第48話初めての哲学講座後の討議 直人は年上美女に弱い

直人はためらっていたけれど、田村涼子の方が動きが速かった。

(実際、直人は年上美女の田村涼子に、相当気後れしていた)


田村涼子は、スッと自分の机と椅子を、直人と向かい合わせにしてしまった。

(直人は驚いたけれど、これでは逃げられないと理解した)

そのうえ、主導権を握って来た。

「ねえ、討議するんだよね、それとも自分で考えたいの?」


直人は、実際、慌てた。

(とにかく正田講師が語ったニーチェの思想が大き過ぎて、自分の理解が追いついていないのも事実だから)


田村涼子は、そんな直人に構わず、討議を始めてしまった。

「神も道徳もない、全て虚像」

「だから神は死んだ」

「そこについて、直人君はどう思うの?」


直人は、頭がグチャグチャになっているので、答えも中途半端。

「確かに、でっちあげ、とするニーチェの考えも有効」

「でも、そう言われても、長年真面目に信じて来た人々もいるわけで、無碍にはできないのかなとも、思います」


田村涼子は、直人に頷いた。

「私も、そう思うけど・・・けどね」

「酷い宗教人も多いからね、苦しむ人の金をまきあげるような輩」

「お前の先祖の供養のため、お布施をよこせ、とか」

「天国や浄土で金を使うのかなと、不思議に思うよ」


直人は、頭の中をグルグルと回転させながら応じた。

「たとえば、キリスト教、仏教もそうかな」

「本来は、弱い人を慰めます、そうでない場合も多いのですが」

「この世では難しいけれど、神とか仏が、あの世で救います、あの世では楽になりますよと」

「むしろ、そのために、神とか仏様がおられると」


田村涼子は、真面目な顔で直人に応じた。

「だから、人は、この世で苦しむ自分の弱さを認めて、神とか仏に全てを委ねる」

「大金を払わせ、その後の生活に支障を来させるような宗教集団もあるよね」


直人は、田村涼子の「全てを委ねる」に反応した。

「他者に全てを委ねる、自分の判断力を持たない、となるということは」

「奴隷と同じですよね」

「宗教は、神や仏は、現実世界の悲惨な事実に対して諦めろ、来世とか天国で何とかと言って。人を奴隷にさせているだけ」

「ただ、現実は、神や仏はこの世には実在しないので、宗教者だけが大金を受け取って儲かるシステム」

「だから、そんなことは無駄だからやめて、辛くとも、それを乗り越えて生きろと」

「そんな感じに、今はとらえています」

「実に厳しいですが」


田村涼子の目が大きくなった。

「なんか・・・スッとしたような・・・結論は厳しいけれど」

「直人君、頭いいよ」


直人は、腰を引いた。

田村涼子のような、「美人で賢そうなお姉さん」に言われると、実に恥ずかしい。


田村涼子は、にっこり笑って、話題を変えた。(既に立ち上がっている)

「ところで、お昼を一緒にしない?」

「考えたら、おなか減った」


直人も立ちあがった。

「何か食べたいものは?」

(お昼を一緒程度なら、断れない)


田村涼子の動きが、速く、なめらかだった。

(あっという間に、直人と腕を組んでしまった)

「直人君を食べたい」


(直人は、一瞬でガチガチになった)

「あ・・・美味しくないです」

(直人自身、完全にマウントを取られていることを自覚した)


田村涼子は、腕どころか、胸まで当てて来た。

「直人君の前に、食事する」

「私の選ぶ店でいい?」

「上品なお店には行かないけれど」


直人は、緊張して、口がカラカラ。

「おまかせします」とだけしか、言えない程だった。

(直人は、年上の美女には、昔から弱かった)

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