はよ入れー!!」


…近藤くんのツッコミが無ければ危なかった。

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