第29話 嫉妬するのは

修学旅行を終えた週末。



振替休日のため、3年は金曜日から日曜日まで3連休。

受験生である僕は、その本分を忘れずに日々の半分を机に向かっていた。



土曜日の夜。

二宮さんからメッセージが届いた。


『 家に来る約束、明日でも大丈夫?』


…そうでした。

二宮さんのおばあさんから改めてお礼を貰うという約束をしていたのでした。

二宮さんには修学旅行も含めてかなりお世話になった。

こちらからのお礼も込めて、菓子折りの1つでも持っていかなければ、まだ支払えてないコンサル代の請求額がとんでもないことになりそう。


『うん。大丈夫だよ。』


『良かった。なら、昼過ぎに駅集合で。』


了解、とメッセージを送る。

遥におすすめのお菓子を聞かなきゃと思っていると、またメッセージが届いた。

はて、何か言い忘れたことあったのかしら?とスマフォを見る。


『明日、会えたりする?修学旅行の打ち上げしない?』


莉子さんからだった。

そして被った。

打ち上げ。莉子さんは修学旅行最終日に、イケジョグループで行ってたけれど、これは多分僕個人へのお誘いなんだろうな…。

正直、行きたくはある。けど。


『ごめん。明日は二宮さんのおばあさんに呼ばれてて…。』


返信はすぐ。


『ん?おばあさんから?』


『そう。莉子さんとショッピングモールに行った日のときのお礼をしたいらしいと。』


『あーね。どっかで会うとか?』


『一応、二宮さん家にお呼ばれしてます。』


返信した1秒後、通話が掛かってきた。


『…もしもし。』


『行くの!?』


『…はい。すみません。』

思わず謝る。


『あ、いや。ごめん。ウチが止める権利ないっていうか。謝る必要ないっていうか。違くて。』


怒っているわけではなさそう…。


『うん。』


『とおるが誰かの女の家に行くのがちょっと…。なんか。』


『…うん。』


『…ヤダ。』


『…。』

…。これは、あれなのかな。ジャパニーズ嫉妬、というやつなのかな。

いや、流石に分かる。莉子さんは嫉妬してくれてる。


『でも、お礼を貰うだけだよ。そんなに長居するつもりもないから。』


『…ん。すぐ帰る?』


『そのつもりです。』


『分かった。…ごめんね、付き合ってもないのに。』


確かに、付き合ってはいない。関係性としては友だち。ただ、莉子さんの気持ちは僕も理解しているし…。

なんとも言えない空気が流れる。

それでも嫉妬してくれてるのは、なんだか嬉しかった。


『ううん。ありがとう。莉子さん。』


『…。ん。』


名前を呼んだ時、少しだけ向こうで息を呑む気配がした。


『来週。来週、とおるの時間欲しい。』


『うん。分かった。』


『じゃ、また連絡するね。おやすみ、とおる。』


『おやすみ、莉子さん。』


通話を切る。

…フワフワした気持ちのまま、スマフォを眺める。

メッセージには、おやすみの犬のスタンプを送られていた。


「足立?」


ヒッ…。

後ろから冷めた声が掛かった。


「なにビビってんのよ。」


「び、ビビってないし。」

めちゃくちゃビックリした。


「電話、足立でしょ?」


「…うん。」


遥の空気が重い。認めないけど、何も言わない。

彼女なりの線引きをしてくれたみたいだが。

…あれ?今問い詰められてない?


「ま、いいわ。なんかあったら潰すから。なくても潰したいし。」


駄目だ。やっぱり全然許してないや。

立ち昇る怒気が見えるもん。

…この空気で、明日二宮さん家に持っていく菓子折りの質問しても良いのかな。駄目じゃない?

だけど、起きるのが遅い遥に朝質問しても罵声しか飛んでこなさそうだし…。


「…あの。明日、二宮さん家に呼ばれてて。菓子折りって何が良いか教えてくれたり…。」


「は?」


怖い。一瞬消えかかった怒気がまた湧き出してくるのが分かる。お兄ちゃん、遥の血管が心配です。


「透。」


「はい。」


溜める遥。


「女の家に呼ばれたからって期待しないの。透なんだから。」


…。失礼でしょ。言われなくても分かってます。


「…知ってるよ。二宮さんには別に好きとかじゃないって言われてる。」

莉子さんの好意は理解しているつもり。

二宮さんには、好意ではないと言われている。

勘違いなんて起こらない。


「…本当にお礼だけなのかなぁ。」


遥の呟きに答えることは出来なかった。



------------------------------


日曜日。



駅で二宮さんを待つ。

手には先程買ってきた菓子折り。


特にすることもないので、改札近くから町並みを眺める。

休日最終日ということもあり、駅は人の出入りがとても多い。この中で小柄な二宮さんを見つけられるか少し心配になった。


少し時間が経ち、時計を確認しようとしたとき、駅のロータリーに高級そうなリムジンが入ってきた。

アニメで見るような、その車体でどうやって曲がるの?と疑問に思う長さではないが、一目見るだけで高そうなのが分かる。


ぼんやりとその車を眺めていると、停車したその車から二宮さんが出てきた。

…二宮さんが降りてきた。


既に車内から僕を認識していたのか、ぶんぶん手を振っている二宮さん。こっちに来いということなのだろう。

…あまり行きたくないです。


「おーい、遠藤くん!」


ガッツリ名前を呼ばれてしまったので、少し駆け足で向かう。


「こんにちは、遠藤くん。」


「…こんにちは、二宮さん。」


微笑む表情はとても穏やか。そして私服が可愛かった。


「じゃ、行こっか。」


そう言い、車に乗り込む。

え、これ僕も乗るの?いや、そうだよね。

諦めて車に乗る。冷蔵庫は、ないみたい。


「珍しい?」


それはそう。こんな高そうな車で迎えに来てもらうなんて考えてもいなかった。二宮さんってお嬢様だったの?

もう属性過多です。


「うん。ちょっと。いや、かなり驚いた。」


「良かった。」


僕を驚かせるために?もしかしてレンタカー?

…いや違うよね。運転席に座っている初老の男性も執事っぽい格好してるし。二宮さんの落ち着いた雰囲気からも、乗り慣れていのが分かる。


「1時間くらいだから。寛いでていいよ。」


「う、うん。よろしくお願いします。」

情報の処理に必死な僕は、まさしくボッチのコミュ障だった。


「フフッ」


…二宮さんすんごい笑顔だし。



二宮さんの言う通り、1時間程車が走ったくらいで、二宮さんは窓の外を指さした。


「あ、あそこ。見える?」


指差す方向を見る。うん。想像はしてた。

こんな高級車で迎えに来るくらいなんだから、マンションを指さして、何階って聞いたら全部だよって言われることも想定していた。

それにしても…。とっても素晴らしい豪邸ですね。

既視感があると思ったらサ◯ーウォーズで見たやつに似ている。


…大丈夫かな、今日。

もう既に帰りたかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

真です。


投稿頻度なのですが、今週は忙しいことが確定しており、毎日2話投稿するのが難しいかもしれません。


1話は必ず投稿する予定です。


すみませんが、よろしくお願いしますmm

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る