第83話ヴァロワ家のカトリーヌ②

私、カトリーヌは、2階の講義室に入った。

数人の女子が座っていたが、探すのは直人だけ。

しかし、まだ姿が見えない。(体調でも悪いのか、不安になった)


5分ぐらい待って、直人が入って来た。

多国籍茶店などの噂が広がっているようで、他の女子たちが、一斉に直人に注目した。

(私は、焦ったので、直人に向かって大きく手招きした)

(当然のこと、今日の直人は、私専用なのだから)


直人は、顔を赤くして(そこが可愛い、そそるよ)、私の隣に座った。

「ごめんなさい、待たせた?」


「うん、心配させないでよ」


直人は、私の手をそっと握った。

「きれいな手だね」(途端に私の身体の奥から、蜜があふれ出す)


「手だけ?」(悔しいから、文句を言ってあげた)


直人は、意外な反応だ。(直人にとっては、当然かもしれないが)

「講義に集中しよう」


「あ・・・うん・・・」(焦らされた・・・もう、心はマウントを取られた)


講師が入って来た。

菊池と名乗った。


直人は「ほお・・・」とうれしそうな顔。

「中世史の権威だよ」

「中世をテーマにした小説も多い、文章も上手」

「何冊か買ったし、図書館で借りて読んだ」


菊池講師が講義を始めた。

講義のテーマは、「ベネツィア共和国の現実的政策について」だ。


「ベネツィアは、皆様ご存知の通り、海の上に浮かぶ都市国家」

「隣の陸地ヴェローナも領土になりますが、あくまでも別荘地のような扱いです」

「早くから貴族を基本にした共和制を樹立」

「中世において圧倒的支配力を持っていたローマ・カトリックにも、容易には屈しない」

「キリスト教徒である前に、ベネツィア人である、そんな気概を持っていたのです」

「ベネツィアの国家としての目的は、国家の経済的発展」

「そのために、異教、イスラムとも、積極的に手を結ぶ」

「お金と宗教は別の考えからです、実にきっぱりと分けて考えています」

「・・・当時のローマ・カトリックはベネツィアを気に入らないのですが、ベネツィアは上手に賄賂等の裏工作を使い、酷い目には遭わず、実に狡猾に都市国家として発展、繁栄を極めたのです」

「同じキリスト教国であるビザンチンを責めた十字軍でも暗躍しておりますが、とにかくベネツィアの海運力、経済力、そしてそれを支える諜報力は、類まれなもの」

「ローマ・カトリックを始め、世界各国も、全く無視できない都市国家だったのです」

「・・・領土的には、極々狭いのですが、その海運力と経済力で、大きな領土を持つ他国を、実質的に支配してしまう」

・・・・


菊池講師のキレキレのベネツィア講義が続いている。

直人は、腕を組んで聴き入っている。

「面白いね、ベネツィア」

「特に男は、ほとんどが船や異国での生活」


私は、ちょっと気に入らない。

「ダメよ、直人は、船に乗せない」

「あちこちで、浮気して歩きそう」


直人は、プッと笑った。

「あのさ、論理が飛躍し過ぎ」

「僕が船に乗るなんて一言も言っていない」


私は抵抗を許さなかった。

「だめ、その時代に住んでも、私は直人を屋敷から出さない」

「縛り付けて、愛し尽くすの」

「・・・今夜もそうする」


直人の手が、すっと私の太ももに置かれた。

(・・・ますます、私の身体は危険な状態になってしまった)

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