第68話エリザベスとエヴァは直人の部屋に②直人のおもてなしと、秘儀
私、エリザベスは、エヴァの笑顔に驚くばかりだ。
それと、エリザベスを笑顔にさせてしまった直人の表情や、言葉にも。
エヴァは、私がニューヨークに住んでいた時からの、厳しいメイド。
年齢は、エヴァが5つ、上。
体格も立派で、頭脳でも太刀打ちできなかった。
(メイドに支配されているような感じだった、エヴァが常に正論で、抗弁など、とても無理)
また、超巨大軍事企業創業家の娘といっても、私の上には、何人も立派な兄や姉がいる。
まして、母は父の愛人。
万が一の誘拐を心配して、12歳の時に、この紀州のアフロディーテに預けられたけれど、その実態は本妻による「厄介払い」であることも、承知している。
あてがわれた部屋は、広い部屋ではあった。
しかし、窓がない、暗い部屋。(牢獄のような部屋だ)
支配人からは、万が一の外部からの襲撃を配慮したとの説明だった。
でも、窓がない部屋は、どれほど広くても、息が詰まる。
ましてや、厳しいだけのメイドのエヴァに、常に監視されている。
しかし・・・この直人の部屋で・・・エヴァが笑っている。
しかも、スウェーデンのケーキの話で。
直人の事情も実は、調べてある。
非情に危険な行為を白昼堂々とされたものだと思う。
その後の負傷や、家族との突然の別れも、可哀想だ。
(私のような愛人の娘ではない、しっかりとした、マトモな家族だったのだから)
「元カノ」にフラれたは、私にどうでもいい。
(その元カノが、次の彼氏に殺された云々はともかく、私には関係ない話だ)
その直人の笑顔は、見ていて、スッキリする感じ。
実は、ジョークを言い合えるような、そんな笑顔だ。
直人が、エヴァとばかり話しているので、私も割り込んだ。
「『食べさせられるまま、飲まされるままも、退屈かな」って何かあるの?」
直人は、ニコニコだ。
「あのさ、自分でお茶とか珈琲とか淹れられるよ」
「目の前のマルコ・ポーロも僕が淹れた」
「お客様に主人がお茶を淹れる」
「日本の茶道の精神かな」
「そんな当然のことを思い出したんだ」
エヴァも頷いた。
「確かに、おもてなし、の心ですね」
「好きです、その考え方」
「先ほどは、その逆の心でした」
エヴァが謝罪するのを、直人はまた止めた。
直人は、エヴァの手を揉んだ。
「エヴァさん、それはやめようよ」
「ここは、僕の部屋」
「それより、手もコリがあるね」
「気を張り過ぎだよ」
私は、また驚いた。
あのカタブツのエヴァが、直人に手のひらを揉まれ、途端に蕩けたような顔になっているのだから。
エヴァの呼吸も深い。(もともと乳房が大きいので、波打つような感じ)
「あの・・・直人様・・・身体がじわじわと、温かくなって」
「眠くなります、いい感じです」
「弱くもなく、強くもなく」
直人は、エヴァの手のひらを、あちこち揉む。
エヴァがトロンとする中、不敵な笑い。
「今、身体のどこか・・・おかしくない?」
エヴァの顏を見ると、真っ赤になっている。
私は、直人に聞いた。
「何のツボ?」
直人は、低い声で笑った。
「性感のツボ・・・どう?エヴァ?」
エヴァは、泣き顔で直人を見ている。
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