第9話 絶対に勘違いされたくない女の子
修学旅行の班で行く買い物イベントを無事回避することができ、僕は二宮さんと並んで駅に続く道を歩いていた。
「それにしても、熱々だよね。あの2人。」
「そうだねー。」
ピンク色の悪魔たち(今村さんと田村くん)である。
彼らは今頃周囲の独り身に効果抜群のピンク色の波動を振りまいていることだろう。本当に行かなくて良かった。
学校での二宮さんは、喋りかけられたら話すけど、基本的には寝ている人だ。
そんなに寝て夜はどうしているのか少し気になるレベル。
二宮さんが寝てなければ、先生方からの二宮さん経由で回ってくる指名ももうちょっと少ないはずなのだ。
…完全に私怨だ、これ。
そんな二宮さんも放課後は元気になっているのか、足取りが軽い。
「ねえ、遠藤くんはさ、よく買い物とか行くの?」
「え、いや。そんなにかな。基本的に家に居るほうが多いよ。」
「ふーん。」
二宮さんの相槌のテンプレートでもあるこの、ふーん。にも違いがあるのだと最近知った。
学校で話している際に会話を終わらせる時。
少し含みを持たせて会話が続く可能性を感じる時。
そして、今みたいに僕の方を覗き込んで、まるで興味津々ですと言わんばかりの時。
凄いな。同じ言葉だけで、こんなに違う感情を表現できるなんて。多分僕が使ったら絶対に話しかけてもらえなくなるんだろう。まあそもそも話しかけてくる人ほぼ居ないけど。
二宮さんくらいの可愛い女子が使うから有効なのだ。美少女ってお得。
「な、何でしょう。」
まじまじと見られることに慣れておらず、陰キャ全開になってしまう。
「何か、先週会ったときは女の子と居た感じしたからさ」
…。え?何?女子ってそんなこと感じ取れるの?
もうそれエスパーの領域に入ってない?もしかしてジャンル変わる?
「…いや。妹と居ただけだよ。」
苦し紛れに遥と居たことにする。
足立さんと一緒に居たなんて知られるのは不味い。
「そうなんだ。遥さんだっけ?副会長の。
凄い背高いよね。顔も綺麗だし。年下なのに憧れるよ。」
3年の、それもかなり可愛い部類に入る二宮さんでも遥に憧れるのか…。凄いな妹よ。お兄ちゃんは鼻が高いです。
「そう。あのときも妹の買い物に付き合わされてた。」
荷物持ちの兄です。
でもね?絶対貴女のほうが僕より握力も体力もありますからね?買い物袋で両手が塞がる僕とバナナジュース片手の貴女。さて、どっちの方が身長高いでしょーか。
「へぇー。優しいお兄ちゃんだ。」
そう言ってはにかむ二宮さん。
微笑んでいるその顔は、以前町中で見かけた彼氏さんに見せる表情と似ていて、そんなレア顔を見れたことに少しだけ心が踊ってしまう。
「二宮さんこそ、おばあちゃん想いだよね。」
この前会った時、おばあさんに注意こそしていたが、とても心配だったのだろう。寄り添うように支えている姿を見れば、深い愛情が伝わってきた。
「うん。家族だから。」
「そっか。」
話しながら歩いていると、もう既に駅の目と鼻の先まで来ていた。
二宮さんは電車。僕は徒歩なので、ここでお別れになる。
駅の改札に向かうと思っていたのだが、二宮さんは少し歩くペースを落とし始めた。
二宮さんは僕から見ても背がある方ではなく、どちらかというと小柄である。そんな彼女が歩くスピードを落とすと、僕の歩幅では調整が難しくて、1度止まってしまった。
少し後ろ歩いていた二宮さんは数秒、言いづらそうに口を開閉して、おずおずと僕に提案してきた。
「…あのさ、もう少し話さない?」
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喫茶店
2人で入った店は、奇しくも足立さんと昼食で来た喫茶店だった。
二宮さんが頼んだのもまた、パンケーキセット。
「うわぁ…!」
目を輝かせる二宮さん。
届いたパンケーキはいつ見ても凄い。
女子たちがパンケーキパンケーキと夢中になるのも分からないではない。ただ、男のボクからしてもあの量は食べ切れるかどうかだと思う。現に足立さんはシェアパンケーキという実際のところ残飯処理班として僕に渡してきたくらいだし。
二宮さんは女子の平均的な身長の足立さんより大分小柄なので、絶対に食べきれないだろうと思ってコーヒー単品にしていたのだが、
「ふぅ。ご馳走様でした。」
ナイフとフォークを綺麗に並べ、軽々と食べ終えた二宮さんはナプキンで口を拭いている。
ん?あれ?どゆこと?
「美味しいね、ここのパンケーキ!リピートしたくなったよ!」
まじか。一体その小さな身体のどこに格納されているのか。エスパー並の感を持っていたりと、二宮さんのキャラがどんどん濃くなっていってる気がする…。
一息ついたのか、姿勢を正した二宮さんはこちらを見据えた。
「それで…。話したかったことなんだけど。」
「…あ、うん。何?」
パンケーキが目的でないのは分かってたけど、眼の前で起こった事件が衝撃的すぎて、反応に遅れてしまった。
「遠藤くんってさ、彼女とか居たりする?」
…え?
「え?」
「あ、いや、違うの!違うというか。ちょっとお願いがあって。」
なんだろう。また告白関連なのだろうか。
足立さんに続き、今年の僕は何かのドッキリキャンペーンの対象になっているとか?
もし成功したら景品がもらえるとか?
そんなの人間不信になるよ…。
年末にドッキリ企画で笑っていたけど、自分の身に起きるとホントに笑えない。
とりあえず、整理しようとしていた二宮さんに伝えるだけ伝える。
「いや、いないよ。」
「…そうなんだ。良かった。
あのさ、おばあちゃんが遠藤くんをお家に招待したらどうかって言ってて。それで、もし迷惑じゃなかったらどうかなって思ったんだけど。一応、クラスメイトでも女子の家だから、彼女さんとか居たらあれかなって思って。」
一息に説明し終えた二宮さんは、恥ずかしいのかプルプル震えている。
いつもとのギャップでキュンと来てしまいそうになった。
てか、お家に招待。むむ。
「僕は、別にいいけど。本当にあれくらい気にしないでいいのに…。」
「お、おばあちゃんがね!やっぱり1度会ってからお礼を言いたいって聞かなくて。それで、えと。お願いできないかな?」
そんな上目遣いで見るのは辞めてほしい。
頷いてしまいそうになった瞬間、そういえば二宮さんにも彼氏さんがいるじゃんと気づいた僕はとても偉い。
ここは、その彼氏さんがを理由にお断りしよう。
名付けて、
【僕が彼女がいるから家に呼べないというのであれば、二宮さんにも彼氏がいるから僕を呼ぶのはどうなんだろう作戦】だ。
「僕は彼女いないけど。二宮さんは彼氏さんがいるんじゃない?だからあんまり家に呼んだりするのは辞めといた方…」
「は?彼氏?いないよ?」
おお。ちょっと怖い。食い気味で否定されたけど、じゃああの時見たのは誰だったんだろう。
「え、はあ。なるほど。」
相槌を打ったはいいものの、適当すぎたのか、二宮さんは少し声に怒気をこもらせた。
「遠藤くんが見たの?いつ?教えて?
私本当に彼氏いないから。全部証明できるよ。」
「あ、ご、ごめん。いつかっていうとちょっと日にちまでは覚えてないけど、ショッピングモールで2人で歩いてのを見た感じ、です。」
二宮さんの圧が強くて、泣きそう。
「ショッピングモール…。それお兄ちゃんだよ。」
軽く考える仕草を見せた二宮さんは、そう言いながらスマフォを操作し、写真を見せてきた。
写っているのは、クレープを持った二宮さんとその横でビーズをしている男性。確かに、よく見てみると、顔立ちが似ている。
なるほど、お兄さんだったのか。
「あ、そうなんだ。ごめん。ちょっと勘違いしてた。てっきり二宮さん彼氏いるんだと。」
「いいの。私もちょっとあつくなってごめん。
じゃ、じゃあ今度!修学旅行の後でもいいから、家に来てくれる?」
これだけ言われてなお断る理由を作ることも出来そうになかった。
「あ、はい。じゃあ今度お邪魔させて貰います。」
「よし。…急に彼氏の話なんてされてビックリした。私、本当にいないからね?勘違いしないでね?」
「はい。肝に銘じます」
…ツンデレ?
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