第34話 イケメンは応援したい

金曜日



1週間は短い。

受験生の3年からしたら、1日1日がとても大事な時間だ。

まぁ、僕には関係ないけどね。

…成績くらいしか胸を張って自慢できることがないけど。


受験に関しての不安はあまりない。受験予定の学校も国立2校、私立2校で決めてある。奨学金を借りるつもりなので、将来の僕には是非とも明るい社会人を送ってもらいたい。

…かんばってよ。僕。


最悪遥と一緒に暮らそう。兄妹慎ましやかに生活するのだ。…悪くないんじゃない?家事全部するよ?


妹に寄生する無様な将来を振り切り、授業に集中する。

前の席の二宮さんは爆睡中。無敵だ。


視線を教壇からずらすと、莉子さんと目があった。

にこぱーっと微笑まれる。

僕も微笑む。

平和な世界だ。


あ。注意されてる。

数学の体育会系の教師に注意された莉子さんは不貞腐れながらも授業に戻る。いつもなら逆ギレしていたのに…。


莉子さんも勉学に励むようになったみたい。

よきかなよきかな。



昼休み。

基本的に僕は教室で食べる。そして読書か勉強をする。

屋上?そんなの陽キャ達が独占するに決まってるじゃないですか。何が楽しいんです?


一度だけ屋上で食べたことがある。

惨憺たる時間だった。

陽キャ達、それもカップルが大勢いる中、一人菓子パンを頬張る。思えばあのとき、ピンク色の悪魔たちもいたはずだ。風で飛ばされそうになるパンの袋を、ポイ捨ては良くないと延々と追いかける僕。笑う陽キャ。

