第14話 ほんと男子って

水曜日



まだ1日の中に寒暖差があった4月も終わりに近づき、日中は過ごしやすい気温が続いている。

僕の目の前には、薄着のまま汗を流しひたすら身体を動かし続ける同級生の姿が映っていた。


体育の授業です。


受験生にもなると、体育の時間は基本的に自由時間と同じような扱いになっている。2クラス合同で、男子と女子に別れているので、僕が見ているのは野郎の汗である。

…別に、女子の汗に惹かれているわけではないです。


グラウンドには大雑把なに別れた2チームがサッカーに興じていた。

クラスではあまり話さないような生徒も、身体を動かすことが嬉しいのか、かなり熱が入っている。

特にサッカー部は自分の本領発揮とばかりに活躍していた。


チャラ男、本当にサッカー部だったんだ。


クラス内ではお調子者枠(僕個人の意見)のチャラ男も、サッカーとなると話は別なのか、楽しく、されども真剣に取り組んでいる姿勢に感心してしまった。

女子の目が無くなるとイケメンになるのか、チャラ男。やはり残念。

しかし、サッカー部の独壇場となるわけでもなく、一部の運動神経の良い男子も程々の活躍をしていたのだが、その中でもイケメン近藤くんは、サッカー部に引けを取らないレベルの動きを見せていた。


やはりイケメン。

イケメンという単語の中には顔が良いだけではなくて、成績優秀。運動神経抜群。性格良し。恋愛運良し。仕事運良しも含まれているのだろう。

彼を身に着けていれば将来安泰だ。


そんなクラスメイト達をグラウンドの隅、木の陰で涼しい位置に座る僕は眺めていた。

なぜ参加しないのか?

小学生の頃に人数が足りないと嘆く同級生にちらっと顔を見られたはずなのに、すぐに逸らしてまた探し始められた過去を待つ僕には、そんなスポーツ特にやりたいと思ったことはないね。

キーパーでも良かったんだよ?


ただ、見るのは好きだ。

何事も真剣に取り組んでいる姿には人を動かす力があると思っているし、それが授業内のお遊びであったとしても、楽しそうにするクラスメイト達は見ていて元気が出る。


一試合の時間は20分。

2クラスの男子を4チーム+僕で分けて回しているようだ。

チームに属する彼らは20分しかできないが、僕は40分フルだ。やはりボッチは良い。対戦相手は募集中。


丁度、一試合目が終わったのか、笑いながらグラウンドをはけていく。

2得点を決めた近藤くんは、チームメイト達とハイタッチを交わしながらイケメンの所作でスポーツドリンクを飲んでいた。

その様子を見すぎてしまったのか、近藤くんと目があってしまう。

あたかも辺りを見渡していましたよと言うように、視界を近藤くんから外すが、彼は僕から目を離すことはせず、なんとこちらに向かってきた。


え、なに?イケメン観覧料でも取られるの?


そうなると僕は大分滞納してるから絶対払えないんだけど。


「お疲れ、遠藤」


全く疲れてないです。はい。


「お、お疲れ、近藤くん。」


近藤くんは、僕の隣に座り込む。


「…」


「…」


お互い武士の間合いなのか、会話はない。

ふむ。グラウンドのベストポジションが欲しかったのかな。それなら仕方ない。試合で疲れていただろう彼にここを譲ろう。そして反対側の木に移ろう。

前世はセミなのか?僕は。


では、と心の中で近藤くんに挨拶を交わし、そっと立ち上がろうとした。


「…遠藤ってさ、好きな女子とかいるのか?」


「…へ?」


唐突に聞かれたその質問にアホ面を晒す。

近藤くんは少しバツの悪そうな顔で頬をかき、


「いやさ、特に他意はないんだが。」


「はあ。」


イケメンの彼にしては要領を得ない。

僕の好きな子?んー。記憶に新しい足立さん。恐らく彼女に抱いた気持ちは好きという言葉で表して良いと思う。

粉々に砕かれたけど。


「いないよ。そもそも友達もいないし。まだレベルが足りてないみたい。」


「レベル…?は?」


近藤くんには伝わらなかったようだ。

レベルが足りないと挨拶も交わしてもらえないんだよ?

しかし、近藤くんの並みにカンストしている人に伝えても理解が出来ないのだろう。

彼女が作れないなら、恋人を作ればいいじゃないとか言いそうだし。…言わないか。


「ごめん。でも、いないよ?」


再度伝える。

僕を目に写し、一挙一投足を逃さないように見ていた近藤くんは、少しため息を付いた。


「そっか。なら良いんだ。悪い、変なこと聞いた。」


自分で納得したのか、そう言って微笑む。

うぅ。イケメンオーラが凄い。


変な空気が流れた僕達。

やはりそれをぶち壊すのはコイツしかいなかった。


「あれ?健太?どしたんそんなとこで。」


チャラ男である。

近藤くんを探していたのか、僕達が座る木陰までやってきた彼は、そのまま近藤の横に座った。


「おお!ここ涼しー!いいじゃんここ!今度からここ座ろうぜ!」


…正式に反対側の木に移ることにしよう。


一頻り騒いだチャラ男は、近藤くんの横にいる僕を視認したようだ。


「ん?あれ?えっと、」


うん。名前知らないよね。僕も君の名前知らないし。

チャラ・オさんだっけ?


「遠藤だよ。」


見かねた近藤くんがフォローする。流石はイケメン。


「お!そう!遠藤クン!」


…絶対知らなかったでしょ。


「…うん。」


「え、なんで2人でここいんの?もしかして呼出し?」


「違うから。ちょっと遠藤とコイバナしてたんだよ。」


いや、してないから。


「マジかよ!遠藤クン好きな子いんの?夏だねー!」


知らない。どう解釈したら恋イコールで夏なのか。

世の中そうなの?


「い、いや。いないんだけど。」


とりあえず否定しとかないと。


「ま?もったいないわぁ。恋しようぜ!俺なんかずっと恋しててさ!」


知ってます。クラスメイト皆知ってます。


「女子の体育見れないのマジ萎えるわな。足立の体操服とか超可愛いし!」


「まあな。」


近藤くんが同意してる!

そうか、足立さんはやはりモテモテだった。

…あれ?それって両思いなのでは?


「汗かいてる女子とか良いよなあ!マジ上がるわ!」


「なのか。」


あ、そこには同意しないんだ。同意しかけた僕は…。


「てか、遠藤クンさ。修旅の班、真と同じっしょ?」


野球部の田村くんのことだ。


「そうだね。申し訳ない。」


「いや、何謝ってんのよ。ウケるわ!」


ウケてしまった。


「せっかく同じ班なんだしさ、仲良くしようぜ!」


「そうだな。よろしく、遠藤。」


笑いながら話すチャラ男。

イケマンスマイルを湛えている近藤くん。

…めちゃくちゃ良い人達だった。


「…お!足立達じゃね⁉水飲みきたんかな!見ようぜ健太!」


「ちょ、おい!引っ張るな!

またな。遠藤。」


「…」


ほんと男子って。

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