第33話 ノンデリ兄は叱られる

遥さんの激おこを鎮めるにはハー◯ンダッツ。


遥と付き合いたい世の男性諸兄(どれくらいいるのか知らないけど)、新しい情報が手に入りましたよ。


世界からハー◯ンダッツが消え去る日もそう遅くはないのかも。妹が世界に齎す経済効果を考えると、とても恐ろしい。その内、妹が使うもの全てがトレンドになるのかも。

今日の遥さん。キテるね!


「何、手止めてんの?」


あ、すみません。



夕食を済ませた僕達は、恒例のテレビ前ソファにて寛ぐ。

アイスを食べ、溜飲を下げだ遥は少しウトウト気味。こう見るとやはり美人。その顔立ちとスタイルは、それはモテるでしょうねと納得するレベルだ。

現に今日の男子2人。えっと、今田くんと、林くんだっけ?彼らも遥に好意を寄せているのが僕でも分かるくらいだった。あの2人にはウチの遥はあげられませんけど。

そんな遥のお付き合いしてる人は見たことがない。

少しだけ男嫌いになったのことのある妹は、高校生に上がってからは清楚で通している。…ハハッ。

清楚美人な妹が何度も告白されていることは知っているので、少し不思議に思う。かなりのイケメンから告白されたとも本人から聞いたことがあるし。

以前、僕が結婚するまではとも言っていたが、遥も女の子だし、恋に恋することがあっても良いのかもしれない。


…全く想像できないや。恋人が欲しいとか思うのだろうか。

ふむ。聞いてみます?


「ねぇ、遥。」

ここは、確かめてみるのも手だ、と遥に問い掛ける。


「うん?」


眠そうな目でこちらを見る遥。


「遥って誰かと付き合いたいって思ったことあるの?」

聞いた瞬間、眠そうだった遥の目に暗い輝きが光った気がした。


「は?」


「い、いや。今日の2人も遥のこと気になってたっぽいし。そういえば付き合ってる人とかいないなって…。」

怖い。地雷踏んだかも。


「なんで?」


短い返答。うん、絶対に怒っている。

…どうしよう。ハー◯ンダッツの在庫はもうない。


「…ごめん。」

とりあえずの謝罪。尺稼ぎ。納得する理由を考えなければ。いや、単に興味だもんね。理由なんか無いよね。


「はぁ。いいけど。別に。」


呆れたような声とともにため息をつく遥。

結構な割合で僕の質問って地雷踏むよなぁ、と反省していると。


「前も言ったと思うけど、好きな人なんていないから。透の世話で忙しいし。」


家だと僕がお世話してない?「あ?」

…そうだよね。僕のお世話で忙しいですよね。


「で、なんでそんなこと今更聞いたの?」


再度聞いてくる遥。…準備時間が足りない。


「あ、いや。遥って結構モテるじゃない?美人さんだし、身長も高いし。ずっと告白されてたら一人は付き合ったみようとか思わないのかなって…。」

思ったことを正直に言う。

僕を優先してくれる遥だ。

誰かと付き合う前に、家族である僕を心配して自分のことを後回しにするきらいがある。

あまり学校で遥と喋らないから深く考えたことはなかったけど、今日の一件で少し考えさせられた。


「…いるよ。付き合ってもいいって思えるヒト。」


え?


「そうなの?」

意外だ。いたんだ…。


「でも駄目なんだ。側にいたいから。」


うん?なぞなぞ?言葉を解釈するのが難しい。


「…なるほど。」


「透は一生分からなくていいかも。」


…。

一生か。長いね。要するに僕には絶対に話さないってことか。


「うん。分かった。もう聞かない。」


「うん。そうして。」


少しだけ辛そうな遥に、あまり聞いてほしくなかったんだと理解した僕は。


「…ん。」


遥の頭を撫でていた。


「ごめん。」

謝罪をしながら遥の頭を撫でる。

妹の真意は分からないけれど…。兄の僕はこうして側にいることくらいしか出来ない。

それを伝えるように。


「…少し寝るね。」


うん。おやすみ。遥。



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遥視点


撫でられている手に頬擦りしたい。

抱き締め返したい。

なんなら、キスもしたい。

…出来ないけど。


透から私に触れてくることは滅多にないから、こうして撫でられるだけでとても幸せな気持ちになる。


さっきの透の質問には正直イラっとした。

クラスメイトの男子?イケメン?

知るか。透だけだ。

私が好きなのはお前だと、そう言ってやりたかった。

…けど、そんな事は言えない。言ったらこの関係も終わる。

今、世界で透に撫でられているのは私だけだ。

ここで、2人の家でこうして寄り添え合えるのは私だけ。


それが出来ることの充足。好きと言えないことへの欠乏。


なんで妹なんだろう。

顔立ちも似てない。

私のほうが背も高い。…これは関係ないけど。

血縁というたった2文字だけが私を縛る。


透が修学旅行から帰ってきて、少し明るくなっていたのは分かった。

クソ女と何かあったことも。

彼から前に進みたいと言われたときは、嫉妬でおかしくなりそうだった。

透の雰囲気から、クソ女と私を引き合わせたい空気を出しているのも知っている。そこまであの女のことが好きなのかと。

そのままでいいのに。私の側に居てほしいのに。伝えたいことも伝えられず、認めないと言うことしか出来なかった。

ホントに駄目だ。


クソ女、足立が透と仲良くなるのはもちろん反対。

でも、一番嫌なのは透のこれからに私が居ない未来が出てくること。

その可能性が一番耐えられない。


一生一緒に居たい。

付き合うことなんて出来ないのは分かってる。

だったら、せめて側にいることくらい許して欲しい。

我儘なのは知ってる。

正論を叩きつけてくる奴らの意見も聞きたくない。

私が私でいれるのは、透の横だから。


だから、どうか。


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