正に地獄。

我、今帰する所なく、孤独にして同伴なし。


僕にとって屋上は禁忌。

決して踏み込んではいけない場所なのに…。


来てます。屋上。


「マジいい天気じゃん!風吹いてないし!最高じゃね!?」


「だな。」


「うむ。」


…イケジョ男子勢と昼食を食べています。



時を戻そう。


4時間目終了のチャイムが鳴り、僕は朝買ってきたパンを取り出す。事件が起きたのがここだった。


「とおる。ご飯一緒にしない?」


莉子さんである。


修学旅行以降も、学校ではあまり話しかけてこなかった莉子さん。目は時々合うが、それだけ。

このように昼休みに声を掛けてくるのは初めてであった。


「え?えっと。」


陰キャには正直辛い展開だ。陽キャ代表の、しかも学年で一番人気のある莉子さんにこうして声を掛けられるのだから。


…視線が痛い。


「駄目、かな?」


その言い方はズルい。断ったら僕は影を潜める親衛隊に処されてしまう。


「あ、えっと…。」


返答に悩む僕。そこに救いの手が差し伸べられた。


「遠藤は今日、俺達と食うよな?」


イケメン近藤くんである。

え…。好きかも。


「は?なんで?」


喧嘩腰になる莉子さん。


「いいじゃん。修学旅行の話もしたいし。な、遠藤?」


頷く僕。正直、今莉さんとご飯を一緒にするのは恥ずかしいを通り越してぴえん。じゃなくてぱおん。…恥ずかしいのだ。


「とおる…。」


待ってください。そんな悲しそうな顔するのはズルいと思います。


「…。」


僕と莉子さんの間に沈黙が生まれる。誰か、助けて…。


「お!透っちもいっしょなん?ええやん!いこいこ!」


チャラ男…。やっぱりお前は…。


「ほら。今日は男子会だから。ごめんな、足立。」


近藤くんもチャラ男の勢いに乗り、莉子さんへと畳み掛ける。


「…。とおるは、それでいいの?」


「ごめんね。足立さん。今日は近藤くん達と食べるよ。」


本当にごめん。まだ、心の準備が出来ないです。


「ん。なら、またね。」


引き下がる莉子さん。桐生さん達の方へ戻っていく。

…ちょっと申し訳ないことしたかも。


考えていると、


「じゃ、行こうぜ!屋上でいいっしょ?」



今はもう遠い過去。

こうして、屋上にてイケジョ男子に囲まれた僕は、肩を小さくしながらご飯を食べていた。


「ごめんな。遠藤。」


申し訳無さそうな近藤くん。そんなに気にしなくていいのに。


「透っちそれだけ?」


「うん。あんまりカロリー使わないから。」


僕のお昼は基本菓子パン2つか、惣菜パン1つ。

あまり動かないのだ。お腹が空くこともない。

チャラ男の弁当を見ると、とても豪華だった。


眺めている僕を見て察したのか、


「これ?姉貴が料理好きだから持たせてくるんよねー。ちょ、あんま見ないで!ハズいわ!」


顔を赤らめるチャラ男。需要は僕にしか無いよ。

話題を変えるようにチャラ男は続けた。


「てか、透っちって足立といい感じなん!?

めっちゃそれ聞きたいわ!」


…。まあ聞かれますよね。


田村くんも食べながら耳を傾けてるし。なんなら身体が傾いてる。バレバレだよ?


「えっと、ね…。」


言葉に詰まる。何を話せば良いんだろう。

友だちですって言えればいいけど、それで名前呼びを納得してくれるとは思わない。でも、あの日にあった出来事を話すつもりはないし…。


「ま、いいんじゃない。遠藤と足立がいい感じってことだろ?」


近藤くんのフォローが入る。フォローにしては雑すぎますけど。


「え?やっぱそうなん!?かーっ!!ライバルだったんじゃん!言えよー!」


…ごめん。


「ごめんなさい…。」


チャラ男が莉子さんのことが好きなのは周知の事実。

いつも全力でどーんだYOだったのだ。その莉子さんが僕を名前で呼んでいる。

チャラオにとって見れば、は?となる事態だと思う。


「いやいや!なに謝ってんの!いいじゃん!うらやまだけど、それだけっしょ!」


「…うん、一応。友だちとして、仲良くしてもらってる、かな。」


事実ではある…。


「んでも、足立が透っち見てる雰囲気、絶対に好きなんだよな!流石に俺でもわかるわー。」


なんとも言えない。現に再度告白されて断っているのだ。僕が何を言っても多分火に油を注ぐ結果になると思う。


「だけどさ、足立が元気になったのは透っちのお陰なんしょ?そりゃもうって感じよ!」


笑いながら話すチャラ男。本当に割り切っているのだろうか。


「…僕をやっちゃいたいとか思わないの?」


横からでて来た陰キャの僕が仲良くなっているのだ。

これまで一緒にいたチャラ男や近藤くんは余りいい気分じゃないと思ってた。


「そんなん、足立が決めることじゃね?俺等があーだこーだ言っても足立が好きなのは透っち。それでいいじゃん?」


「だな。気にすんな、遠藤。」


…。なんか泣きそうになってきた。絶対なにか言われると思ったのに。


「あり…、ありがとう。」


涙声になる僕。なんでこの人達はこんなに優しいんだろう。


「ちょ、泣くなって!脈なしって分かって泣きたいのはこっちなんだけど!」


…うん。ごめん。ごめんね。


「ごべんなざい…。」


「うむ。」


肩に手を置かれる。田村くん…。


「みんな、ありがどう。」


「まじ…!透っち良いやつすぎんよ!いうて足立のこと諦めたわけじゃねぇし?舐めんな?」


舐めてない。嬉しいのだ。こんなに素敵な人達に囲まれて…。


「…本当に、ありがとう。」


「負けたつもりはないけどな?」


不敵な笑みを浮かべた近藤くんは、とてもイケメンだった。




お昼も終え、教室に戻ろうとした時、スマフォに通知が来た。


『月曜は一緒で。あと、週末遊ぶ場所決めよ。』


そうでしたね。打ち上げ、完全に忘れてました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る