第81話ソフィと直人の、ほんわかとした会話

私、ソフィは直人の部屋に住みたいとまで思うけれど、自制した。

(すごく苦しいけれど)

(他の子女と揉め事を起こせば、ここから追放されてしまう)

(そうでなくても、ロマノフ家の娘は「国際情勢」を理由に、簡単に追放されてしまった)

(今は、ニューヨークのアフロディーテで軟禁状態、つまり部屋から出ることもできない措置と聞いた)


直人の、自宅の部屋から持って来た本も、気になった。

例の「美少女」本ではない。(見ていて楽しかったけれど)(平和だなあと)

特に気になったのは、東洋の「禅」思想を書いたもの。

難しい言葉ではなくて、単純にまとめてある。

私の理解も大雑把ではあるが


「一期一会」(この時だけを考えて、誠心誠意、相手と仲良くする)

「喫茶去」(まあ、一服かな。つまり慌てないこと)

「冷暖自知」(いろんな捉え方があるけれど、他人の判断をうのみにするな、かな)

「接心」(精神を一つの対象に集中し、散漫な状態にならないようにすること)

(確かに雑念が起きると、物事はなかなか、進まない)


途中まで読んで、面白かったから直人にお願いした。

「ねえ、借りていい?」(買ってもいいけれど、直人に返すのも、楽しみ)


直人は、「うん」と、可愛く笑った。(いい子だなあと、思う)


直人に聞いた。(興味あったから)

「ねえ、お釈迦様って神様なの?」


直人は首を傾げた。

「神様ではないよ、人間」

「世界を作った存在でもない」

「人に、大事な事を教えた人かな」


「と言うと・・・道徳とか、哲学の先生?」


直人は、また笑った。

「そんなに難しいことは言っていない」

「難しくしたのは、弟子とか後世の人たちかも」

「ユダヤ教とかキリスト教の神学が難しいように」

「権威付けをしたのも、釈迦でもなくイエスでもないと思うよ」


「というと?要するに?」(私は、せっかちだ)


直人は、私の頭を撫でた。(えへへ、うれしい・・・)

「つまり、おだやかな心、ほんのりうれしい、それが大事ですよ、かな」

「そのために、観音様のような冷静な知恵」

「不動明王のような、めげない心」

「地蔵さんのような、やさしい心」


「おだやかな心か・・・」(わかったような、わからないような・・・)


直人は、窓のカーテンを開けた。

青い大空、同じく青く静かな大きな海が広がっている。

「これを見て、怒る人はいないと思う」

「要するに落ち着いて、ゆっくりでもいいから」

「急ぐ時もあるけれど、それはそれで」

「心が落ち着いて、余裕があるのが、仏の状態」


少し間があった。

「仏教は、神様でも悪魔でもないよ」


「焦るとミスもするしね、ますますミスを呼ぶこともあるし」

(時々、やってしまいます)


直人は、また笑った。

「そんな感じかな、うまく言えなくてごめん」

「ある程度の幅は、誰でもあるけれど」

「心の安定、落ち着きが大切」

「それがなければ、金銭も名誉も、無意味」


「うん、確かに」


私と直人の、途中から、ほんわかとした会話は、長く続いた。

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