第56話ハプスブルグ家のマリアと直人①
私は、マリア、16歳。
ハプスブルグ家の直系。(現当主の三番目の娘、上には二人の兄がいる)
だから、ハプスブルグ家内での立場は弱い。
しかし、対外的には、異なる。
民主主義全盛となった現代でも、旧ハプスブルグ家の領地(オーストラリアを中心とした地域、そしてスペイン地域)では、「貴種である直系」を利用して「ハプスブルグ帝国」の復活を目論む集団もいるし、また一族の全抹殺(帝国復活可能性の壊滅)を狙う集団も存在する。(そのような集団の争いに巻き込まれないために、私は13歳から、この日本の「紀州」アフロディーテに隔離されている)
(日本語教育も施された)
さて、私は、この紀州アフロディーテ・ホテルでも、(身の安全を確保されながらも)、他の滞在者(避難者、隔離者)から、相当の敬意を持って、接してこられた。
やはり、欧米人にとって、ハプスブルグ家の栄光や気高さは、別格なのである。
かつての帝国皇帝玉座での謁見儀礼、贈答儀礼は、当然守られた。
(それが実質的な帝国復活につながらなくとも)
(栄光あるハプスブルグ家の直系の娘と面会できただけでも、欧米人には、身に余る光栄なのだから、その意味で高額な贈答品は、当然なのである)
しかし、今日の「お相手」は、全く別だった。
まず、日本人の少年だった。(18歳と聞いた、でも、子供のような可愛い顔だ)
そして、一番懸念されたのは、「平民」であること。
ヨーロッパの中でも最高クラスのハプスブルグ家の私が、何故、文化的に劣る日本の、平民の少年と、一緒の席につかなければならないのか。
(いかに、巨大コンピューター『アフロディーテ』のセッティングにしても、ありえないと思った)
その日本人の「平民」は、ボソボソと「直人です」とかと名乗っただけ。
この私に対しての謁見儀礼も何も無い。
贈答儀礼も、何も無い。
(やはり、文化程度に劣る、東洋の日本の平民の息子、と判断した)
(だから、身を避けた)
(それで、お辞儀ぐらいは、すると思った)
(あるいは、日本文化特有の謝罪儀礼の、土下座)
(それ以上に期待したのは、日本人の謝罪の究極儀礼「ハラキリ」、血を見る直前で、許しを与えようかと思っていた)
(ハプスブルグ家の慈愛あふれる寛容を示そうと思った)
しかし、事態は、「予想外」に展開した。
何と、「直人」から、この私が「拒否」されたのである。
(私は、気が動転した)
(何故、文化的にも、身分的にも、天と地ほどの差がある日本人の平民の少年に、袖にされるのかと)
(この紀州のアフロディーテにも、ブルボンやロマノフの後継もいる・・・おそらく、このコンサートホール内にも)
(そんなことが知られれば、ハプスブルグの恥辱と、本国に伝わるのは必至)
(ヨーロッパの社交界で、酷い噂が広まってしまうことも必至)
メイドたちが、協力して、直人を連れ戻してくれた。
ブスッとした顔で、直人が隣に座った。(私の顏など、何も見ない)
悔しいから、私の方から、直人を見た。(振り向かせたかった)
しかし、直人は、ステージを見たり、他の聴衆に目をやるだけ。
横顔は、可愛いと思う。
肌もきれいだ。(負けそうだ)
この私をフルのだから、気は強いと思う。
少なくとも、ヨーロッパの権威とか栄光を、何も感じていないと思った。
直人の手を見た。
美しく細く長い指だ。
触りたくなってしまった。(少しでも、振り向かせたいから)
そっと手を伸ばした。(身体も寄せた)
・・・しかし・・・また予想外の事態だ。
直人が、鼻をハンカチで抑え、私から身体を離したのである。
驚いた私に、直人が厳しい顔。
「香水がキツい」
「少なくとも、僕は苦手」
「ドレスの香水と髪の毛の香水、混じって変な匂いになっている」
「それ、自分でわからない?」
「実は、無神経なの?」
私は、慌てた。(どう返していいのか、全くわからない)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます