第8話 第6班

金曜日である。

英語で言うならFRIDAY。

順番でいうと5番目。日曜日を1とすると6番目。

プログラミング的な話だと0カウントなので4番目か5番目。


つまり何が言いたいか、そう。

班決めの最終日になっていた。

二宮さんと班一緒になろうね、そうしようねの友達ライクな約束を交わしてからこの4日間、特に何事もなく平和に暮らしていた。

登校した朝、後ろの黒板に各班毎に4〜5人の名前が記載されていた。

やはり目立つのはイケジョの面々。堂々の第一班で確定している。


一班:

イケメン近藤くん

トラウマ足立さん

チャラ男チャラ男

毒舌清楚桐生さん


なるほど、女バス今村さんと野球部田村くんは付き合っていることもあってか今回はイケジョグループではなく、別の班になるのか。

まあ、一班の面子を見るに色恋沙汰の風が吹き荒れるのは目に見えているし、既に相手のいる2人からすれば、この京都旅行をラブラブイチャイチャのピンク色な4日間にしたいのだろう。


目の毒であるから出来るだけ遠くに居てほしい。

ほなら二宮さんと僕はどこか枠が余っている所に入るのかしらと、まだ人数が確定していない班を探そうとしたときに、恐ろしい事に気がついた。


6班:

野球部田村くん

女バス今村さん

眠り姫二宮さん

ボッチ遠藤くん


思わず2度見してしまった。

あっれれー。おっかしいぞー。

イケジョのカップル組と同じ班に、何故か二宮さんと僕の名前が記載されていた。 

誰が決めたのだろう。

まぁほぼ確定で二宮さん辺りだとは思うが、なぜよりにもよってピンク色漂う2人と同じ班になってしまったのだろうか。


これは、いくら温厚な僕でも流石に文句の1つでも言わねばと、肩を怒らせて自分の席に向かう。


目的の二宮さんは既に席についており、僕の噴火寸前の火山に気づいた様子もなく、こちらに手を振っていた。


つい振り返してしまった。


違う。呑まれるな。ガツンと言おう。この班は嫌だと。 お前に班の選択権がそもそもあるのかと言う話は置いておいてください。

僕だって人間なんだ。そしてもっと言えばボッチなのだ。

なぜ陽キャ軍団の中でもトップレベルの連中と同じ班にならなければならない。


自席に辿り着いた僕に、二宮さんから先制の挨拶が飛んできた。 


「おはよう。遠藤くん」


「おはよう。二宮さん」


さぁ、言おう。班分けを変えてくださいと。なんなら土下座も辞さない。醜く足掻いてでも6班から抜け出してやる。


「あの、二宮さ…」


「陽菜!今日のLHR修学旅行の準備に使って良いんだって!一緒に回るとこ決めよ!」


…陽キャのテンションに打ち負かされてしまった。

二宮さんに話しかけたのは女バスの今村さん。

イケジョの中でも活発な女の子だ。


「うん。よろしく。」


二宮さんも朗らかに受け答えしている。

不味い。このままでは自然な流れで僕も強制参加することになる。


「あ、あの…」


「おい。」


ヒィ…

突如後ろから聞こえた太い声と、肩に置かれた大きな手で、僕の小さな心臓はすくみあがってしまった。

振り向くとそこには野球部の田村くん。

身長は190近いのではないだろうか。

身に纏う威圧感も相まって、僕には2m以上の巨人に見える。


「は、はい。」


「よろしくな。」


…笑ったのだろうか。口角を少し上げた田村くんの笑顔?に僕は、為すすべもなく力尽きた。


「は、はひ。」


ああ、そうだ。人類は思い知ったじゃないか。巨人の恐怖に。僕如き一般人には抗うことなんて出来やしないんだ。


「お、遠藤くんもよろしくね!

てか6班皆いるじゃん!じゃあもう机くっつけて始めちゃお!」


「そうね!あ、遠藤くんさっき何か言いかけてたけど、大丈夫?」


「だいじょぶです。」



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流れる季節の真ん中で、ふと日の長さを感じる今日この頃。


皆様はいかがお過ごしでしょうか。


今はLHRの真っ只中、修学旅行の準備という名目のボッチ殺しを受けております。


「清水寺とか金閣寺は皆で回るコースに入ってるもんね〜。あ、伏見稲荷とかどう?」


今村さん。


「良いんじゃない?ただ、あの参道ってだいぶ歩くから結構疲れそう。個人的には嵐山も行ってみたい。」


二宮さん。


「うむ。」


田村くん。


「…」


無。


女子のキャッキャウフフな会話を中心に、班で回るルート検索中である。なんなら田村くんは頷くだけだから、ほぼ女子だけで決めている。


僕の意見?あるわけ無いじゃないですか。


「でさ!今日の放課後暇だったら買い物行かない?」


「良いよ。私予定ないし。」


「うむ。」


「…」


…。はっ、喋らなすぎて頭も三点リーダーになっていた。

いやいや、ちょっと待ってください。

なんです?買い物?修学旅行に買い物って必要あるんでしたっけ?何を買うんでしょう。

トランプ?人生ゲーム?ウノ?

僕の家にあるから持っていくよ?家でやったこと無いけど。

この流れは駄目だ。また流されてアイランドになってしまう。だけどこの場で、行かなくてもいいカナ?なんて言う事ができてたらそもそもこの班には居ない。


発案者の今村さんは、野球部の田村くんとどこに行こうね〜なんていうお花畑な会話をしている。


…それもう貴方!素直に田村くんとお買い物デートしたいからって言っちゃえばいいじゃない!

素直になっちゃいなよ!

そしたら僕も行かなくて済むから!


心の中で叫んでいると、二宮さんが救いの手を差し伸べてくれた。


「だったらさ、今村さんと田村くんがベアで、

私と遠藤くんがペアで別れて行くのはどう?」


なんと。貴女がメシアか。


「え、良いの?じゃあそれでいこ!」


ヤッタヤッタと喜んでいる今村さんを慈愛の目で見つめる田村くん。

彼もまたメシアなのか…?


それにしても、これで放課後のお買い物デートwithボッチは無くなった。二宮さんは僕を助けてくれるために発言したんだろうし、放課後になったら適当に理由をつけて帰ろう。


いや、ホントに修学旅行に行くのに皆で買い物する意味がわからない。何?新しい水着買うの?鴨川で泳いじゃうの?川の中洲でBBQして取り残されちゃうの?


いずれにしても二宮さんには助けてもらった。

目礼すると、なぜが強烈なウインクが飛んできた。



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放課後


ピンク色の悪魔たち、もとい今村さんと田村くんは意気揚々と買い物に旅立った。これで、僕の帰宅を阻む者はいない。

さぁ、帰ろう。いざ帰ろうと鞄を手にしたところで、二宮さんに呼び止められてしまった。


「遠藤くん」


「二宮さん?どうしたの?」


なんだろう。もしかしたら、以前の困ってた時の助けってこれのこと?であれば僕は二宮さんに相談料を払わなければいけないのか…。

いや、助けてもらったのだ。恩にはそれ相応の感謝を示さねば。


「ごめん。今手持ちがあんまりなくて…。2千円くらいで良い?」


僕の提案に二宮さんは目をパチクリとさせる。

…足りないのか。そうか。もし買い物に付き合わされてたとしたら「んじゃ、ボッチくん支払いよろしくね!」なんていう未来もあり得たのだろうか。


「いや、何いってんの?一緒に帰ろ?」


「あ、はい。」


うん。早とちりは良くないよね?

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