第20話 写真写りが悪いだけだから
名古屋までの約1時間40分。
僕達4人席はとても盛り上がっていた。チャラ男だけ。
車窓に映る景色を見ては一喜。後ろの近藤くんたちと話しては一喜。富士山が見えた瞬間も一喜。
憂がないよ?
僕と足立さんは正にお通夜状態。
足立さんは手すりに肘を置き、時々騒ぐチャラ男を嗜める程度で、会話という会話をしない。
じっと僕の足元に目を向け、こちらを頑なに見ない姿勢を貫くようだ。
僕はというと、気を利かせてくれた二宮さんとの会話を少しするくらいで、後はチャラ男と二宮さんの会話を聞いているのみ。
うん。すっごく気まずい。
なんとかしてこの気まずさから抜け出せないか試行錯誤して早2時間弱。
京都まであと一駅。もうこの状態のまま突き進むしか無いかもしれない。そもそも、イケジョグループの近くに居れば、こういう事があると分かっていたはずだ。前みたいに話しかけられただけで体調が悪くなっている訳でも無い。
幸い、足立さんも出発前以降、僕に話しかけるつもりもないらしい。
ならば僕も黙ろう。
ボッチとは無味無臭。まるでそこに居ないかのように振舞える。そう、空気なのだ。
フ◯ブリーズなんて望まない。消◯力、それも凄く控えめなやつだ。…置く意味ないや。
「遠藤くん?もしかして乗り物酔いしやすい?」
二宮さんが僕を気遣うように声を掛けてくれた。
違うんです。僕の人生史上で1番気まずい関係の人と向かい合わせに座っているだけなんです。
コンサルの二宮さんに目線でヘルプを求める。
週末何してますか、助けて貰ってもいいですか。
「ん。大丈夫。少し寝不足なだけだから。」
「そう?無理しないで言ってね?場所変わるから。」
「ありがとね。大丈夫だよ。この席のほうがトイレ籠もりやすいし。」
「…行きやすいじゃなくて?」
しまった。籠もりやすいなんて例え、ボッチの僕くらいしか伝わらないのを失念してた。
「フハッ!遠藤クンやっば。」
チャラ男にはウケているようで、カーっと言いながらケラケラ笑っている。カラスに似ているって言われない?
「うるさいっての。」
笑っているカラスの声が耳障りだったのか、足立さんが肘でチャラ男を小突く。小突くというよりほぼ肘打ちだった。
「いてっ!足立酷くね⁉遠藤クンが面白いのが悪いんじゃん!」
それは、なんだかむず痒い。人に面白いなんて言われることはあまりなかった人生である。
遥にはよく顔が面白いとは言われるが。
「あんま迷惑かけんなって言ってんの。」
言ったかなぁ。いや、言ったのだろう。
女性の抽象的な指摘は物事の全てを内包しているので、言われてしまった場合男性の負けである。そこに反論は許されない。まさにゲイボルグ。
普段より機嫌が悪い足立さんにチャラ男も怯んだのか、何も言わずに引き下がった。賢明である。
この空気を作ってしまった僕は心臓バクバクである。
え、失言しただけでこんな感じになるの?
半ば自分のせいでこの状況になったのだ。せめて空気を変えようと、手提げに入れていたのど飴を取り出す。
個包装のそれを手に持ち、恐る恐るチャラ男に問う。
「あ、飴、いる?」
「遠藤クン…。一生この恩は忘れねぇから。」
飴1つで一生なのか。もう少しチャラ男には優しくするべきだったと反省してしまった。
「あ、私も欲しい。」
勿論ですとも。
二宮さんにも飴をプレゼント。これで少しはコンサル料少なくなりませんかね。なりませんよね。
「…。」
うん。2人に渡して1人だけ渡さないなんて駄目だよね。ボッチの僕は1人だけという言葉に敏感だ。1人でいるのは僕だけでいいのだ。世界の罪は全て僕が背負う。
今なら女の子の胸から剣を取り出せそうだ。普通にセクハラだ。
「あの、足立さんも良かったら…。」
個包装の飴を1つ差し出す。
「…。」
駄目かもしれない。
…パイン味が嫌いなのかな?もしかしたらパインアレルギーだっのかも。
違う味ならと、袋の中を探そうとした時、
足立さんはそっと差し出した僕の手から飴を受け取った。
「…ありがとね。」
「うん。」
良かった。嫌いじゃなかったみたい。
ホッと胸をなでおろす僕。
「…ありがとう。」
足立さんの泣きそうな顔が酷く印象に残った。
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京都駅。
辛く苦しい時間も過ぎ去ってしまえばほんの一瞬。
あと3日は続くんだよね?ストレステストをすれば引っかかる自信がある。
京都駅の吹き抜け下に集合した修学旅行生一同は、点呼を取り、バス乗り場からクラス毎にバスに乗り込む。
最初の目的地は清水寺だ。なんとここは朝の6時から開いているそう。写真等で見るといつも清水の舞台に群がる観光客も、その時間は全くおらず、京都を一望できる権利を貰えるらしい。
イケジョ面子+二宮さんと僕。
坂を登り、連なるお店を冷やかしていると直ぐに目的地に着いた。流石は世界遺産。うん。良いよね。
語彙力の崩壊を感じながら境内に入る。
先行するイケジョグループの後ろを歩く僕達は舞台の上で写真を撮り合う人達を眺める。
「はー。やっぱり人気だね。」
感心したように呟く二宮さん。
「うん。ほんとに。こんなに人いると取っている場所分からないんじゃないかな。」
現に、景色も背景に入れずパシャパシャ写真を撮る人も少なくない。
「そうだね。でも、それでも思い出としては残るから良いんじゃない?」
「そう、なのかな?」
うん。そういうものなのだろう。
後に写真を見返し、どこで取ったか定かではなくても、情景と記憶を掘り起こす。
思い出ってそういうものだもんね。
イケジョグループも舞台の最前線に立ち、皆で写真を撮ろうと躍起になっているのが見える。頑張って。
「じゃあさ、せっかくだし私達も撮らない?」
私達も。その達に含まれているのは僕ですか?
…僕っぽいですね。
「…喜んで。」
2人並んで、写真を撮る。
ピロンとスマフォの通知が鳴る。確認すると、撮った写真が送られてきていた。
微笑む二宮さんの横に立つ僕。
…目瞑ってるし。
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