第49話まさかの昭和レトロお好み焼き屋

直人にとって、まさかの「お好み焼き屋」だった。

しかも、昔ながら(昭和的、庶民的)な、内装。

油に汚れた壁に貼られた、美空ひばり、キャンディーズ、ピンクレディ、東映のヤクザ物映画のポスターが、いかにも「昔ながら」の昭和レトロ感を増幅させる。

また、今は2時間ドラマで主役を張るベテラン女優の、若かりし頃の水着のポスターは、驚いた。

(昔は、こんなにきれいだったのか、と・・・)(女性を視る目も変えなければと)


店内に置いてある小さな冷蔵庫は、昭和30年代のグリコのマーク。

その中には、ラムネ、珈琲牛乳、フルーツ牛乳、コーラ、緑色の瓶のスプライト、チェリオなど。

また、駄菓子の類も、呆れるほどに多い。

珈琲シガレット、ベビースターラーメン、かっぱえびせん、酢漬けイカ・・・


ウルトラマン、ウルトラセブン、おばけのQ太郎の人形。

古い少年漫画も、無造作に山積み(しかも、お好み焼きの油に汚れて)。


直人が驚いて、店内をキョロキョロしていると、田村涼子が笑いながらハリセンで後頭部をポカンと軽く叩いた。

「直人君、マジに昭和でしょ?」


直人も笑ってしまった。

「そうですね、なんか・・・」

「異世界なのか、タイムスリップなのか」

「元気な世界だなあと」

「まさか、ホテル・アフロディーテに、こんな店があるとは」


田村涼子は、赤い小さなテレビを指差した。

「ドリフターズの階段落ちだしね」

「こういうの好き?」


直人は、素直に笑った。

「面白いです、無条件に」

「すごい生命力かなあと」

「ドギツイと思うし、現代なら叱られることを平気でやって」

「でも、面白いなあ」


田村涼子は、直人をお好み焼きの鉄板の席(これも昭和レトロ風)に導いた。

「私、豚玉にする、直人君は?」

直人は迷わない。

「イカ玉と・・・あ・・・ネギ焼きも」

田村涼子は、また笑う。

「お・・・食欲出て来たね、ネギ焼き少しもらっていい?」


直人は、ニコッと笑う。

「はい、涼子さん、うれしい店で元気が出ます」

(飲み物は、直人がコーラ、田村涼子が緑の瓶のスプライト)


直人は、また少し店内を見て、うれしいものを発見。

「涼子さん・・・おでん食べたい」

田村涼子の動きも速い。

直人の袖をグッと掴んで、おでん鍋の前に(おでん鍋も年季が入った昭和風)


直人

「大根と・・・はんぺんかな」

田村涼子は別の場所を見た。

「私は、稲荷寿司にする、関西風のがある」

(稲荷寿司も、結局2個になった)


鉄板前の席に戻ると、いかにも昭和風の白い割烹着を着た「おばちゃん」が、お好み焼きの具を持って来た。

「あんたたち、自分で焼けるよね」

(直人も田村涼子も、同時に自分の腕を叩いた、つまり、任せなさいのポーズ)


実際、直人も、田村涼子も、お好み焼きは名人級に焼いた。

直人

「この最初の丁寧な混ぜ方と、時間の見極め、ひっくり返す時の手首は、誰にも負けません」

田村涼子は、ハフハフと食べる。

「美味しいものを食べる前に、ゴチャゴチャ理屈を言わない」

「まあ・・・私なみに焼けることは、認めてあげる」


直人

「おでん、美味しいです」

田村涼子は、口いっぱいに稲荷寿司で、モゴモゴ。

「ため口でいいよ、肩が凝る」


直人

「涼子ちゃんでも?」

涼子は、笑った。

「うわ・・・うれしい・・・ドキドキする」

(その口から、お好み焼きのソースが少しこぼれている)

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