第87話聖女神アフロディーテの特別神殿①

直人は、そっとカトリーヌの部屋を出た。

(カトリーヌは、激しい交情の後、すとんと眠ってしまった)


少し歩いて、杉本瞳から声をかけられた。

「直人様、ご立派でした、お疲れさまでした」

南陽子は顔が赤い。

「いつも冷静なカトリーヌ様が、あんなに興奮するなんて初めて拝見しました」


直人は、二人のメイドに「見られていた」ことは、それほど気にならない。

それよりも、白いシャツが血に染まっていることが、申し訳ない。

「ごめん、皮膚が破れて出血かな、洗濯しないと」

「絆創膏のレベルなの?」


直人の部屋の前に、沢田副支配人が立って待っていた。

(実際、カトリーヌの部屋とは至近の距離)

「直人君、肩と胸を見せて、部屋に入ってからでいい」


沢田副支配人は、元々看護師。

新宿の聖アフロディーテ病院では、一か月専属でお世話になったこともある。

(また、実際、男女の身体の関係もある)

直人は、自分の部屋に入り、素直に上半身(裸)をさらけ出した。


沢田副支配人は、杉本瞳、南陽子と直人の上半身を点検した。

「あちこち・・・だね」

「痛くなかった?よく耐えました」

「爪の跡、そして皮膚が破れている」

「絆創膏のレベルでは、ないよ」

「細菌に感染すると、よくない」


結局、強い刺激の軟膏を塗られ、その上に包帯を巻かれた。

沢田副支配人は柔らかく、直人を抱いた。

(それでも、胸と肩に痛みが走った)

「夕方には取れるよ、そこまで我慢して」

「お風呂もOK」


直人は、ホッとして、ようやくベッドに座った。

「ピアノは・・・今日は無理かも、胸と肩が痛い」

「カリキュラムは、あるの?」


タブレットを持って直人に説明しようとした杉本瞳を、沢田副支配人が手で制した。

「私から、言います」

「直人君、少し休んだら、アフロディーテの特別神殿にお連れします」

「それまでは、横になって休んでいて」


直人は、聞き返した。

「アフロディーテの特別神殿とは?」

「巨大コンピューターが、アフロディーテの本体かと」


沢田副支配人は、首を横に振った。

「とても神聖な空間です」

「選ばれた人しか、招待が来ません」

「直人君、いや、もう直人様かな」

「聖女神アフロディーテの御神霊が、直人様を認められたということ」

「何のお告げになるのかは、私でも、支配人でも不明」


直人は強い不安を感じた。

「命の危険は?」


沢田副支配人は、否定した。

「それはないよ」

「直人君は救われるべきして、救われ、この紀州のアフロディーテに来た」

「そして、退屈と憂鬱に悩む、多くの女性の心と身体を癒し、活性化させ、支えになっています」

「だから、貢献度は、実に高い」

「期待していいと思います」


直人は、ようやく落ち着いた。

「ありがとうございます、アフロディーテ女神に、身体も心も委ねます」

そこまで答えたら、途端に眠くなった。

「お迎えの時まで、眠っていても?」


南陽子が、直人の頭をそっと、自分の膝の上に乗せた。

(直人もストンと眠りに落ちた)

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