第58話ハプスブルグ家のマリアと直人③

私、マリアは直人と手を握ったまま、ブラームスの二番交響曲を聴いた。

直人は、途中、手を離そうとしたけれど、許さなかった。

(私より、細くて美しい指を、楽しみたかったから)

でも、そんなことをしながら、実に不思議だ。

このハプスブルグ家の直系の娘が、日本の平民の少年の「トリコ」になっているのだから。(逆の立場なら、わかるけれど)


演奏中、直人から、何のアクションもない。

直人は、演奏を聴くのに集中していた。

(直人を、ブラームスに取られたような感じ、嫉妬もあった)


反応があったのは、演奏終了直後。

直人は、強引に私の手を振り切った。

(拍手するため)(私は、拍手を一瞬忘れていた)


直人は笑顔だ。

「すごい盛り上がり、いい演奏だった」

(私の手の感想はないの?)

ちょっと悔しかったから、無理やり直人と腕を組んだ。

(あまり大きくはないけれど、胸も意識的に当てた)(まだ16歳の胸だ)


「直人の部屋に行きたい」(お約束でしょ?行こうよ!)

「あ、そうだったっけ」(もう!気を揉ませるし)

「大きな部屋と、日本の男子高校生そのものの部屋があるよ」

「大きな部屋は、ホテルみたいな部屋なの?」

「うん、きれいに整理されている」(直人は、どうも、こっちに誘導したいようだ)

「日本の男子高校生の部屋にしたい」

「マジ?無愛想だよ」


私は、ギュッと直人の身体を引き寄せた。

「だって、その方が面白いもの」


(直人は、苦笑いした)

「お嬢様が入るような部屋でないよ」


「アヤシイ部屋なの?」

「うーん・・・普通」(どこかにゴマカシを感じた)


そんな会話の後、直人の部屋(日本の男子高校生の部屋)に入った。


直人は、本棚を背にしている。(離れようとしない)

「狭いでしょ?」

「机、ベッド、洋服ダンス、本棚を6畳間に押し込んであるから」


でも、私は、そのコンパクトさがいい感じ。

私の部屋のような、「いかにも伝統ある装飾ばかり」の部屋より、落ち着く。

ヨーロッパの大学生の下宿部屋のような気もする。


「直人、本棚の前にいるのはどうして」

(直人のメイドの杉本瞳と南陽子が、苦笑している)


直人は、抵抗を見せた。

「男の子専用の本があって、女の子には毒」


「は?何?それ」

「見たいな、それ」


私は、直人の抵抗を許さなかった。

直人が隠していた「男の子専用の本」を、すぐに見つけた。


「ふむふむ・・・これね」

「他の女子から聞いたことあるよ」

「ヌードが好きなの?」

「この子は可愛い、でも、この子は・・・貧乳」

「うわ!胸のおばけ」

「この子は、お尻が、すごいなあ」

(でも、見ていて、面白い、女の子が脱いだだけだから)

(これなら、私が勝てると思った)

(かなり興奮してしまったかも、女の子なのに)


直人がベッドに座って、弁明を始めた。

「持っていない人のほうが少ないよ」


私は、直人の隣に座った。(弁明は、どうでもよかった)

「でも、何か自由な感じだよ、直人」

「これならハプスブルグも何も無い」

(直人を横抱きにした)

(ヌードを見たからかもしれない、身体の熱さを感じていた)

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