第88話聖女神アフロディーテの特別神殿②

直人は目覚めたのが、何時なのかは不明。

窓からの日差しで、お昼近くと感じただけ。


沢田副支配人の胸に、すぐに抱きかかえられた。

「聖なる女神アフロディーテの特別神殿に向かいます」

そのまま、目隠しをされた。

(目隠しには不思議な香りがしみ込んでいた)

(ジャスミンに近い、いろいろ混ぜてある)


直人は、何も言わなかった。

(まな板の上の鯛、そんな気持ちだった)

(何のお告げになるのかは、沢田副支配人でも、支配人でも不明ならば、直人に何の予想が出来るのか)

(わからないことを気にしても仕方がない、そんな気持ちで開き直っていた)


車椅子に乗せられた。(目隠しをされているから、と理解した)

押しているのは、沢田副支配人だった。

(目隠しをされているけれど、雰囲気でわかる)

(新宿の聖アフロディーテ病院で、肉体全てをさらけ出して、お世話になった人)

(とにかく信頼しきっている、ベッドでも大好きな女性だ)


車椅子のまま、エレベーターに乗せられた。

驚いたのは、その動きだ。

上昇と下降だけではないのだ。

前にも、横にも進む。

しかし、エレベーターを出た感覚は何も無い。


どれだけ乗るのかは不明。(とても長く感じた)

特別神殿であるので、秘密厳守で目隠しの上に、複雑な「経路」が設定されていると、理解した。


「直人様、着きました」

エレベーターが止まり、沢田副支配人の声が聞こえた。

もう一つ感じたのは、強い眠気を誘う、しかも甘い花の香りが漂っていること。


「はい」

直人は、懸命に返事。(眠くて、声を出すのも、しんどかった)


沢田副支配人の次の言葉は聞こえなかった。

車椅子から降ろされたのは、わかった。

目隠しが、スルスルと、外された。

(肌に触れる指は、沢田副支配人の指ではなかった)

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